テクニカルノート

奇跡に近い三本松?!

文:佐竹 一秀 2013年7月1日

奇跡の一本松
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奇跡の一本松(H24.6.10撮影)

高田松原の「奇跡の一本松」の復元が完了し、7月3日に完成式が行われるようです。陸前高田市にある高田松原には約7万本の松が植えられていて、市民の憩いの場として、また、観光でおとずれた人々の目を楽しませてくれていました。そこに10m超の津波が襲い、松林を根こそぎなぎ倒しましたが、その中で一本だけ生き残ったのが「奇跡の一本松」です。樹齢は173年、樹高は27mありました。大津波には耐えたのですが、海水を被ったことや地盤沈下などの影響を受け、徐々に弱っていき、昨年5月に枯死してしまいました。その後保存のためのプロジェクトが立ち上がり、できる限り現状に近い形で保存されることになりました。幹は強度を保たせるために内部をくりぬき炭素繊維強化樹脂複合材を詰め、枝葉はレプリカを作り、土台はコンクリート基礎とし、これらをつなぎ合わせて今年の3月に完成…の予定でした。しかし、組み立て後に、枝の取り付け角度が違うことが解り、やり直しになってしまいました。そのため予定より遅れて、この6月の完成となりました。1年間程度は夜間のライトアップも行われるようですし、復興のシンボルとして地元だけではなく、私たちの力にもなってくれるものと思っています。

松の再生事業

一方で松そのものを復活させる計画も、住友林業が中心となって進められています。枯死する前の枝を取って接ぎ木することによる再生と、松ぼっくりから種を取って発芽させる計画です。接ぎ木による再生方法は3本の枝を取って行われ、現在80cm程度になり順調に生育していて、さらに接ぎ木を行って増やすことが可能になるとの事です。松ぼっくりから種を取って発芽させる方法については、震災直後の春に採取した種からは18個が発芽しましたがその後ほとんど育たず、3本だけが成長して、今年2月までに最大7㎝に達しました。その後自然環境にならすところで全て枯れてしまいました。本来、松の種子は秋に松ぼっくりが開いてそこから地上に落ちて発芽します。そのため、春に採取した種子は未熟な種子である可能性が高く、また津波を被ったりしていて、種子そのものが弱っていたと考えられています。

前述の保存プロジェクトで伐採した際にも約1,000個の松ぼっくりが採取されており、そこから75個の種が取れました。これらについても発芽が試みられています。前年の経験をいかし、できるだけ成育環境に近づけようと冷蔵庫での"越冬"後に、4月に温室の土に播いて観察を行なっています。良い条件を探るため、種ごとに水の量や土の種類、容器の形なども変えているようです。現在9本が発芽し、3~4cmの小さな苗に育っています。ただ、津波をかぶって2年が過ぎてからの種ですので、悪い状態の種であることは否めません。何とか無事に育って欲しいものです。住友林業さん頑張って下さい!

宮城県の名取にも「奇跡」の松

前置きが長くなり過ぎましたが、実は私がフィールドにしている名取の広浦の南、仙台空港の東側にも奇跡の松があります。

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奇跡に近い三本松(H25.6.22撮影)

名取の「奇跡に近い三本松」、私の勝手な命名です。写真の通りしっかりと残っています。この場所はもともと防潮林でしたが、津波により松が倒伏、枯死し、それをきれいに撤去した後に盛土を行い、現在は植林を待っている状況です。その奥には防波堤が作られ始めており、それらの工事にかからない場所にあったので残置されたものと思います。今後も残存されれば良いのですが…。

植林・移植は現地のものを…
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根本に松の幼木

右の写真は「奇跡に近い三本松」の根本の部分です。幹には津波により表皮がはぎ取られた痛々しい跡が写っています。また、○の部分には松の幼木が写っています(写真が小さくてわかりづらいと思いますが)。盛土された場所にも同じように松の幼木がたくさんあったと思います。この幼木を植林に利用することは出来ないのでしょうか…。掘り出すのに手間がかかり、形が揃わないので広範囲に移植するには向かないかも知れません。ただ、これぞまさにこの地に生えていた在来種です。遺伝子レベルでのかく乱も起きません。潮風にさらされ、津波にも耐えた事でもあり、耐塩性もあります。松以外にも移植できる植物がたくさんあると思います。さらにいうと、造成工事のまえにこれらの植物を移植用に確保し、残った雑草を表土(表砂)ごと剥ぎ取り、仮置きして、造成後に覆土する事は出来ないのでしょうか。多少、植物体を傷めてしまうとは思いますが、松のみを新たに移植するより、よい方法だと思うのですが…。

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松の移植場所

右の写真は盛土、造成された松の移植場所です。造成地の間に一部残置きされたススキ等の植生帯も残っていますが、この先撤去されるのでしょうか。この中にも松の幼木は残っていました。これを造成された上に被せるだけでも回復は違うと思うのですが・・・。(ちなみに写真に写っている三角形の木の「やぐら」は防風柵のようです。)

じっくりと取り組むべき分野も

確かに復興は急がなければなりません。しかし、防潮林の復元は長い時間が必要です。長い時間が必要なものは、人の手をかけてじっくりと行っても良いのではないでしょうか。その方が活着が良かったり、成育が早かったり、他の生物の侵入も早くなり、生態系全体としての回復力も期待でき、結果として防潮林が早く復元するのでは…と、思ってしまうのは私だけでしょうか。この場所以外にも被災地のあちらこちらで、もう少しゆっくり進めてもよい復興事業があるような気がしています…。

現地の造成速度、朝早くから動き回るダンプ。その傍らで力強く、そして青々と育っている松の幼木を見ると、チョッとだけ過激な書き方にもなってしまいます(反省)。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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