テクニカルノート

クワガタムシは紳士的!

文:佐竹 一秀 2015年8月1日
(WEB公開:2018年8月1日)

短かった梅雨
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ノコギリクワガタ(♂)

1か月前は梅雨がこないと嘆いていましたが、6/26に梅雨入りし、ちょうど1か月後の7/26に梅雨明けです。東北地方の梅雨は1か月半程あるのですが、今年は1か月と短く、仙台での雨量も梅雨の期間としては45mm少ない145mmでした。そして暑いです。梅雨明けに暑くなるには例年の事ですが、それにしても暑い…梅雨寒が恋しいと思っている人はいっぱいいるはずです。

クワガタムシをご紹介

本郷儀人『カブトムシとクワガタの最新科学』に、カブトムシやクワガタムシの研究成果がおもしろおかしく解説されていました。2年前のニュースレターにはこの内容を基にカブトムシの話を載せましたが、今回はクワガタムシについて紹介します。クワガタムシと一言でいっても、世界中では1,200種類、日本には30種類以上が生息しています。一例をあげるとノコギリ、ミヤマ、オオ、コ、アカアシ、ヒラタ、ネブト、チビ、ルリ…(全てうしろにクワガタを付けて下さい)。

一匹数十万円することも

このなかではミヤマクワガタとノコギリクワガタがサイズも大きく人気があります。一頃話題になった一匹数十万円もする「黒いダイヤ」と呼ばれたオオクワガタも根強い人気があります。繁殖(養殖)方法が確立されており、イヌやネコのように商売として繁殖させるブリーダーさんもいて、価格はだいぶ下がりましたが、まだまだ高額で売買されているようです。ネットで検索すると全長65mm前後だと2,000~3,000円程度ですが、これが75mmを超えるようになると10倍以上の値がついていました。また、産地も重要で四国産はもともと生息数が少ないため希少です。産地にこだわることは遺伝子の攪乱を防ぐことにもつながりますので、良い傾向とも考えられますが、野外で捕ることを子供時代に経験した身としては、相変わらず違和感を覚えますが…。ただ、飼った(買った)以上は最後まで面倒をみて、けして採取地以外には放逐しないでほしいものです。

ミヤマvsクワガタの生存競争
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ミヤマクワガタ(♂)

子供の頃の記憶ではミヤマ(以降は他の種を含めてクワガタを省いて記述します)が多く、ノコギリは稀でした。ミヤマは深山の意ですので、山奥(山地)に多くいます。一方でノコギリは里山や河川のヤナギ林でもよく捕れます。

一般的には関東ではノコギリが多く、関西ではミヤマの割合が多くなるといわれています。前述の書籍のカブトムシとクワガタの研究地は京都でした。京都ではミヤマの方が多いのですが、近年はノコギリが増えてきたとのことで、ミヤマとノコギリの間で激烈な生存競争(京都大戦争)が起こっているそうです。一般に種の競争では体サイズの大きな方が強く有利です。サイズを比較するとミヤマは43~77mm、ノコギリは33~74mmとミヤマがやや大きいです。であればミヤマの方が優勢で、個体数を増やしそうですが、それとは逆に、小さなノコギリが勢力を拡大しているとのことでした。この原因をオス同士の戦いから推測しています。

体の小さいクワガタが強いのはなぜ?

クワガタの戦いは4つのステップを踏みます。第一ステージは出会いです。餌場で2匹がかちあい、顎が接触することでお互いを認識するところから戦いが始まります。体のサイズが明らかに違う場合は、弱い(小さい)方が逃げ出し、勝負は決まります。他の動物の世界でも見られるように、無用な戦いを避ける意味があります。

第二ステージは両者が大顎を目一杯ひらき、前足をピンと伸ばし立ち上がった状態になります。これを顎広げと呼びます。ここで顎の大きさを比べているようです。全長ではミヤマが大きいのですが、顎はノコギリの方が長く、顎の幅はミヤマ、ノコギリともほぼ同じです。ですので、顎の大きさでノコギリも負けていません。

