テクニカルノート

エクリプス!(日食・月食?)

文:佐竹 一秀 2012年3月1日

今年もヒタキがやってきた
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ジョウビタキ(♂)

2月のE-TEC幹事会の時、事務所のベランダにジョウビタキの♀が顔を出してくれました。お気に入りの鳥の一つです。♂もはっきりとした色合いで良いのですが、やはり♀が可愛いです。このジョウビタキはスズメ大の小鳥で、冬鳥として日本に渡って来て、民家の庭先や都市部の公園等にもよく来ますので、見たことのある人も多いと思います。名前の由来は、雄の頭部の銀色にあります。銀髪そのものや、シルバーグレーのダンディな男性を「尉(じょう)」と呼ぶようです。

また「ヒタキ」については、鳴き声からきていると言われています。「ヒッ、ヒッ」と二度鳴き、続いて「カッ、カッ」と鳴きます。この「カッ、カッ」が、火を焚くときの火打石を打つ音に似ていることから、「火焚き(ヒタキ)」の名が付き、併せて「尉火焚き(ジョウビタキ)」になったと言われています。また、翼に白い班点があることから、紋付き鳥とも呼ばれます。春から初夏にかけての繁殖期以外は群れで過ごすことが多い鳥達ですが、ジョウビタキは日本に来ている冬(非繁殖期)も縄張りを持ち単独で生活しています。窓ガラスや車のサイドミラーに映った自分の姿を敵と思い、攻撃を加えている姿も時々見られ、チョット変ですが、愛らしいです。

同種の♂を識別するため?
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マガモ(手前が♂、奥が♀)

冬に日本に渡来するカモ類もジョウビタキと同じように♂♀で羽の色がはっきりと違います。♀は地味な茶色系が多いですが、♂は綺麗な羽色です。各地の水辺に渡来する♂の姿は冬のバードウオッチングの楽しみの一つです。♂は着飾ることで♀の気を引き、番(つがい)をつくり、繁殖します。また、番になれるかは♀に選択権があるため、♂はより綺麗な羽をもつものが生き残り、進化していったといわれています。さらに、冬季は何種類ものカモが同じ沼や川に集まるため、♀が同種の♂を識別する必要もあり、より派手になったとも言われています。

非繁殖期の羽は地味な色

多くの鳥は春頃から繁殖羽(夏羽)に、繁殖後に非繁殖羽(冬羽)に換羽(かんう)します。しかしカモ類は冬に番(つがい)を形成することから、秋から冬に繁殖羽になります。番形成後、春になりシベリア等の繁殖地に戻ると、飛翔に関係のない部分から換羽が始まります。繁殖期後期には風切羽(かざきりばね)が一斉に抜けて、一時的に飛べなくなります。この時に♂は♀と同じような地味な羽色になります。♂のこの地味な色合いの状態を標題にあるエクリプス(非繁殖羽)と呼んでいます。日本に渡来したばかりの頃、晩夏から初秋には既に繁殖羽への換羽が始まっていますので、完全なエクリプスの状態ではないのですが、この地味な色合いの個体が多く観察できます。決してこの時期の群れには♀しかいないとか、♀だけが先に渡ってくるなどとは思わないで下さい。エクリプスの和訳は日食、月食などの天文現象の「食」の事です。♂が綺麗な羽根を落として♀と同じ地味な羽になり、♀の影に隠れるという所からきたのでしょうか…チョット解釈が難しいです。

♂♀がおなじ羽の色をしたカルガモ

カルガモというカモをご存知でしょうか。都心の池で繁殖し、自動車のビュンビュン通る道路を、ヒナを連れてヨチヨチ横断する映像がよくニュース等で取り上げられます。これがカルガモです。日本で繁殖しますので、他のカモ類とは異なり留鳥(りゅうちょう)ですし、日本で確認されるカモのうち、このカモだけ♂♀で同じ羽色です。なぜカルガモは♂♀で同色なのでしょうか。繁殖期には違う種類のカモがいないため、識別する必要がないとの意見もあるようですが、番形成の時期は冬ですので、まだまだ周辺には色々な種類のカモがいます。また、他にも低緯度の温帯から亜熱帯地方に定住するカモ類は、カルガモと同じように♂♀であまり羽色が違っていないという事実もあります。温度に関係するのでしょうか、理由はまだ解明されていないようです。理由を考えるのも面白いかもしれません…。

オシドリ夫婦の実際
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オシドリ夫婦(奥が♂)

もうひとつカモの話をします。オシドリもカモの仲間です。よく仲の良い夫婦の事をオシドリ夫婦と呼びます。一生仲むつまじく添い遂げ、夫婦の鏡のような言われ方もしますし、結婚式の祝辞の中にも時々出てきます。ですが、実際は違います。一夫一婦制をとってはいますが、変な言い方をすれば毎年相手を換えます。冬に♂♀が集まって番をつくり、繁殖期の子育ては♀のみ行い、♂はグループをつくって遊びまわり…、次の冬には♂♀が集まって新たに番をつくります。決して仲の良いオシドリ夫婦とはなっていないようです。また、カモなのにフクロウのように樹洞に巣を作り抱卵します。確かに外敵から身を守りやすいとは思いますが、生まれた雛が大変です。樹洞は数メーターの高さがありますので、そこから地上にダイブし、藪をこいで池などの水場にたどりつきます。

その他種間交雑(しゅかんこうざつ)も多いグループです。マガモとカルガモの合いの子で「マルガモ」、いろいろ面白い話の多いカモ類です。そろそろ北へ移動してしまいます。今年は寒い寒い冬でしたが、季節が確かに動いていることを実感させてくれます。ぜひ今秋の渡来期には「エクリプス羽」の地味なカモを確認してみて下さい。早いカモ(コガモ)では8月過ぎには戻ってきますので。

  • 【参考資料】
  • 日高敏隆監修『日本動物大百科第3巻鳥類Ⅰ』(平凡社、1986年)68-74頁
  • 上田恵介『♂♀のはなし-鳥-』(技報堂出版、1983年)98-99、134-137頁

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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