テクニカルノート

スプリング・エフェメラル(春の儚きものたち)

文:佐竹 一秀 2010年4月1日

春の妖精
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キクザキイチゲ

「スプリング・エフェメラル」の直訳は「春の儚(はかな)きものたち」ですが、皆さんは何を連想しますか?
儚い事だらけの世の中ですので、いまさら何…という感もありますが…実は早春の植物を言います。春、早いうちに芽を出し、直ぐに花をつけ、気が付いたときにはもう消えてしまっている植物達です。なじみのある植物ではフクジュソウやカタクリがそうです。ただフクジュソウは園芸店で売られているものも多く、それが家庭の庭先に植えられていて、自然の状態で目にすることは少なくなってきています。それ以外ではイチリンソウ、キクザキイチゲなどが知られています。別名「春の妖精」とも呼ばれています。

これらの多くは落葉広葉樹林の林床に生えています。落葉広葉樹林ですので春に芽吹き、夏には葉を茂らせ、秋に紅葉して、冬には葉を落としてしまいます。早春は芽吹き前ですので、林床にもよく太陽の光が届きます。その光をもらって光合成を行い、栄養を地下茎や球根に蓄え、広葉樹の葉が茂り、光が林床に届きにくい初夏には枯れ、地上から姿をけして、来春まで休眠しています。隙間産業といいますか、うまくニッチを得て生活をしています。これらの植物は虫媒花です。アブ等の昆虫を香りやきれいな花でおびき寄せて、受粉をさせてもらうのです。この昆虫のなかにも早春に活動するものがいます。先ほどのカタクリの花の蜜を吸いにくるギフチョウ、ヒメギフチョウです。これらも「スプリング・エフェメラル的」でこちらは「春の女神」と呼ばれることが多いです。

カタクリが花をつけるまで
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カタクリの花

可憐な花を付けるカタクリですが、種子から芽をだした年(1年目)は細い糸状の葉を出して初夏には枯れます。次の年は楕円形の葉を1枚出しますが同じように初夏には枯れます。次の年もその次の年もまたまた次の年も1枚葉を出して枯れてしまいます。それを7、8年繰り返して地下の鱗茎に栄養を蓄えます。そうして発芽してから8、9年目にやっと花を付ける事ができるのです。下積み生活が長い植物です。

この栄養分を蓄えた地下の鱗茎から抽出したものが片栗粉(カタクリコ)です。調理にいろいろと利用されていますね。ただ、花をつけるまでに長い年月を要し、花をつけ実を作るために蓄えられた養分を搾取するのは、なんだかとても忍びないですね。現在ではジャガイモから抽出したデンプンを片栗粉として売られていますので、安心して下さい。片栗粉ならぬジャガイモコ(馬鈴薯粉)が正しい名前と思うのですが…。

アリに種を運んでもらう!?
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林床に咲くカタクリ

カタクリにはもう一つ面白い生活誌があります。それは種子をアリに運ばせて、生育地を拡大することです。
ただ、アリもただでは運びません。実(じつ)は実(み)にしかけがあり、エライオソームという糖を含んだ物質を持っており、アリは餌として巣に持ち帰ります。その物質を食べた後に巣の近くに種が捨てられ、結果として生育地が拡大していきます(虫散布)。
カタクリの種子はエライ(オソーム)。

スミレの仲間もこのエライオソームを使って種子分散を行っています。種子の分散にもいろいろな方法がありますが、カタクリの生育する樹林地の林床だと風が余り吹かず、タンポポのように風に運んでもらえません(風散布)。また多くの植物の種子は鳥に食べられて(食べさせて)運んでもらい、移動先でフンをされることにより分散します(鳥散布)。しかしカタクリが種子を付ける時期は、ちょうど鳥の繁殖期になっており、多くの鳥はより栄養価の高い毛虫や昆虫を雛に与えるため、カタクリの種子を食べてはくれません。そのため、林床の働き者のアリの力を少しだけ借りることでうまく生育地を拡大して行くのです。これも春の妖精達の生きていく知恵の一つです。

間もなく仙台でも桜も咲きます。生物たちの活動が活発になります。儚い世の中ですが皆さん頑張って生きていきましょう。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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