テクニカルノート

ウミツバメ科の鳥類はいつ・どこで見ることができるか?

文:動物調査室 清水 博之 2019年2月1日

はじめに

海鳥の中でも小型の種群であるウミツバメ科 Hydrobatidaeは、太平洋や大西洋、インド洋、南極海に広く分布し、日本周辺では8種のウミツバメ科が確認されています。

日本で確認されているウミツバメ科のうち、ヒメクロウミツバメ Oceanodroma monorhis (Swinhoe, 1867)は、世界的に見ても日本の周辺(日本、韓国、中国等)でのみ繁殖する、いわゆる'固有'な種と言えます。また、クロコシジロウミツバメ O. castro(Harcourt, 1851)は、日本のほかハワイやガラパゴス、大西洋に繁殖地が知られていますが、近年は地域ごとに独立した種として扱われることがあります。それに従えば、日本の繁殖個体群も独立種となり、ヒメクロウミツバメと同様に'固有'な種であると言えます。勿論、南硫黄島でのみ繁殖が確認されているクロウミツバメ O. matsudairae(Kuroda, Nagamichi, 1922)についても'固有'な種に該当します。

これら日本固有のウミツバメ類は、観察できる地域が限られている貴重な種であることから、国内のみならず海外のバードウォッチャーからの関心も高いのですが、いつ・どこで観察することができるのか、といった情報は、一部の種を除いてほとんどありません。そして、観察機会の少なさ故に、生態や類似種との識別点などについては、まだまだ未知の部分が多くあります。観察機会が少ない要因として、日中を遠洋で過ごすといった生態的特性や、そもそもの生息個体数が少ないといったことが挙げられます。また、国内では従来、海鳥を観察する人が少なく、情報が乏しかったことも要因の一つと考えられます。

そこで、日本固有のウミツバメ類の中でも特に情報が乏しい、ヒメクロウミツバメとクロコシジロウミツバメの2種を対象として、洋上における確度の高い観察機会を作ることを目的として、2018年に調査を実施しました。

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    写真-1 ヒメクロウミツバメ

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    写真-2 クロコシジロウミツバメ

調査地域・時期

○ヒメクロウミツバメ

ヒメクロウミツバメの繁殖地は、太平洋側と日本海側の複数の無人島で確認されています。
このうち、日本海側における最大の繁殖地、京都府沓島の周辺(京都府舞鶴市)を本種の調査地域としました。

○クロコシジロウミツバメ

クロコシジロウミツバメの繁殖地は、岩手県沿岸部にある日出島、三貫島など、ごくわずかしか知られていません。このうち、かつて最大の繁殖地であった日出島の周辺(岩手県宮古市)を本種の調査地域としました。

◇時期

調査は、両種が繁殖地周辺に飛来していると予想される時期(6~8月)に実施しました。

調査方法

各調査地域において漁船をチャーターし、沖合50kmくらいまでの海域でヒメクロウミツバメとクロコシジロウミツバメを探しました。しかし、周辺はどこまでも海ですので、闇雲に洋上を航行して探すことは、とても効率的とはいえません。

そこで、これまでの海鳥観察の経験から、海底地形と餌の匂いの2点について着目して調査を実施しました。

①海底地形

陸地に山や谷があるように、海にも同様に起伏が存在します。このうち、海溝の縁などのような急に水深が深くなる場所や、海山のような周辺よりも水深が浅くなっている場所は、海鳥の餌となる魚類が集まる場所=海鳥が集まる場所として知られています。今回の調査でも、このような海底地形に着目し、調査を実施しました。

②餌の匂い

ウミツバメ科の鳥類は、嗅覚がとても優れており、匂いを頼りに動物プランクトンや魚、イカといった餌を探すという習性があります。この習性を利用して、海外のPelagic tour(海鳥を観察するボートツアー)では、餌の匂いを船の周辺に拡散することで海鳥を集め、観察しています。この方法は、世界各地のPelagic tourで一般的に行われており、効率的に海鳥を誘引し、間近に、そして長時間の観察が可能という利点があります。そこで、今回の調査でもこの方法を利用することとしました。

調査結果

①ヒメクロウミツバメ(京都府舞鶴市沖)

調査は、2018年8月に1回実施しました。その結果、目的のヒメクロウミツバメのほか、表-1に示す計4種の鳥類が確認されました。

表-1 確認種一覧(京都府舞鶴市沖)
目名 科名 種名 学名 2018年
ミズナギドリ ミズナギドリ オオミズナギドリ Calonectris leucomelas
ウミツバメ ヒメクロウミツバメ Oceanodroma monorhis
チドリ シギ アカエリヒレアシシギ Phalaropus lobatus
カモメ ウミネコ Larus crassirostris
2目 4科 4種 - 4種
  • ※種名は「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に準拠した。
  • ※赤枠は調査対象種を示す。
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写真-3 確認されたヒメクロウミツバメ

ヒメクロウミツバメは、沖合で10個体以上が確認されました。今回確認した海域は、海底地形が周辺よりも浅くなっている場所であったこと、それ以外の場所では確認されなかったことから、この海域は本種の採餌場の1つであると考えられます。一方で、残念ながら餌の匂いに対する明確な反応は見られませんでした。