そして第三ステージの取っ組み合い(あるいは一方的に攻撃する・される)にうつります。その結果として投げる(投げ飛ばされる)、あるいは追い出す(追い出される)ことで決着します。ここが最終の第四ステージです。前述の通り全長ではミヤマがやや大きく、顎の大きさでほぼ互角ですので、この先の肉弾戦ではミヤマの優位は変わらないと思われました。しかし意外なことに、実験室で戦わせた結果では、119例のうちミヤマが40勝、ノコギリが79勝と倍近い差がついてしまいました。この差がどこからくるのか、戦い方をもう少し詳しく見てみました。

「得意技」の違い
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オオクワガタ(♂)

カブトムシでは角を相手の体に下に入れてすくい上げて投げ飛ばしますが、クワガタは顎で挟んで投げますので、決まり手はバリエーションに富みます。まずは相手を上(背中側)から挟み投げ飛ばします。決まり手としては「上手投げ」となります。逆に下(腹側)から挟み投げ飛ばす、「下手投げ」もあります。もう一つは顎と顎を挟み合わせ(四つに組んで)そのまま投げ飛ばす「挟み投げ」です。

ミヤマとノコギリでは得意技が違い、ミヤマは上から挟む上手投げが得意ですが、ノコギリは上からでも下からでも攻撃できます。ここで面白い実験をしています。ミヤマのオスの顎を上から割り箸等でつついても、立ち上がるだけで挟みこむことはありません。逆に下から顎をつつくと挟み込みます。

ミヤマは上からだけ、ノコギリは上からも下からも

ノコギリでは上からでも、下からの刺激でも挟み込みます。これが得意技につながっています。ミヤマは上からでないと挟めませんので、サイズが同じくらいの相手では、挟み込むのが大変になります。逆にノコギリは小さい相手では覆いかぶさって挟み、大きなミヤマが相手の時は下から挟みこんで投げ飛ばします。この差がノコギリ79勝対ミヤマ40勝の戦績に表れていると思います。このように体格上は有利のはずのミヤマが、戦い方でノコギリに負け、餌場を追い出され、交尾の機会を失い、そして徐々に個体数を減らしていっているのではないか…。これがミヤマ対ノコギリの京都大戦争の戦況の理由なのではないかという見方があります。ただ、まだあくまでも推論とのことですので、今後の研究により解明されることを願います。

カブトムシは豹変する

2年前のニュースレターでは、オスのカブトムシが餌場に現れたメスに対して最初は紳士的に振る舞い、メスに樹液の出ている場所を譲るという話を書きました。オスは引き換えに交尾を迫り、何度か断られた後にやっと許してもらえるのですが、交尾が終わった途端、豹変します。餌場から追い出しにかかり、場合によっては自慢の角を使って、餌場から投げ飛ばしてしまいます。なんというオスでしょうか。人(虫)の風上にも置けない、どうしようもなく酷い奴です。釣った魚に餌はやらないという、どこかの世界の話に似ていますが…。

クワガタは最後まで紳士なふるまい

クワガタではどうでしょうか。実はクワガタは最初から最後まで紳士的です。餌場に現れたメスに餌場を譲り、交尾するところまではカブトムシと一緒ですが、交尾が終わった途端に投げ飛ばすことはありません。その後もしばらくはエスコート(メスの上に乗ったまま)します。この行動は他のオスを寄せ付けない(排除)することで、自分の精子(遺伝子)を残すための行動と考えられます。

カブトムシのようにメスを投げ飛ばし、餌場に現れた新たなメスと交尾をすることで遺伝子を残すか、クワガタのようにメスを他のオスから守ることで遺伝子を残すか、遺伝子を効率よく残すための進化とはいえ、対極をいく2種です。皆様なら…?

  • 参考資料
  • 本郷儀人『カブトムシとクワガタの最新科学』(メディアファクトリー、2012年)

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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