テクニカルノート

大震災から二年(生物達は?)

文:佐竹 一秀 2013年4月1日

大震災から二年
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ミズアオイ(H12.8.17広浦南で撮影)

3/11の14:46。ラジオから1分間黙祷…
運転中の私は亡くなられた方々のご冥福と、1日でも早い被災地の復興を心の中で願いました。あの時から2年たちました。

1年前の原稿を読み返してみました。「大震災から一年(生物達は?)」というタイトルでした。今回のタイトルは「大震災から二年(生物達は?)」…アッという間だったような、あるいは夢だったのでは?と思えるような、しかし復興はほとんど進んでいないという、被災地の現実があります。

ただただその日を生きるのに必死だった震災当時。1年後の昨年は、瓦礫の撤去はある程度進みましたが、復興の形が全くみえていませんでした。2年後の今日、瓦礫が撤去された土台だけの町は荒涼、殺伐とした風景が広がっていて、復興がさらに遠のいていくような感じがしています。

海岸地域の定期観測

生物の世界はどうなっているのでしょうか。震災後定期的に見に行っている広浦南の変化を写真に示します。この場所は、震災で津波をかぶり大きな被害を受けた仙台空港の東側にあり、防潮林とヨシ原、それにビニールハウスの立ち並ぶ畑地のある地域でした。海までの距離は防潮林、砂浜をはさんで500m程度、北側には名取川河口に続く潟湖(広浦)があり、その間にはヨシ原広がっています。また、西側に貞山運河があり、もともと湿地的な環境です。震災直後は復旧作業が行われていて、一般車両の立ち入り禁止等の規制もありなかなか近寄れませんでした。

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写真①(H11.5.5)

震災後2か月

最初に入ったのは震災から2ヶ月後の5/5(写真①)です。ビニールハウスが倒壊し、金属の支柱やビニールが散乱していました。また、地盤沈下により湿地環境が広がっています。また海岸沿いの防潮林はほとんどが倒れ、内陸側の一部が残存し、写真のような状態です。その後も海の干満による水の出入りがあり、湿地状態は継続されました。

砂が堆積し、塩分のためか植物の侵入はわずか

9月頃には写真②のようにビニールハウスの残骸は道路脇に片付けられましたが、その畑のあった場所は津波により運ばれた砂の堆積がみられました。塩分の影響があるためか、植物の侵入はあまり進んでいませんでした(写真③)。

この時期、夏から秋にかけては、ダイサギやアオサギ、カルガモ等の留鳥の水鳥や、旅鳥のソリハシシギ、ハマシギ、シロチドリなどのシギチドリ類も確認できました。また、冬鳥として渡来したコガモやタシギ等も確認できました。ただ瓦礫搬出のためにトラックが走り回っていました。

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    写真②(H11.9.11)

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    写真③(H11.11.13)

震災からほぼ一年が経過、湿地的環境が継続

その後はあまり変化なく季節が進み、植物は冬枯れし、たまたまですが雪景色の写真となりました(写真④)。震災からほぼ1年が経過しています。(かなり寂しい風景です)。

春になり植物が伸び始めましたが、あいかわらず水が多く湿地的な環境となっています(写真⑤)。シギチドリ類は期待したほど見られず、餌となる水生動物があまり増えていないと思われました。

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    写真④(H12.3.4)

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    写真⑤(H12.5.5)

少しずつ緑が増える

初夏になると植物の繁茂が進み(写真⑥)、カルガモやバン等の水鳥の繁殖を確認しました。さらに秋に入ると昨年は何も生育できなかった砂地も緑におおわれ、湿性植物も分布を拡大してきました(写真⑦)。この頃には貴重種のミズアオイの群落もみられ、またトンボ類のチョウトンボも多く飛んでいました。

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    写真⑥(H12.7.8)

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    写真⑦(H12.9.22)

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    チョウトンボ

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    ミズアオイの群落

人の手が加わり、環境が整理される

さらに、この地域に草刈が入り、11月には写真⑧のように、全面刈りはらわれました。また、倒壊から免れた防潮林は立ち枯れ状態でしたが、倒壊した樹林も含めて撤去作業がはじまりました。上の写真⑦と比べてみてください。画面左側に見えていた立ち枯れした防潮林が撤去されたことがわかります。今後は湿性植物がさらに繁茂し、それに伴い底生生物や魚類の生息数が増えてくれば、旅鳥であるシギチドリ類の中継地として、また、サギ類やカモ類等の水鳥の餌場や繁殖の場所としての利用も多くなり、それらを餌にする猛禽類も飛来し、湿地の生態系が整ってくると考えられます。

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    写真⑧(H12.11.16)

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    写真⑨(H13.3.10)

ただ、現在は倒伏枯死した防潮林の撤去や、海岸沿いの築堤工事のためのダンプ等の交通も多く、まだまだ生物の安住の地になっていません。さらに、名取市復興計画(H23.10)及び復興整備計画(H24.3)では自然体験型公園・農地として利用される計画になっていますが、水底をさらって土砂をとりのぞき、水深を深くして漕艇場とする案も示されており、どのような利用がなされるか注視しているところです。

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    写真⑩(H13.3.10:海岸部工事状況)

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    コチドリ

震災復興関連の事業はどう進んでいくのか

現在盛んに行われている震災復興関連の事業ですが、被災地の瓦礫撤去はある程度見えてきたような感じがしていますし、農地の津波堆積物の除去や除塩も進んでいるように見えます。また、これから本格化する防潮堤の築堤、被災住宅の高台移転、農地の圃場整備も控えていますし、関連事業の高速道路や国道あるいは地方道の整備も積極的に進められています。いずれも緊急性が高い事業ですので、最優先で行われていますが、一方で少し不安も覚えます。どこか高度成長期の開発事業にも見えてしまうのは私だけではないと思います。

震災の半年前、平成22年10月に生物多様性条約締約国会議(COP10)が名古屋で開催され、その中で生態系サービスの質の低下に歯止めをかけるべく、生態系や生物多様性の保全を積極的に推進するという話で盛り上がったと記憶しています。それが津波に流されたかのように、忘れ去られてしまったのではと、被災地にいて強く感じています。確かに復興はまったなしだと思いますが、復興事業を早期に進めつつ、一方で生物多様性の保全を確実に図って欲しいと願っています。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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