②クロコシジロウミツバメ(岩手県宮古市沖)

調査は、2018年6月~7月にかけて計2回実施しました。その結果、目的のクロコシジロウミツバメのほか、表-2に示す計20種の鳥類が確認されました。

     
表-2 確認種一覧(宮古市沖)
目名 科名 種名 学名 2018年
第1回 第2回
ミズナギドリ アホウドリ コアホウドリ Phoebastria immutabilis
クロアシアホウドリ Phoebastria nigripes
ミズナギドリ フルマカモメ Fulmarus glacialis
オオミズナギドリ Calonectris leucomelas
オナガミズナギドリ Puffinus pacificus
ハイイロミズナギドリ Puffinus griseus
ハシボソミズナギドリ Puffinus tenuirostris
アカアシミズナギドリ Puffinus carneipes
ウミツバメ アシナガウミツバメ Oceanites oceanicus
クロコシジロウミツバメ Oceanodroma castro
コシジロウミツバメ Oceanodroma leucorhoa
オーストンウミツバメ Oceanodroma tristrami
クロウミツバメ Oceanodroma matsudairae
カツオドリ ウミウ Phalacrocorax capillatus
チドリ シギ アカエリヒレアシシギ Phalaropus lobatus
カモメ ウミネコ Larus crassirostris
オオセグロカモメ Larus schistisagus
ウミスズメ カンムリウミスズメ Synthliboramphus wumizusume
ウトウ Cerorhinca monocerata
ハヤブサ ハヤブサ ハヤブサ Falco peregrinus
4目 8科 20種 15種 15種
  • ※種名は「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に準拠した。
  • ※赤枠は調査対象種を示す。

クロコシジロウミツバメは、2回の調査のいずれでも確認されました。1回目の調査では、日没近くの薄暗い時間に、沖合から岸の方向へ飛翔する5個体が確認され、2回目の調査時もほぼ同様の条件で8個体が確認されました。餌の匂いには、同じウミツバメ科のアシナガウミツバメ等は誘引されましたが、本種には反応が見られませんでした。観察された時間帯や飛翔方向、採餌する様子が見られなかったことから、確認された個体は繁殖地への帰巣途中の可能性が高いと考えられます。

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写真-4 確認されたクロコシジロウミツバメ

※対象種以外の特記

今回の岩手県沖の調査では、対象種以外にも興味深い海鳥が確認されました。

アシナガウミツバメは第1回調査時に100個体以上が、第2回調査時に80個体以上が確認されました。確認された海域は、海底地形が周辺よりも深くなっている海溝に該当する場所で、餌の匂いに対する反応も見られました。本種は2000年代前半まで、日本では迷鳥と考えられていた種でしたが、2007年に千葉県の沖合で観察されて以降、毎年初夏に定期的に渡ってきていることが確認されています。最近では、伊豆諸島や福島県、青森県などの沖合でも確認されていることから、関東地方の沖合へ渡ってきた個体は、そのまま本州の太平洋沿岸を北上しているものと推測されます。

クロウミツバメは第1回調査時に1個体が確認されました。上述のアシナガウミツバメに混じって行動し、餌の匂いに対する反応も見られました。本種は小笠原諸島の南硫黄島が唯一の繁殖地として知られており、初夏になると関東地方の沖合まで北上することが知られています。しかし、東北地方以北では確実な記録はなく、今回の確認は岩手県初記録であるとともに、世界でも最北端の記録と考えられます。

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    写真-5 アシナガウミツバメ

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    写真-6 クロウミツバメ

おわりに

調査の結果、目的であったヒメクロウミツバメとクロコシジロウミツバメの確認に至りました。

ヒメクロウミツバメについては、1回のみの調査結果から明確なことは言えませんが、普段は僅か1個体を観察することも難しい本種が10個体以上も確認されたこと、これらの個体が特定の海底地形の狭い範囲でまとまって見られたことから、この海域では今後も本種が確認される可能性は高いと考えられます。

クロコシジロウミツバメについては、特定の時間帯に観察できる可能性が高いことが分かりました。残念ながら、本種については海底地形や餌の匂いによる関連付けはできませんでしたが、アシナガウミツバメ等に対しては、海底地形を考慮し、餌の匂いを拡散させることで、効率的な観察が可能であることが分かりました。

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写真-7 船の周囲に集まる海鳥

今回の調査から、普段は観察が困難である種も、鳥の習性を知り、利用することで、確度の高い観察機会が得られるということを改めて知る機会になりました。今後は他の種についても調査したいと考えています。

なお、海外では今回使用した調査方法により、例えばNew Zealand Storm Petrel Fregetta maoriana (Mathews, 1932)やFiji Petrel Pseudobulweria macgillivrayi (Gray, GR, 1860)など絶滅したと思われていた海鳥の再発見が続いています。そして、今後もこの再発見ブームは続きそうです。

※詳細な確認位置等のお問い合わせについては、回答致しかねます。

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