テクニカルノート

「tokyo 2020」

文:佐竹 一秀 2013年11月1日

東京オリンピックふたたび
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ホンシュウトガリネズミ

表題は先月年東京オリンピック開催が決まった時に、IOCのロゲ会長が手にしていたボードに書かれていた文字です。前回は1964年ですので、当時私は9才。裸足のマラソンランナーのアベベや、バレーボール女子の東洋の魔女程度の記憶しか残っていません。それもその時の記憶なのか、その後の情報なのかもわかりません。

日本最大の人口密集地、東京

今回は話題のオリンピックではなく、「TOKYO」――東京の生き物の話です。東京都の人口(推計)は先月(H25.9.1)現在13,283,225人です。日本の総人口は1億2700万ですので、日本の1/10の人が東京人ということになってしまいます。人口密集地、コンクリートジャングル(死語でしょうか)、とても生き物が棲めるような場所ではないと思います。

「トウキョウ」とつく生きものたち

と言いながらも、名前に東京(トウキョウ)を冠した生物もいます。植物ではシダの仲間のトウキョウイノデ、両生類のトウキョウダルマガエル、トウキョウサンショウウオ、それと地球上で最も小さな哺乳類の1種のトウキョウトガリネズミです。頭胴長(頭から尾のつけ根までの長さ)5cm弱、尾長(尻尾の長さ)3cm、体重1.5g程度ですので、大人の親指に小さな尻尾を付けたような感じでしょうか。確かに小さい!トガリネズミといってもネズミの仲間ではなく、モグラに近く、鼻のとがった小型の哺乳類です。

東京にいないのにトウキョウ?
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トウキョウダルマガエル

トウキョウトガリネズミには「サイズが最小」以外にも面白い話があります。それは名前の由来です。トウキョウイノデ、トウキョウダルマガエル、トウキョウサンショウウオは当然のことながら、東京あるいは周辺地域に生息、生育しています。しかしながら、このトガリネズミは東京には住んでいません。北海道の道東地方を中心に生息しています。それではなぜ東京なのでしょうか。

エゾ?エド?

ヒントは昔の北海道の呼び方です。そうです「蝦夷(エゾ)」です。蝦夷と江戸の勘違いがこのような種名になったようです。1903年(明治36年)にホーカー氏によって捕獲され、分類学者のトーマス氏がSorex hawkeri と命名しました。学名はSorex minutissimus hawkeri (ホーカー氏が見つけた最小のトガリネズミ)となり和名は(モグラ目トガリネズミ科)チビトガリネズミの亜種トウキョウトガリネズミとなります。新種として登録するためには基準標本を設定する必要があり、その標本には採取年月日、採取地、採取者を書くことになっています。その標本のラベルに"Inukawa, Yedo"と記されていたため、「江戸の犬川」というところで採集されたものと考え「トウキョウトガリネズミ」としたのです。

呼び名を変えようにも…

ところがその後、いくら東京及び周辺で探しても見つかりませんでした。また、そもそも江戸に犬川という地名もなかったのです。それが1957年に北海道東部で再発見されました。そのため、Inukawa のInはMの読み違い、とすると Mukawaとなり、北海道の鵡川、Yedo は、日本の地名に不慣れなホーカー氏の聞き違い。または書き違い?でYezo(蝦夷)そのため、"Inukawa Yedo" は "Mukawa Yezo"'(鵡川、蝦夷)が正しいのでは、との話になっています。ただ、発見当時の明治36年は江戸ではなく東京が一般的な呼び名ではないか等々、まだまだ異論もあるようです。私も鵡川、蝦夷でいいような気もしていますが…、ただ、そこから先にもまだ問題があります。この主張に立つとトウキョウではなくエゾトガリネズミと呼ぶことになりそうですが、すでにといいますか、残念ながらといいますか、エゾトガリネズミ(シントウトガリネズミノの1亜種)という名のトガリネズミは存在します。なかなかうまくいかないですね。

書き間違いにはご用心

誤字、脱字、聞き違い、書き違い、後世に影響を与えないように、はっきりとそしてしっかりと記録は残さなくてはいけませんね。ニュースレターが紙になって出回ってから間違ってた!なんてことのないように、しっかりとチェックをしたいのですが、しているつもりですが、毎回毎回、編集者のK嬢にはご迷惑をおかけしています…反省。

  • 参考資料
  • 朝日稔『日本の哺乳動物』(玉川選書、1977年、25-26頁)

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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