テクニカルノート

イチゴ・トマトと外来種!

文:佐竹 一秀 2016年3月1日
(WEB公開:2019年5月31日)

イチゴの種はどこ?
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イチゴ

写真はイチゴです(見ればわかります!と言われそうですが…)。真冬ですのでネタに困っていました。目の前のテーブルに現れたのがイチゴでした。野生のものではありませんが植物です。

イチゴの表面のツブツブは何でしょうか。正解は種ではなく果実です(下の写真)。果実ですのでツブツブひとつひとつの中に種が入っています。私達が食べている部分は、茎の変化したもので花托(かたく)と呼ばれ、茎の先が大きく膨らんだものです。

種が成長ホルモン・オーキシンを分泌
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イチゴの果実

このようなものを「偽果(擬果)」といいます。果実の目的は動物に食べてもらい、種を移動(分散)することです。ただ、食べられた相手が人間では、トイレから水と共に流され、行きつく先は下水処理場の沈砂池、これでは分布を広がられません…。人間に食べられることは別として、動物に食べられるために、美味しくなったり、大きくなったりと、果実は大変です。イチゴのツブツブを取ると、イチゴは成長できなくなります。ツブツブの中にある種が成長ホルモンのオーキシンを分泌して、イチゴを大きくする働きがあるからです。確かに種がなければ、イチゴを大きく成長させる必要はありませんね。

ハウスで一年中栽培されるトマト
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トマト

右の写真はトマトです(これも見ればわかる!)。トマトもイチゴと同じように果実を大きく、甘くして、動物に食べてもらえるようにしています。トマトも実を大きくするためにオーキシンを使っています。栽培下では、花の時期にオーキシン(ホルモン剤)を噴霧することで、成長を促進します。本来であれば昆虫たちに花粉を運んでもらい、受粉した後に大きくなるのですが、未授精で強制的に大きくしていました。そしてできたのが、種なしトマトです。ただ、余りおいしくないような…。

トマトは夏野菜です。夏の暑い時期に花を咲かせ、ミツバチ等が花から花へと盛んに飛び回り、その結果として結実し、大きく育ち美味しいトマトになるのです。今はスーパー等に年中あります。それはハウス栽培のおかげです。ハウス栽培での受粉はハケを使って人の手で行っていました。その後はホルモン剤(オーキシン)噴霧になりましたが、一つ一つの花に行う必要があるため、結構な手間です。また、ホルモン剤自体除草成分ですので、噴霧された場所の葉が枯れる、種なしですのであまり美味しくない、というデメリットもありました。

受粉を助けるために外国のハチを導入…
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セイヨウオオマルハナバチ
:幌加内町 内海千樫氏撮影

そこにでてきたのが、セイヨウオオマルハナバチというヨーロッパ原産のハナバチです。花粉媒介昆虫としてオランダやベルギーで人工の巣箱が大量に生産されています。この巣箱をトマトやイチゴのハウスに置けば、働きバチが授粉を助けてくれます。省力化はもちろんの事、ホルモン剤なしの安全で高品質なトマトやイチゴが生産できるようになります。日本には1992年から本格導入されました。本種は名前の通り外来生物ですので、野生化させてはいけません。しかし、ビニールハウスは温度調整のために下部を開放する事があり、完全な閉鎖系ではありません。そのためアッという間に野生化してしまいました。

特に北海道では顕著で、分布の拡大、在来マルハナバチと巣穴を巡る競争、交雑と多大な影響がでています。また近年では知床等の農作物を作っていない所までも分散、定着しているようです。このような問題児はすぐにでも外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)で規制する必要があります。外来生物法で特定外来種に指定されると、飼育、栽培、保管及び運搬、そして輸入が原則禁止になります。また、野外へ放つ、植える及びまくことも禁止です。

在来種と競合…

しかし、前述の通り農家さんにとっては、有益な昆虫です。トマト生産に欠かせない農業資材になっています。特定外来生物に指定されてしまえば、輸入は出来ませんし、ビニールハウス内でも飼育は禁止です。要するに利用が一切できなくなります。在来のハナバチ類を使う手もありますが、全国のトマト農家さん等の需要を賄うまでに増やすことは、早急にはできません。また、国内移入種の話もあり、その地域の種を育成する必要があり、とても対応はできません。困った、困った、困った…。

けれども何とかしなければなりません。そこでビニールハウスにしっかりと網を張って、逃亡できないような状況にし、その後環境大臣の許可を受ける、という制限が付き、2006年に特定外来生物に指定されました。この規制により野外とは遮断されましたので、これ以上は増えないのでは、と(甘い)予測をしていました。が、やはり相変わらず旺盛に飛び回っていて、在来マルハナバチに影響を与え続けています。結局、供給源は断っても、野生化した集団は、環境に適応し増え続けています。困った、困った、困った…。

地道な捕獲作業…

そこで、北海道庁がボランティアを募って、2007年から網による捕獲作業を全道的に続けています。毎年2万~3万匹程度を捕獲し、特に春先の女王バチや8月以降の新女王バチを狙っていますが、なかなか効果が上がっていいません。現在では在来種との競争には勝利していますので、種内での競争が激化しています。そうすると、捕獲により捉えられるのは、より鈍くさい女王蜂と考えられます。ボランティアによる捕獲は、優秀な女王蜂を拡大方向導くという皮肉な結果になっているのでは、との意見もあります。困った、困った、困った…。

特殊な殺虫剤で幼虫の成長を阻害

次の手として、国立環境研究所の五箇さん達のグループにより「ハチの巣コロリ」という手法が試みられています。外で蜜を集めている働きバチに特殊な殺虫剤を散布し、巣に持ち帰らせることで、巣内の幼虫たちに殺虫剤を暴露させて、その成長を阻害しようという作戦です。女王バチは巣内で、働きバチや雄バチ、そして新女王バチの卵を産みます。孵化した幼虫の世話は、外で花蜜や花粉を集めてきた働きバチたちがあたります。殺虫剤には、他の生物に悪影響がない昆虫成長制御剤(IGR 剤)が選ばれました。

このタイプの薬剤は、昆虫類の外骨殻の成分であるキチン合成を阻害し、脱皮できなくする薬剤ですので、脱皮しない脊椎動物には無害です。また成虫には効かないので、効率よくハチの巣に持ち帰らせることができます。ただし、他のマルハナバチ類にもこの薬剤は効きますので、セイヨウオオマルハナバチだけを選択捕獲して散布する必要があります。これには今までボランティアとして関わっていただいた方々の識別能力が活かされます。この取り組みは始まったばかりですが、多いに期待できます。

人間の経済活動が招いた状況

ステークホルダーという言葉がよく聞かれます。利害関係者と訳され、直接的、間接的に利害関係を有する者を指します。皆さんは、北海道に定着・拡大し、在来種に影響を与えている外来種のセイヨウオオマルハナバチの話など、あまり興味が持てないと思います。ただ、イチゴやトマトを食べますよね。私もあなたも立派なステークスホルダーです。関係者の一人です。外来生物に罪はありません。いろいろ知恵を絞って、考えていきましょう。

  • 参考資料
  • 国立環境研究所ニュース編集小委員会編『国立環境研究所ニュースVol.32No.5』(p10-12、2013年)
  • 田中修『植物はすごい』(中央新書、p193-199、2012年)

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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