テクニカルノート

タカの渡り

文:佐竹 一秀 2009年10月1日

伊良湖岬の鷹柱

「鷹ひとつ 見つけてうれし いらご崎」という芭蕉の句があります。これは愛知県渥美半島の先端にある伊良湖岬で詠んだものと言われています。宮城県ではあまり見ることがありませんが、伊良湖岬では9月下旬から10月下旬にかけて、サシバ、ハチクマ、ノスリ、ツミといった猛禽類(鷹の仲間)が大挙して伊勢湾を挟んだ三重県側へ渡っていきます。昨年の10月3日の記録では、一日にサシバ3,800羽、ハチクマ200羽、その他猛禽含めて4,100羽の渡りが確認されています。そのような日は蚊柱ならぬ鷹柱が見られ、壮観です。ただ上記の芭蕉の句が詠まれたのは12月とのことでしたので、もし渡りの時期であれば「鷹いっぱい 数えきれない いらご崎」となっていたのでは…。

渡りをおこなう猛禽たち
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サシバ

また、アカハラダカという小型の鷹は朝鮮半島から九州、沖縄、さらに南方へと渡っていきます。渡りの経路にあたる対馬で今月(9月)11日に一日で26,000羽余りが渡り、さながら川の流れのようだったという観察者のコメンでした。また1999年9月25日には一日で33万羽という記録もあるようです(凄い!)。

今回の猛禽類をはじめ、多くの鳥類は渡りを行います。ではどうして渡るのでしょうか? 詳細には解明されていないのですが有力な説は、食物に関係した渡りです。

特に今回のサシバ、ハチクマ、アカハラダカについては、食物と関連づけるとうまく説明がつきます。サシバやアカハラダカの餌はカエル等の両生類やヘビ、トカゲ等の爬虫類、あるいは昆虫類です。ハチクマは名前の由来がハチ(蜂の子)を食べるクマタカからきていますので、主に蜂の子を餌としており、ハチそのものやカエルやヘビ、昆虫類等も食べます。これら餌である両生類、爬虫類は冬には冬眠してしまいますし、昆虫類も冬眠あるいは卵等で冬越するために、餌にはなりません。そのため、秋には餌を求めて南方へ渡って越冬します。これが秋の渡りです。越冬地は常夏です。一年中餌となる両爬虫類や昆虫類が普通にいますので、そこでのんびり(かどうかは?ですが)生活します。そして春になると日本や朝鮮半島、あるいはさらに北方へ渡っていきます。ただ、越冬地は常夏ですので餌は普通にあるのですが…。また遠距離を渡りますので、途中に大型猛禽による捕食や、悪天候等で不慮の事故もあり、当然危険が伴います。

渡りは繁殖のため

それではなぜ餌がある地域から危険をおかしてまで北へ渡るのでしょうか。それには繁殖が関係しています。越冬地は常夏ですので季節変化がほとんどなく、餌となる両生爬虫類や昆虫類の量もほぼ一定です。そのため、それらを餌にして生息している猛禽類もほぼ一定となります。そんな環境で子育てをするとなると、育ち盛り食べ盛りの子供達の餌が不足してしまい、子孫を残せなくなります。生物にとって子孫を残せないことは種の絶滅を意味し、致命的です。一方、四季のはっきりした日本や、さらに北の地方では、春から夏にかけて生物が一気に活動します。当然カエルやヘビ等の餌の量が増えます。そこで、春に無理をしてでも北に渡り、餌の豊富な地域で、その豊富な餌資源を使って子育てを行います。これが鳥の渡りです(有力な説です)。

前にも書いたとおりサシバの主な餌はカエルです。また繁殖地の北限は東北地方中部です。それは北海道に渡るとカエルの量が少なくなり、繁殖が難しくなるためと考えられています。温暖化が進むと北海道でカエル達の生息環境が良くなり、個体数も増え、そうすると北海道まで渡るサシバがでてきて、いつか竜飛崎がサシバの渡り観察の重要なポイントになるのではと(よけいな)心配をしています。

近年、全国の鷹の渡りウオッチャーにより渡りのルートも徐々に解明されてきていて、観察データもリアルタイムに公表されています。(興味のある方はHawk Migration Network of Japanをご覧ください)

まだ謎の多い渡りルート
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ハチクマ

ただ、残念な事に宮城県内でのルートはよくわかっていません。サシバ、ハチクマの数も南の地方ほど多くなくないため、渡りが断続的となるからだと思います。北海道から渡ってくるハチクマも竜飛崎から日本海側を通るルートで渡っているようです。

秋の一日、見晴らしの良い場所で北の方向から渡ってくる猛禽探しはいかがでしょうか。上昇気流の発生する場所で旋回上昇を行い、その後滑空し、高度が下がればまた上昇気流を探して旋回上昇を行い、効率的に渡って行きます。ただ、対馬や伊良湖岬のように数多く渡る事はないと思いますので、一羽あるいは数羽が旋回上昇し南方向に流れていくだけですが。天気が良ければ心の洗濯にもなると思います。もし、そんな場所をみつけたら是非教えて下さい。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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