テクニカルノート

サクラ咲く

文:佐竹 一秀 2009年4月1日

開花予想はソメイヨシノで

サクラ咲く季節となりました。このニュースレターがお手元に届く頃には、桜前線は東北地方で最も開花の早い小名浜付近にあるはずです。そして仙台も4月5日頃に開花する予定です(仙台管区気象台の開花予想がハズレなければですが…)。

小岩井の一本桜:エドヒガン

小岩井の一本桜:エドヒガン

桜前線(サクラの開花予想)はソメイヨシノの開花を基準にしています。ソメイヨシノは、江戸中期から末期にオオシマザクラとエドヒガンの交配により園芸種として作られました。その後、葉が出る前に花が咲くことや、開花も華やかであることから好まれ、明治以降全国的に植栽されました。交配種(雑種)ですので、花の時期が終わってもほとんど実をつけず、実をつけたとしても、その実から発芽できません。そのため、接木等で増やすことが一般的です。いわゆるクローンです。また、クローンですので遺伝子が同じです。条件が同じであれば同じ時期に一斉に咲きます。そのため、桜前線を表現するのには最高の花(樹木)と言えます。ちなみに名前の由来は、江戸の染井村(現在の東京都文京区駒込)の植木職人達により「吉野桜(ヤマザクラの意)」として売られましたが、奈良県の吉野地方の桜と間違われるので「染井吉野(ソメイヨシノ)」としたということのようです。

温暖化の影響?

今年、東京では3月21日に開花しました。これは平年より1週間早く、また九州の福岡(3/13)や宮崎(3/16)などでは観測史上最も早い開花でした。これも地球温暖化の影響でしょうか?

仙台のソメイヨシノの開花日
平年値
(1971~2000年)
4月12日
最早年月日2002年3月29日
最晩年月日1984年4月28日
年代別
平均値
1950年代4月11日
1960年代4月13日
1970年代4月15日
1980年代4月15日
1990年代4月9日
2000年代4月8日
観測年の総平均4月12日

仙台ではどうでしょうか?
仙台の平年値は4月12日です。この平年値は過去30年の平均値です。ただし、10年単位での30年間の平均なので、2011年までは1971~2000年のデータを用いています。また、仙台管区気象台のホームページに過去のソメイヨシノの開花日のデータ(1953~2008)がありました。そのデータを基に次の表を作成しました。

10年ごとに見てみると1990~2000年代は開花が早くなっているように見えます。やはり温暖化でしょうか? 下のグラフを見て下さい。このグラフは開花日を10年間の移動平均で示したものです(1962年は1953~1962年の10年間の開花日の平均値、1963年は1954~1963年の平均値、このように順番に1年ずつずらして平均したグラフです)。1987年までは開花日が年々遅くなっていますが、それ以降年々開花日が早まっています。やはり、温暖化?

仙台のソメイヨシノの開花日の平均値(過去10年間の移動平均)

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開花のメカニズム

温暖化がサクラの開花に影響を与えているようですが、開花のメカニズムはどうなっているのでしょうか。仙台管区気象台のホームページに少し解説されていました。

サクラは夏頃に翌春咲く花のもととなる花芽(かが)をつくり休眠に入ります。花芽は低温にある期間さらされると休眠から覚めます。これを休眠打破といいます。休眠からさめた花芽は気温の上昇とともに生長し開花します。そのため、休眠からさめた春先の気温が、開花時期の遅い早いに影響を与えます。一般的には暖冬の年は開花がはやく、厳冬の年は開花も遅くなります。

仙台では1984年(昭和59年)4月28日が最も遅く、2002年(平成14年)3月29日に最も早く開花しています。また、最近の傾向として気温の高い九州以外の地域でも開花の早い地域があります。それは都市部でのヒートアイランド現象が関係しているようです。ヒートアイランドというと夏の熱帯夜が増加するイメージが強いですが、冬の気温にも影響をあたえているようです。これはサクラにとって大きな問題になるかもしれません。冬の温暖化がさらに進行すると、サクラの花芽の休眠打破が起きにくくなります。南の地方や都市部では特に考えられます。サクラの開花が遅くなったり、花のつきが悪くなったり、バラバラに咲き出したり、咲かなかったりと、花見どころではありません…。

休眠打破

休眠打破の話を少し発展させます。今回の休眠打破はサクラの開花についてでしたが、それ以外にも種からの発芽にもあります。サクラの開花では温度(低温)がきっかけでしたが、発芽の場合は温度以外にも、水分(湿度)、光(照度)、熱(山火事)、化学物質等々があります。植物の種子はそもそも休眠中です。それが周辺の環境状況をキャッチし、芽を出しても大丈夫か、その後も生き続け種子を残せるか、を判断して発芽します。その判断により休眠打破が起こります。

種子の発芽能力は何十年も保たれる

話は昔に飛びますが、19世紀にアメリカで、植物の種子を土に埋めて、何年か後に掘り出して発芽能力を試す研究が行なわれました。長い年月、弟子から孫弟子、ひ孫弟子と引き継がれて行なわれた結果、メマツヨイグサを含む数種の種子は80年以上も発芽能力を保っていることが確認されました。

オオマツヨイグサ

オオマツヨイグサ

メマツヨイグサは漢字では「女待宵草」と書きます。少しドキドキする風流な文字です(私だけでしょうか…)。マツヨイグサの仲間は、真夏の夜に黄色の花を咲かせるため、月見草や宵待草とも呼ばれ、この名前で知っている人も多いと思います。漢字を見る限り日本産の植物と思われがちですが、先の実験のとおり北米原産です。明治時代に観賞用に移入されたものが、現在は雑草として野生化しています。

メマツヨイグサの種子は、草などで覆われた場所に落ちた場合には何年も何十年も発芽しません。何らかの理由で草などがなくなり、太陽光を十分に得られる環境になったとたん、発芽が開始され成長します。これも光による休眠打破です。そのほかにはアメリカやオーストラリアで、山火事等により種子が割れて飛び出し、発芽する植物の話を聞いたこともあるのではないでしょうか。また、日本で古代ハスというものが知られています。遺跡中から発掘されたハスの種子に水分を与えたところ、発芽して花が咲いたというお話です。この場合は2000年以上も土中で休眠していたことになります。凄い忍耐力です(私には無理です…)。

シードバンク
ミズアオイ

ミズアオイ

土中や底泥中に植物の種子を埋没(保管)している状態をシードバンクといいます。そのため、これらの種子を休眠打破させる事により、いろいろな植物を復活できる可能性があります。渡良瀬遊水池周辺の学校では、ビオトープ池にシードバンクを入れる取り組みが行われています。100種類以上の植物を発芽させることができ、その中にはミズアオイ等8種類のRDB種(絶滅危惧種)やシードバンクとして掘り起こした地点で過去30年間全く見られなかった植物種も復活させることができているようです。シードバンクからの植物の復元は、今後の伊豆沼自然再生やその他の地域においても取り入れられる技術の一つになるでは、と個人的には期待しています。

サクラの話の最後は、花見・ダンゴ・酒と楽しい話で締めくくりたかったのですが、花見の今後に危機を感じてしまいました。せめてもと思い、サクラ→休眠打破→シードバンク→自然再生→明るい未来へ、とつなげていければと思います。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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