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バッタとイナゴ!

2013年10月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2016年10月1日)

イナゴ取りの思い出

稲刈りの終わった田んぼの所々に、これから稲刈りが行なわれる黄金色の田んぼが見られるようになると、小学校の頃に学校行事として行われたイナゴ取りを思い出します。方言でいうとハッタギ取りです。稲刈が終わる時期の2日間程、近くの田んぼに繰り出し、竹の筒に木綿で作った袋をつけて、手で一匹ずつ捕まえました。今だと、イナゴに触れられない子もいそうですが…。

朝早いうちは気温も低く夜露がおりて、イナゴの動きも鈍くて捕まえやすいのですが、昼が近くなり暖かくなると活発になり、とても手では捕まえきれません。そんな時に活躍するのが、厚手のビニール袋で作った大きな虫取り網です。それを持って畦や水路近くの草地の上を走り回ります。人の動きにあわてて飛び出したイナゴがビニール袋の網に面白いように入ります。また自転車に乗って、走りまわることでも同じように(それ以上に)取れます。ただ、杭に引っかかったり、自転車の操作を誤って転んだり、悪くすると用水路に落ちたりと、チョット危険です。これができるのは中学生くらいからでしょうか。小学校の低学年であれば、なかなか捕まえらません。そんな時には、おばあちゃんが手伝ってくれたりもします。捕まえたイナゴは午後に学校に持って行くのですが、その前におばあちゃんの家に寄ると、孫達にと少しずつ用意してありました。(おばあちゃん、ありがとう!古き良き時代のお話でした)

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    イナゴ(コバネイナゴ)

教材に変わったイナゴ

学校に持っていったイナゴは、個人ごとに重さを計り記録が残され、2日間の合計で競い合います。学年ごとにノルマが課されていて、たくさん取った人は表彰されたような気がしております。なかには悪い奴がいて、イナゴではなくカマキリやカエルを入れたり、水につけたり…。さらに石ころを入れる奴もいましたが、ハカリに載せるときにカツンという音がしてばれることもありスリリングでもあります。また、重さを量った後は大きな袋に入れるのですが、その時にカエルが飛び出し悪事がばれることもありました。それを佃煮業者さんに売って、学校の教材や運動用具が買われるのです。40年程前のお話ですが、今も行われているのでしょうか。

イナゴとバッタの違い

イナゴと似た昆虫にバッタがいますが、これらは何処で区別されているのでしょうか。学者さん達の間では相変異(そうへんい)を示すかどうかで分けられているようです。この相変異とは何でしょうか。実はとっても恐ろしいお話です。アフリカや中国大陸ですさまじい数のバッタが飛来し、緑という緑を食べつくし、他に移動して行くという話を聞いたことがあるかと思います。時にその長さ500km、途切れることなく空を覆いつくし、数メートル先が見えなくなるほどの数のバッタが飛び、地上部はおびただしい数の幼虫が這い回り、緑色の服の人が襲われ、服をボロボロに食いちぎられたという話もあるくらいです。すごい数のバッタが突然出現し、植物を食べつくしそして消えていく。このような行動をするバッタは飛蝗(ひこう)といわれ、虫の帝王といわれています。

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    トノサマバッタ

トノサマバッタも相変異する

悪魔と化すバッタは世界中で20種ほど知られていますが、私たちに馴染みのあるトノサマバッタもその一つです。普段見るトノサマバッタは緑色の体にこげ茶色の羽根をもっていて、草むらに単独でいることが多いです。幼虫も主に緑色で同じように生活しています。それがある事をきっかけに、悪魔の姿に変わるのです。幼虫の体色は黒にオレンジ色が混じった凶暴?な色に変化し、成虫も黒ずみ、そしてお互いに惹かれ合い、群れを形成し、幼虫は同じ方向に進行し、成虫は群飛し高い機動力を誇るようになります。このように群れて行動するタイプを群生相(ぐんせいそう)と呼び、単独で行動するタイプを孤独相(こどくそう)と呼び区別しています。この変化を相変異といいます。同じ種なのに、突如として色が変わり、群れ、凶暴になるという、実に不思議な変化です。

生息密度の高まりがきっかけ

それでは何がこの変化を起こすのでしょうか。単純に考えると生息密度が高くなると、そのように変化することが考えられそうです。密度というよりも、混み合いの程度がこの変化のきっかけになるといわれています。混み合いの程度とは、他の個体と相互関係、簡単にいうと体が触れあうことでの刺激が変化を引き起こします(他の要因も関係しているようですが、特に触覚部分への刺激がカギのようです)。そのため、実験室でも作り出すことができます。幼虫や成虫を狭い場所に閉じ込め、常に体が触れるような状況の中で飼育します。すると、幼虫は黒っぽい幼虫に脱皮し、成虫であれば2割ほど大きな卵を産み、卵から孵った幼虫は黒っぽく群生相タイプの幼虫になっています。トノサマバッタは5、6回脱皮を行ってから成虫になりますので、群生相になるチャンスは多くあります。ただ、面白いことに、幼虫期でも混み合い程度が低くなれば次の脱皮で元の単独相タイプに戻ります。一度悪魔に変身しても、途中で改心できるようです。

大きな被害をもたらす飛蝗

アフリカ北部からアラビア半島、インド西部にかけては、まだまだ被害があるようです。これらの地域で悪さをしていのはサバクトビバッタという種です。国際連合食糧農業機関(通称FAO)の中にある、サバクトビバッタ専門チームが献身的な対応を行ってはいますが、まだまだコントロールできていません。なかなか厳しい戦いのようです。日本も資金面での援助をしているとのことでした。少し前まで日本でも時々ですが発生していました。近い所では1986年の鹿児島県馬毛島での報告があります。種子島の西沖合い11kmにある周囲約12km、面積約820haの無人島ですが、10年ほど前まで人が住んでいて、バッタの好むイネ科やカヤツリグサ科の植物が農耕地後に繁茂し、そのうえ降水量の低下、山火事による焼け残りの草地への幼虫の集中が大発生につながったようです。このときの種はトノサマバッタでした。

イナゴに相変異はない

話はイナゴ取りに戻りますが、イナゴ取りの袋の中はイナゴだらけです。このような状態だと、あっという間に悪魔に変身してしまいそうです。が、幸いなことにイナゴはこのような行動はとりません。よかった、よかった。

最後に駄洒落を一つ。バッタが集まると群生相になり、悪魔に変身してしまいますが、個体数の少ないバッタはどうなるのでしょうか?

個体数の少ない…、
少量のバッタは…、
少量バッタ…

下の写真は「ショウリョウバッタ」です…。
なお群生相のトノサマバッタの写真は社内にはありませんでした(最近は発生していませんので)。もし気になるようでしたなら、ネットか下記参考文献でご覧ください。

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    ショウリョウバッタ

  • 【参考資料】
  • 宮武頼夫、加納康嗣『検索入門 セミ・バッタ』(保育社、1992年)203頁-207頁
  • 前野ウルド浩太郎『孤独なバッタが群れるとき サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版会、2012年)
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