テクニカルノート

業務効率化のためのGDAL活用

環境情報室 水谷 貴行 2014年6月30日

学会講演資料紹介

2014年3月に、広島で日本生態学会第61回全国大会が行われました。14日の自由集会「仕事でつかえる!FOSS4G」で発表した講演資料のスライドを以下にご紹介します。

概略

業務紹介(スライド1~5)

はじめに弊社の業務について紹介させていただきます。株式会社エコリスでは、事業による自然への影響を予測・評価する環境アセスメントを業務として行っています。発注は事業者からコンサルタント会社に、そこからエコリスのような調査会社に依頼が来るという流れになっています。調査会社が行うのは、おおまかにいって、現場でのさまざまな調査、動植物の種の同定、そして調査で得られたデータのとりまとめになります。一日の仕事、あるいは一年をとおした仕事の流れでも、「とりまとめ」は最後に位置しています。この「とりまとめ」の段階を効率化するために、GDALを活用できないかと考えています。

GDALとは(スライド6~9)

GDALはGeospatial Data Abstraction Libraryの略で、GISデータ変換のためのライブラリ&コマンドのことです(ラスタ用がGDAL、ベクタ用がOGRライブラリーになります)。これは多くのGISソフトの内部でデータ変換に利用されており、コマンドによってGISデータをさまざまに操作することができます。スライド8に示したように、OSGeo4Wコンソールにコマンドを打ち込むだけでデータの作成、変換が可能です。コマンドによって処理しているため、GDALでは1.GISの処理をテキストに保存しておける、2.手順の再現、再利用が可能、3.プログラムと連携しバッチ処理ができる、等の利点があります。うまく活用することができれば、業務の効率化が図れます。

GDAL活用例(スライド10~14)

活用例を以下にご紹介します。

GPSデータ保存ツール…GPSログ、ポイントをシェープファイルに変換しながらパソコンに保存。

Illustrator↔GISデータ変換ツール…IllustratorでシェープファイルやGeoTIFFを読みこみ、保存。

標高DEMデータ変換ツール
…国土地理院提供の基盤地図情報 標高データをGeoTIFFに変換&結合。
※ダウンロードはこちら:基盤地図情報 標高DEMデータ変換ツール

土地利用細分メッシュ変換ツール
…国土交通省提供の国土数値情報 土地利用細分メッシュデータをGeoTIFFに変換&結合。
※ダウンロードはこちら:国土数値情報 土地利用細分メッシュ ラスタ変換ツール

地図タイル
…環境省の植生データを地図タイル形式に変換したもの。
※閲覧できます:エコリス地図タイル

これ以外にも、GDALにはいろいろな可能性があると思います。その一例として、弊社の業務である環境アセスメントへの活用を考えてみたいと思います。この背景には、近年、環境アセスメントにおいて生態系に対する「定量的な影響評価」が求められてきているという状況があります。現在はその手法を模索中という段階です。GISデータを扱うGDALを用いることで、調査によって得られたデータを地図上に可視化し、具体的な数値として把握、分析しやすくなるのではないでしょうか。
以下にご紹介するのは、生態系の定量的な評価をGDALを活用して行った例です。

GDALの環境アセスメントでの活用(スライド16~52)

実際の業務として「岩手県遠野市におけるカッパ淵拡張事業に伴う環境影響評価」をご紹介します。この業務では、生態系への影響を検討するため、事業地周辺に生息するカッパの生息適地を推測し、事業による影響を定量的に評価しました。解析にはラスタ解析、種の生息モデルを用います。手順としては、①環境データの準備、②データの確認、③モデリング、④影響評価と進みます。

スライド18の調査位置図はQGISで作成しました。カッパ淵の位置、事業計画範囲、調査範囲、カッパ確認位置が記載されています。これに植生を重ねたものがスライド19になります。

カッパの生態を確認しますと、「川や池に生息し、陸上も移動する」「きゅうりを主食とする」「頭上の皿の乾燥に極めて弱い」とあります。さらに、『改訂・絶滅のおそれのある野生妖怪』(2003)によるとRDB絶滅危惧Ⅰ類に指定されています。

①環境データの準備(スライド21~30)

カッパの生態を踏まえて、環境データを準備します。カッパの生息地である川や池からどれくらい離れているか、主食のきゅうりが生えている畑地はどれくらいあるか、そして皿の渇きによわいことから日射量が必要なデータになると考えられます。そこで環境省の植生データからは、川や池からの距離(スライド23、24)、1㎞圏畑地の面積(スライド25~27)、国土地理院の標高データからは日射量(スライド28~30)を抽出します。

②データの確認(スライド31~38)

次に、調査でカッパが確認された地点と、環境データの関係性を把握します。GIS関係のライブラリを使用して、ラスタデータからバックグラウンドポイントをサンプリングしてヒストグラムを作成しました。「川や池からの距離」との関係はスライド33、「1㎞圏畑地の面積」との関係はスライド34、「日射量」との関係はスライド35に示したとおりになります。地図作成部分のコマンドはスライド36、ヒストグラムはスライド37をご覧ください。これらの環境データの相関から、カッパの生息に適した場所を絞り込んでいくことができます。

③モデリング(スライド39~45)

モデリングには統計モデル(ロジスティック回帰など)、機械学習(Maxentなど)、経験則(HSIモデル)といったさまざまな手法があります。どういった手法が最適であるかはまだ研究中です。ここではロジスティック回帰を例として用います。モデルの評価(スライド42)、応答曲線(スライド43)から、生息適地確率を求めます。それを図に示したのがスライド44で、生息適地である確率が高い場所ほど赤色が濃くなっています。緑色の点がカッパの確認位置であるため、生息適地である可能性が高いほど確認も多い傾向がみてとれます。さらに、カッパが生息しているか、していないかをCohen's Kappa(カッパ係数)が最大となる値で線引きして明確に示したのがスライド45です。

④影響評価(スライド46~52)

解析の最終段階が影響評価です。事業によってカッパ淵の地形が改変される前と、改変された後では、生息適地はどのように変化するかをみていきます。解析は、植生データを改変→環境データを準備する際に使用したコマンドの再利用で「川や池からの距離」などを再計算→モデルを適用→改変前後の生息適地を比較する、という流れになります。
改変後の生息適地確率がスライド49で、改変前後のカッパ生息適地の差分がスライド50です。今回は、事業によってカッパ淵を拡張したため、カッパの生息適地が増加しました。スライド51に、調査範囲内の生息適地確率の合計値を比較したグラフを作成しました。カッパの生息に適した環境が確率として数字で表されているため、このように具体的な数値で比較することができます。

エピローグ

以上のように、GDALを活用すれば作業を効率化することができます。しかし、環境データから導き出す種の生息モデルについてはまだまだ空想の段階です。生態学の知見と、FOSS4G―Free and Open Source Software for Geospatial(地理空間のための自由なオープンソースソフトウェア)を組み合わせて、解析のための定石をつくりあげていければと思います。

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