テクニカルノート

蝉時雨に思う…素数ゼミ(周期ゼミ)

文:佐竹 一秀 2010年9月1日

夏の虫の代表格、セミ
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羽化直後のアブラゼミ

残暑が余りにも厳しく、本当に秋が来るか不安です。そこで今回も夏の話題とします。夏の虫の代表は何でしょうか? 子供の頃、夏休みに捕まえたクワガタやカブトムシ、オニヤンマ…私はセミを推薦します。アブラゼミやミンミンゼミは声を想像しただけでも暑くなります。またヒグラシは少しだけ涼しくなった夕暮れを思い出させてくれて心地良いです。蝉時雨(せみしぐれ)という言葉もあったのですが最近はあまり聞かなくなりました。

13年または17年ごとに大発生

今回は日本のセミではなくアメリカのお話です。
数年に1回程度、ニュースになりますので後存知の方もいると思いますが、アメリカには13年または17年ごとに大発生するセミがいます。このセミは体長2~3cmで、アブラゼミの半分程度と小さく、アメリカの東部、中西部、南部に点在する限られた場所で大発生します。多い時にはその数80億匹。密度は1m四方に40匹、六畳間だと約800匹という数です。これが突如現れ、一斉に鳴きだすのですから、大変です。蝉時雨などと言ってはいられません。うるさい! やかましい! 場合によっては恐い!となってしまいます。騒音の話はさておいて、なぜ13年と17年の周期をもって大発生するのでしょうか? またどうして局地的なのでしょうか? 数を増やす事で外敵から身をまもり、個体を維持することに有利な方向への適応と考えられていますが、吉村仁静岡大学教授の説が興味深いので以下に示します。

氷河期が周期ゼミをつくった

昔々、アメリカの中西部から東部は豊かな森林地帯が広がっていて、そこにこのセミの祖先が住んでいました。このセミは普通のセミと同じように夏に地上に現れ、数週間の繁殖期間を鳴き過ごし、交尾後、雌は卵を枯れ枝等に産みつけて死んでしまいます。卵から孵化した幼虫は地面に飛び降り、地下に潜ります。それからは、木の根から養分を吸い取り生活を続け5~10年程度で地上に這い出ます。この生活を繰り返しながら種を維持してきました。この時の幼虫の成長には温度が関係していて、温度が高いと早く成長し、低ければ逆に長く地中生活を送ることになります。(これを温度依存性の成熟と言います。)

氷河期になると寒冷化が進み、豊かな森林地帯も冷たい雪と氷に覆われて、死滅する生物も多くでました。そのような状況下でも、地下水を水源地とする場所では植物も茂り、生物も細々と生きながらえていました。砂漠の中のオアシスのようなものです。ところどころにできたこのような場所を、レフィージアと言います。そこにこのセミの祖先が生きていました。この頃のセミは温度依存性により10~20年地中生活を送らないと成熟できませんでした。さらに地中の水分も寒冷化により少なくなり、幼虫の死亡率も高くなっていったと考えられています。レフィージア内で細々と子孫を残した個体は、兄弟姉妹間での繁殖をくりかえすしかないため遺伝子が似通ってきて、成長速度もほぼ同じ、成虫となって地上に出る時期も同じと、同じ性質のグループができてきます。また、何らかの原因で少しだけ成長がズレたセミは、成虫になって地上に出ても、そこには繁殖相手がおらず死んでしまい、結局その個体の遺伝子は残りません。

温度依存税から、時間依存性へ

その時期に温度依存性から、同じ時期に成熟する時間依存性に変化しました。また、レフィージア内にいれば繁殖相手はいるのですが、他のレフィージアに移動した場合は、ほとんど繁殖相手はいなかったと思います。また同じレフィージア内でもセミの多く集まる場所ができ、そこに集中する方が子孫を残しやすくなるため、集合性も出来てきました。

さて、氷河期が終わり暖かくなって、地中の水分や植物の根の養分も十分になったため、幼虫の生存率が上がりました。そのために、どんどん数を増やして大発生するようになりました。また、数が増えることにより、鳥などの天敵に捕食される事も少なくなり、さらに数を増やしています。ただ、このセミの持っている時間依存性による成熟は温度依存性に戻る事なく、現在に至っています。

時間依存性はなぜ13年と17年?

氷河期に同じ周期で成熟する話は何となく理解できたと思いますが、それがなぜ13年と17年になるのでしょうか。14年や15年では何がだめなのでしょうか。温度依存から時間依存に変化する時には、温暖な地方では10~15年、少し寒い地方では15~20年の周期をもったセミが混在していたと考えられています。

一つのレフィージアに10~15年周期のセミがいた場合、ある年は10年周期、ある年は13周期、ある年には12、15年周期の2つのグループが出ますが、全くセミの出現しない年もあります。違う周期をもった種が同じ時期に出現すれば、当然繁殖をして交雑します。二つの種が交雑するとメンデルの法則により、次世代は優性の周期で出てくると思いますが、3世代目は1/4確率で劣性の周期の子供が出てきます。

発生周期を他のグループと重ねないために

例えば13年周期のグループと15年周期のグループがある年に同時に出現したとします。この時に13年周期が優性(交雑した場合に、他方より次世代に引き継がれやすい)であれば、2世代目は13年周期のみとなりますが、3世代目には1/4の確率で15年周期の子供が現れ、周期がズレてしまいます。周期がズレれば当然配偶者にめぐまれる確率は少なくなり、子孫を残しにくくなります。まして氷河期という厳しい環境下ですので、個体数の減少はそのグループ全体の絶滅に直結します。そのため、他の周期のグループと同じ時期に発生しない事が生き残りのためには重要となります。

発生時期の重なりやすさは中学校の時に習った、最小公倍数の話で説明できます。以下の表が10年~15年周期の発生が重なる年数です。10年周期と15年周期では30年、12年周期と15年周期では60年と短く、14年周期と15年周期では210年後と長いのですが、13年周期が総じて長いことがわかります。ついで11年周期。15年周期以降については表に示しませんが17、19年周期が発生の重なる年が長くなっています。

表 二つの周期の重なる年数
-10年周期11年周期12年周期13年周期14年周期15年周期
10年周期-110601307030
11年周期110-132143154165
12年周期60132-1568460
13年周期130143156-182195
14年周期7015484182-210
15年周期3016560195210-
素数ゼミ
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クマゼミ

重なる年の長い13、17年は、いずれも昔数学でならった「素数」です。素数とは1とその数以外に割れない数です。上表が最小公倍数から作られているので、当たり前といえば当たり前なのですが…。そのため、吉村先生はこのセミを「素数ゼミ」と言っています。他には「周期ゼミ」という呼び名もあります。なお、11、19年も素数ですが、11年では未成熟のものが多く19年では逆に地中生活が長すぎて、モグラな等による捕食や細菌感染があり生き残れなかったのではないかと考えられています。

素数セミを私は見たことがありませんので、写真はありません。ネットで検索してもらえれば、簡単に確認できると思います。また、昨年と今年は素数ゼミの発生する年ではありませんでした。来年2011年はアラバマ州など13の州で13年周期の素数ゼミが発生します。もし来年6~7月にそちらに行かれる方がいれば、是非見てきて下さい。
写真のセミはクマゼミです。近年温暖化?の影響で分布を拡大しています。チョット前までは関東南部が北限だったのですが関東北部まで北進しています。間もなく宮城でも確認されるのではとの話がある要注意種です。
体も大きく声もでかい!なおさら暑い夏になります!

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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