テクニカルノート

仮剥製の作製

文:動物調査室 後藤 識志 2009年11月18日

前書き

生物分類技能検定の過去の試験で、鳥類の仮剥製に関する問題が出題されたことがありました。しかしながら、実際に仮剥製を作製した経験をお持ちの方や、作製の内容をご存知の方は非常に少ないのではないかと思っております。ここでは、仮剥製作製の過程を、挿し絵を交えて順を追って解説していきます。

仮剥製作製の準備

  • 仮剥製作製の事前準備は、おおよそ右のフローチャートに示すとおりであると認識しています(誤りがありましたらご指摘いただければ幸いです)。近年は鳥インフルエンザの流行が危惧されているため、斃死鳥の死因が分からない場合は製作を回避した方がいいと思います。

    ・準備するもの
    データラベル、メス、鉗子、ピンセット、脱脂綿、新聞紙、ホウ酸、焼ミョウバン、水、針、木綿糸など

  • 仮剥製事前準備フローチャート
    仮剥製事前準備フローチャート

作製の仕方

仮剥製作製の手順は、おおよそ以下に示すとおりです。種によっては胸部ではなく、背面から切開する方がいいものや、カモ類やキツツキ類等、頭部に対して首が細すぎる種では、頭部の切開を要するものもありますが、スズメ目ならだいたい以下の手順でいけると思います。

  • 1.切開

    汚れ防止のために新聞紙を敷く。鳥には胸から腹にかけて羽毛のない部分があるのでそこを探り、正中線に沿ってメスなどで切開する。また、食べたものが逆流しないように、口の中に脱脂綿を詰めておく。

  • 2.皮の剥離

    両肩、首に向かってピンセットなどで皮を剥離する。防腐のため、剥離しながらこまめにホウ酸や焼ミョウバンを皮の裏側に擦り付けていく。

  • 3.肩関節の分離

    両肩の位置を探り、鉗子などで肩関節を分離する。切り口から血液が出てきた場合は、羽毛が汚れないように脱脂綿などで蓋をする。

  • 4.食道・頚椎の分離

    食道と頚椎についても同様に分離する。

  • 5.背面の剥離

    背面の皮を剥離するために、肩と首周辺の肉を切り、併せて脂肪の除去も行いながら、背面の皮の裏側まで到達させる。この時、背面の皮に穴をあけないように気をつける。この後、胸肉を持ちながら背面の剥離を進める。

  • 6.膝関節の分離

    背面の剥離を進めていくと、膝小僧の部分が現れるので、膝の関節を分離する。
    そろそろ背中と皮の密着度がMAXになってくるので、皮に穴を開けないように気をつける。腹膜も破らないように注意する。

  • 7.油脂腺の油の除去

    さらに背面を剥離していくと、油脂腺が出てくる。ここから剥離しすぎると尾羽が抜けてしまうので注意する。油脂腺の油を取り除きつつ、尾羽の付け根ごと分離する。この後、肉を切ってまた背面の皮に到達しなくてはならないが、集中力が切れかかっている頃なので、皮に穴をあけてしまわないよう注意する。

  • 8.胴体・内臓の分離

    腹膜を傷つけないように剥離を進め、直腸の先端(総排出口の裏側)で切断する。腹膜を傷つけると、内臓や糞が出てきて羽を汚す恐れがある。万が一傷ついてしまった場合は脱脂綿を当て、出てくるものを抑えながら分離がすむまでなんとか耐え切る。この作業によって、胴体部分の肉や内臓の分離が完了する。これらを保存する場合は液浸標本とする。

  • 9.残りの肉の剥離

    この時点でAの腕の部分とBの下腿の部分、および顎と頭にまだ肉が残る。Aの腕の肉は、胴体から皮を反転させた時の要領で剥離していき、筋肉を削ぎ、ホウ酸粉をたっぷりとふりかけて骨を戻す。次列風切の羽軸は途中から直接骨にくっついているので、皮から抜けてしまわないように注意する。Bの下腿についても同様に行う。

  • 10.顎を反転させる

    手順9と同じ要領で顎を反転させていくと、頭骨に至る。鼓膜の周りは丁寧に切りとる。

  • 11.目の部分

    鼓膜の処理が終わると、すぐに目の部分に至る。虹彩の周りを丁寧に切り、虹彩やまぶたの部分を傷つけないようにする。眼球は眼窩の両端からピンセットを差し入れ、奥の筋肉をつまんで摘出する。

  • 12.頭骨部分

    頭骨の付け根の部分で頚椎を切り、下嘴が外れない程度に頭骨周辺についている筋肉を取り除く。その過程で舌と舌骨を取り出す。後頭部に穴を開け、そこから脳を取り出し、内部を脱脂綿できれいに拭きとる。眼窩の内部も同様にきれいに拭きとる。以上で全体の除肉が完了。

  • 13.脱脂綿を詰める

    頭骨の内部と外側の両側にホウ酸粉をたっぷりと擦りつけ、やや大きめに脱脂綿を丸めたものを眼窩に入れる。その後、裏返った皮を戻していく。皮が乾いて戻りにくい場合は少し水を含ませると戻りやすくなる。

  • 14.縫合

    皮が戻ったら、形を整えるために脱脂綿や竹ひご等を使って芯をつくり、切開した胸~腹の部分を木綿糸で縫合する。

  • 15.乾燥させる

    両足を紐で結び、防虫剤等と一緒に湿気の少ない日陰で十分乾燥させる。形を整えるため、紙の筒などでくるんでやるとよい。データラベルも忘れずに添える。

16.完成!
  • 乾燥したらできあがり。お疲れ様でした。


  • 乾燥後、縫合前の状態

参考:市川秀雄 標本剥製の作製(鳥類) 2001年

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