テクニカルノート

RDBな生き物たち

文:佐竹 一秀 2012年10月1日

ついに「絶滅」したカワウソ
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トキ(EW)

カワウソがついに絶滅!というニュースが最近流れました。平成24年8月28日に環境省から新たなレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト:第4次レッドリスト)が公表され、その時のトピックスとして扱われました。このリストにより、日本の絶滅のおそれのある野生動植物種は3,430種となりました。これまでは3,011種(第3次リスト:平成18~19年公表))でしたので、新たに419種が絶滅のおそれのある種になってしまいました。

RDBとRLの違い

タイトルのRDBはレッドデータブックですが、今回はレッドリスト(RL)の公表でした。このRDBとRLはどのような違いがあるのでしょうか。どちらも「絶滅のおそれのある野生生物」に関する資料ではあるのですが。RLはあくまでも絶滅のおそれのある種のリストと、絶滅の危険度のランク(カテゴリー)を示したものです。RDBはこのRLの掲載種について、個々にどのような生物か、どうして減ったか、あるいはどのような保護対策が行われているか等について解説した資料です。環境省によればRLは概ね5年ごとに改訂、公表を行い、RDBは10年ごとに改訂を行ない、次回は平成26年に公表予定との事です。

「赤」の理由

ではどうしてレッドリスト・レッドデータブックと「レッド」なのでしょうか。レッドという言葉は、例えばレッドカードやレッドゾーンなどのように、危険な、危機的なというイメージを連想させます。世界的な規模で絶滅のおそれのある野生生物については1966年に国際自然保護連合(IUCN)という団体から初めて発行されました。その資料はルーズリーフ形式のもので、もっとも危機的なランクに選ばれた生物の解説は、赤い用紙に印刷されていました。そのため、その用紙の色から、レッドデータブックと呼ばれるようになったとの事です。「日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-」も表紙はレッド(赤)です。

なお、RL、RDB掲載種については、捕獲、採取や飼育等の規制を法的に行なうもではありませんので、特に罰則規定はありません。だからといって捕獲や採取をしても良いということではありませんので、あしからず。

2012年に改訂されたRLの概要

◆カテゴリー(ランク)の概要
・絶滅 (EX):我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
・野生絶滅 (EW):飼育・栽培下でのみ存続している種
・絶滅危惧IA類(CR):ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い種
・絶滅危惧IB類(EN):IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種
・絶滅危惧II類 (VU):絶滅の危険が増大している種
・準絶滅危惧 (NT):現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
・情報不足(DD):評価するだけの情報が不足している種
・絶滅のおそれのある地域個体群 (LP):地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高い種

今回の改訂の概要及びトピックス的な種について以下に示します。

○全体として、調査や研究によって生息・生育状況に関する情報量が増加し、知見の蓄積が進んだことにより、新たに選定された種や、ランクが変更された種が多くみられました。
○増加が特に多くみられた分類群として、 昆虫類(第3次リスト:239種→新リスト:358種)。主にガ類や甲虫類等の評価が進んだことで、91種が新たに選定されました。貝類(第3次リスト:377種→新リスト:563種)では、主に、これまで陸域および淡水域から汽水域までとしていた評価対象種の範囲を、今回内湾の干潟等に生息する種まで拡大したことで、177種が新たに絶滅のおそれのある種に選定されました。
○今回、新たに絶滅(EX)と判断された種が、哺乳類で3種、鳥類で1種、昆虫類で1種、貝類で1種、植物I(維管束植物)で2種ありました。一方で、これまで絶滅したと思われていた種が再発見される等により、絶滅(EX)ではなくなった種が、貝類で4種、植物I(維管束植物)で3種(うち2種は栽培下で見つかったため野生絶滅(EW)に変更)、植物II(維管束植物以外)で4種ありました。

◆ニホンカワウソ

・(北海道亜種) 絶滅危惧IA類(CR) → 絶滅(EX)
・(本州以南亜種)絶滅危惧IA類(CR) → 絶滅(EX) 

ニホンカワウソの北海道亜種の生息記録は1955年、本州以南亜種では1979年が最後の記録で、いずれも30年以上が経過しています。過去の調査記録や目撃情報等を整理し、北海道亜種は1950年代、本州以南亜種は1990年代に絶滅したと考察した資料の発表もありました。またニホンカワウソのような中型の哺乳類が、人目に付かないまま長期間生息し続けていることは考えにくく、これまでの生息確認調査等の結果から絶滅したものと判断されました。

◆九州地方のツキノワグマ
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ツキノワグマ(撮影:遠野市)

・絶滅のおそれのある地域個体群(LP) → 削除

前回のリストで絶滅のおそれのある地域個体群(LP)に掲載されていた「九州地方のツキノワグマ」は、最後の確実な捕獲記録が1957年であり、既に50年以上が経過しています。また、その間の1987年に大分県で捕獲されましたが、その個体は、九州以外の他地域から持ち込まれた個体であることが判明している。これらを総合的に判断し、九州地方のツキノワグマはすでに絶滅していると考えられるため、今回のリストから削除されました。

◆トキ

・野生絶滅(EW) → 野生絶滅(EW) (変更なし)

2008年環境省より佐渡島での野生復帰が行われ、今年(2012年)の春に初めて野生下での繁殖に成功しました。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストカテゴリーによれば、「上位のカテゴリーに相当する基準が5年以上にわたって満たされない場合(すなわち下位のカテゴリーの基準を5年以上維持されることとなった場合)には、下位のカテゴリーへと移してよい。」と明記されており、5年以上の状況の継続が必要となります。この基準を参考とし、現時点では、絶滅危惧IA類(CR)の定量的要件D(成熟個体数が1~50未満であると推定される個体群である場合)を5年満たしていないことから、前回と同じ野生絶滅(EW)とされました。

◆ハマグリ

・新規 絶滅危惧II類(VU)

かつては青森県の陸奥湾から九州地方にかけての内湾、河口域に広く分布していましたが、1980年代以降の干潟の干拓や埋め立て、海岸の護岸工事等により生息環境が悪化したため日本各地で急減しました。仙台湾や東京湾の大きな個体群も、現在はほとんど見られなくなっており、各地の漁獲量は1970年代の5~20%まで落ち込んでいることから、今回新たに絶滅危惧II類(VU)に選定されました。なお、食用に「ハマグリ」として国内で流通しているものの多くは、中国や韓国等から輸入される外来種の「シナハマグリ」や、国内にも自然分布する外洋性の「チョウセンハマグリ」です。

ライチョウをトキの二の舞としないために
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ライチョウ(EN)

右の写真はライチョウです。今回の見直しにより絶滅危惧Ⅱ類(VU)から絶滅危惧ⅠB類(EN)に引き上げられてしまいました。1980年代には3,000羽以上いましたが、現在では2,000羽を下回っていると考えられています。個体数が1,000を下回ると、その種の絶滅の確率はかなり高まると言われていますので、かなり危機的です。減少の原因としては、観光開発による環境悪化、天敵のキツネやカラスの増加などが指摘されていますし、ニホンジカによる高山植物の食害や温暖化の影響で、環境がさらに悪化も心配されています。また、トキの二の舞にならないようにと、保護増殖計画が来年度から環境省によりより進めるようです。

今回の改訂で、一部の種が絶滅し、また絶滅危惧種が増えてきています。個人としては何も出来ないのですが、生物の危機な状況をお知らせすることで、皆さんの記憶の片隅に残り、少しだけでも生物に目を向けてもらえれば幸いです。
詳しく知りたい方は以下の環境省のホームページ等にアクセスして下さい。
絶滅危惧種検索
環境省_トキの名前選考について

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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