テクニカルノート

自然環境保全のためのデータの地図化・分析手法の紹介

環境情報室 水谷 貴行 2014年4月8日

セミナー資料紹介

2012年12月8日、仙台市戦災復興記念会館にて、NPO法人環境生態工学研究所定例セミナーが開催されました。以下はその発表資料スライドとなります。

概略

2011年3月11日に東日本大震災が発生し、各地に津波による甚大な被害をもたらしました。迅速な復興が望まれることはもちろんですが、その地域の環境を保全していく…人の住む街だけではなく、さまざまな生きものの拠り所である自然も守っていく、ということが長期的には重要となります。復興と保全、このふたつをどう両立させていくかが課題になるといえます。

2011年12月26日に、東日本大震災復興特別区域法が施行されました。この第七十二条において、被災関連市町村等が復興に関わる整備事業を行う際には「特定環境影響評価」を行わなければならないと定められました。第二項に「特定復興整備事業については、環境影響評価法 の規定は、適用しない。」とあるように、通常の環境影響評価とは異なり、「特定環境影響評価」においては簡易な手続きをとることが認められています。具体的には、手続きの集約化、通年又は四季にわたる現地調査を必須としないこと、既存資料調査や専門家へのヒアリング等に基づいて予測、評価、検討を行うことなどです。これにより、復興事業の迅速な着手が可能となりました。(一方、現地調査を実施しなかった際には事後調査を行い、環境保全措置の見直し、詳細化を行うとして、環境保全についても配慮されています)

ここで有効となるのが、データを地図化し、分析するという手法です。この手法は、事業に先立つ段階で設定される戦略的環境アセスメント、事業区域とは別の場所に生態系を構築して本来の生態系の代替とする生物多様性オフセットにおいても有効だと考えます。

1.現状把握(スライド12~43)

既存資料(既存データ)としては、生物については「自然環境保全基礎調査」、「レッドデータブック」、「河川水辺の国勢調査」など、環境については「基盤地図情報」「国土数値情報」「統合地質図データベース」などがあります。それらのデータを地図上に可視化したものがスライド16~20です。
ただし既存データにはいくつか問題もあり、環境に関しては、センサー技術が向上したことや、防災、気象での利用に供されることからデータは豊富にありますが、生物に関しては調査コストがかかること、また守秘義務や盗掘の問題から公開されていない場合もあるなど、情報量に偏りがあるのが実情です。

そこで考えられるのが、豊富にある地形、植生、気候等のデータから、生物に関わるデータを推測するという方法です。方法はさまざまにありますが、例としてHSIモデル、Maxentという2種類の手法をとりあげます。

HSIモデルは、Habitat Suitability Index(生息環境適正指数)という数値を用いて、生物の生息環境をモデル化し、生息適地を推測するというものです。(例:ヤマアカガエル スライド26~36)HSIモデルからわかるのは、ある場所の環境が、対象とする生物にとって生息適地かどうか、ということです。つまり、その生物に適した環境であれば、その場所に生息している可能性が高い、ということになります。
※参考:HSIモデルとは?

一方のMaxentとは、Maximum entropy(最大エントロピー)を利用したもので、現地調査で得られた生物の確認位置と環境データから動植物の生息適地を統計的に推測する手法、ソフトの名称です。詳しい原理などはマニュアル、論文をご覧ください。(スライド37~41)

既存のデータや環境データの分析・地図化によって、地域の環境を把握し、生息適地の推測が可能になります。ただし、分析には生物に関する知見や、ある程度の生息情報も必要となります。

2.将来予測(スライド44~54)

現状が把握できたならば、次はその環境が将来どのように(質的)、どれくらい(量的)変わっていくのかを予測していきます。そしてその予測に基づいた変化を生息モデルに反映させていきます。道路事業を例にとると、質的な変化としては森林面積の減少、道路の延長増加、田んぼの消滅、などがあげられます。それを地図上に示したのがスライド48~50です。また量的な変化を考える際には、単純に面積の増減だけではなく、その質とかけあわせることが重要になります。道路ができ、車が行きかうようになれば、その影響はまわりの森林や生物にも及ぶからです。スライド52に示したように、地図上に道路の面積、そして影響範囲を示せば、生物への影響を具体的な数値として把握することができます。

このように、環境の変化を生息モデルに適用することによって、生物への影響範囲を予測し、それを定量的に評価できるようになります。

3.保全計画(スライド55~76)

保全計画に利用できる手法としては、InvestとMarxanをご紹介します。

まずInvestとは、Integrated Valuation of Ecosystem Services and Tradeoffs(生態系サービスとその代償のための総合評価)のことです。これは生物多様性、二酸化炭素の貯蔵、浄水機能などの生態系サービスを定量的に評価するモデルです。過去・現在・未来の土地利用の状況:生息環境(環境的要因)と、道路・市街地・汚染源などの環境悪化要因(社会的要因)、鳥獣保護区・自然公園・自然保全地域といった保全地域(保全目標)の3種類のデータをかけあわせることで、生息環境の質を評価することができます。ここから、希少な生息環境が導きだされます。(スライド59~64)
保全計画においては、保全シナリオを検討→Investにモデルを適用し、結果を表示→結果を比較することで意思決定の補助とすることができます。
※参考:InVestの紹介

もうひとつのMarxanは、Marin reserve design using spatially explicit anealing(空間明示的なアニーリングを使用した海洋保護デザイン)です。環境への影響、コスト、保全目標などを加味し、保全すべき地域を最適に選定する手法です。保全地域の選定においては、地域の環境(種類・生息数・大きさ)、保全コスト(土地価格・大きさ・実施管理)、保全目標(優先すべき種・保全すべき量・地域間の関係)について考慮する必要があります。(例:農産物の生産高を確保するために保全すべき県は? スライド68~74)
Marxanでは、最適解および代替候補が提示されます。このように、環境的要因、社会的要因、保全目標をモデルに適用し、分析・地図化することによって、保全計画のための意思決定をサポートできます。

以上、環境保全のためのデータの分析・地図化の手法をご紹介しました。これらの手法が、生物多様性の保全および東北地方の「迅速な復興と環境保全の両立」に役立てばと思います。

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