テクニカルノート

アユ釣り解禁

文:佐竹 一秀 2010年7月1日

広瀬川のアユ釣り
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アユ

7月1日は広瀬川のアユ釣りの解禁日です。数年前までは通勤電車の中から、川に入り竿を振っている人がよく見えたのですが、東北本線の線路の付け替えが行われた後は、新幹線の高架橋が邪魔になり、見えなくなってしまいました。風情のあるいい風景だったのですが残念です。別に電車の中から見なくても良いのですが、アッ!今日は7月1日、それだけで嬉しくなりました。宮城県内の他の河川もほとんどが7月1日解禁ですが、関東以南では5月下旬~6月1日と早くなっています。

水温と生育事情

アユはご存じの通り年魚(1年で世代交代して死んでしまう魚)です。春に海から川を遡上し、上中流域で夏を過ごし、秋に下流で産卵をします。産卵がおわれば親魚は死んでしまいます。孵った仔魚はそのまま川の流れに身を任せて海に下ります。その後、沿岸域で過ごし春に遡上します。

もう少しだけ詳しく見てみましょう。
秋に卵から孵化した仔魚は6mm程度の大きさです。お腹に卵黄という栄養源をつけていますが、卵黄は4日間程度しかもちません。その間に動物プランクトンの豊富な海まで下らなければなりません。そのため、親魚は産卵環境として適切かつ海になるべく近い場所で産卵する必要があります。

春の遡上は川の水温が10℃を越える頃になると開始されます。
当然ですが北の地方は遅く、南の地域ほど早くなります。産卵も水温に左右されるため、北の地方の魚ほど早くなり、そのため海での生活期間が長くなります。東北地方では200日程度、四国では120~30日程度とかなりの差があります。海は餌の動物プランクトンが豊富なため、長く海にいる北の地方のアユは大きくなります。また、最近の温暖化の影響で、産卵が遅く、遡上が早まる傾向があり、遡上するアユが小さくなってきているともいわれています。小型になれば遊泳力も小さくなってしまいますので、途中の堰越えも難しくなり、上流域までの分散がうまくいかなくなります。分散がうまくいかないと、餌となる藻類の確保もままならず成長阻害も起こってしまいます。最近釣り人の間で「アユは小さく弱くなっている」と言われることも多いようですが、けっしてアユのせいばかりではないようです。

習性を利用した漁法
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アユのはみあと

川を遡上したアユは藻類を餌にして育ちます。石の表面に付着する藻類を主に食べますので、石の表面に「はみあと」と呼ばれる、藻類を口でこそぎとった跡を見ることができます。この餌の獲得のために縄張りをもって生活をはじめます。縄張り内に他のアユが侵入してくると、体当たりして追い出します。この攻撃性に目をつけたものが友釣です。おとりのアユの体にハリを付けて泳がせます。そうすると、侵入者を追い払うために、自分からハリに刺さりにいって、釣り上げられてしまいます。

このように、動物の習性を利用して捕獲をする方法は他にもけっこうあります。

アユの関係では鵜飼いによるアユ漁があります。長良川が有名ですが、首にまいた紐の絞り具合で、小さなアユは鵜の胃袋におさまり、大きなアユは喉の紐の所に引っかかり、吐き出させる漁法です。ちなみに川で行われる漁法ですが、使われているウはカワウではなくウミウです。近年はカワウの個体数の増加によるアユ等の食害が多く報告されていて、社会問題ともなっています。

話はアユからそれてしまいますが、広島で行われていた「アビ漁」というものがあります。これはアビ(正式にはシロエリオオハム)という鳥が、冬季に瀬戸内海に渡ってきて、円陣を組んでイカナゴを集めて捕る習性を利用しています。猟師さんがそのイカナゴを横取りするのではなく、そのイカナゴを食べに集まるタイやスズキを一本釣りで釣り上げる漁法です。鳥と人間の共同作業で、鳥には余り利益がありませんが、アビ鳥は神の使いとしてあがめられ大事にされていて、アビも人を馴れおそれることはなかったと言われています。ただ残念ながらアビ鳥の渡来数の減少から1988年を最後に途絶えてしまいました。

秋の産卵

秋になるとアユは下流に集まり産卵を行いますが、アユの卵は5~50mm程度の小石に産み付けられていることが多いです。ただ、そのくらいの大きさの石があれば良いかというと、もう少し大きな10cm~20cm程度の石も必要なようです。水深は30cm前後、流速は0,5m/s程度の環境でよく産卵されていますが、例外も多く水深1m以上の場所もあれば、5cm程度の所もあります。
また面白いのは親魚の体力がある繁殖初期には流れの速い瀬が好まれ、後期にはトロ場での産卵も多くなるようです。以上のように産卵環境といっても一様でなく、時期や水量、水温でいろいろな場所(多様な環境)が選ばれています。最近、アユの産卵場を人工的に作っている所もあるようですが、一様な環境を作ってしまうと、機能を十分に果たせない場合もありますのでご注意下さい。

天然?養殖?
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これもアユ!(稚魚シラスアユ)

ほとんどの河川では養殖された稚アユが漁協により放流されています。今まで書いてきたように、孵化し海に下ったアユが遡上したものを天然ものという言い方もしますが、遡上の障害物等も多くあるため天然ものだけでは個体数が少なく、釣り人のニーズに応えられないようです。養殖アユについて少し調べてみたのですが、河川に遡上する前の海産稚アユ、河口付近の河川産稚アユ、湖またはそこに注ぐ河口で採捕した湖産稚アユ(コアユ)、さらには、天然または養成親魚から採卵・受精して人工種苗生産が行われるようになり、養殖形態としても、短期養成や長期養成、長日処理によって成熟を抑制し越年させる電照飼育もあり、完全な養殖産業となっています(冒頭に書いたアユ釣りの風景から風情が消えてしまいそうですが…)

アユは川と海のそれぞれの環境の健全性と、川と海の連続性を確認、評価する上で指標となる種だと思います。何十年か先にはアユと言えば天然ものが当たり前の世界になる事を祈りつつ、アユの塩焼きで美味し酒を!

  • 【参考文献】
  • 高橋勇夫『天然アユが育つ川』築地書簡 2009年
  • 百瀬淳子『アビ鳥と人の文化誌-失われた共生-』新山社出版 1995年

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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