テクニカルノート

HSIモデルとは?

文:環境情報室 水谷 貴行 2009年8月20日

HSIモデル作成の意義

HSIモデルは、野生生物の生息環境を定量的に評価するための指標 HSI(Habitat Suitable Index)を算出するためのモデルです。具体的には、ある場所の環境が対象とする生物にとって生息適地かどうか判断するために使われます。HSIモデルを利用すれば、野生生物の生息環境を定量的に把握することが可能になります。

近年、野生生物の生息環境が急激に悪化しており、その結果として、人類が水や空気や食料などの生態系サービスを得るために必要な生物多様性も急速に損なわれつつあります。そのため、現在生物多様性を保全する取り組みが急ピッチですすめられており、 その一つに生物多様性評価指標の作成があげられます。 生物多様性評価指標とは、遺伝、種、生態系のレベルで、地域の自然の多様性を評価するための指標です。このような状況の中で、HSIモデルは生物多様性を評価するためのひとつの指標としての役割を担うと考えています。

エコリス版HSIモデルの特徴は、モデルの構築に際してその根拠を弊社の経験豊かな調査員による判断(BPJとしていることです。長年の調査で得られた野生生物に対する知見を、HSIモデルによって数値化し、その結果を地図上で見ることができます。
エコリス版HSIモデルを利用して、野生生物の生息環境、生態系、生物多様性の保全に役立てて頂ければと思います。

HSIモデルとは?

その場所がその種にとって生息適地かどうかは、0(不適)~1(最適)で数値化され、その数値をHSI(Habitat Suitability Index, 生息環境適正指数)と呼びます。

HSIモデルは、対象とする種ごとに作成します。それは、同じ環境でも種によって生息適地かどうかは異なるためです。例えば水田はカエルにとっては生息適地ですが、リスにとっては生息適地ではありません。逆に、森林はリスにとっては生息適地ですが、カエルにとっては生息適地ではありません。

HSIモデルを作成すればそれを地図で見ることが可能になります。以下の地図は、ヤマアカガエルのHSIモデルを地図に示したものです。赤い部分(HSI=1)が生息適地で、白い部分(HSI=0)が生息不適地になります。このように、生息適地かどうかを基準に地図を色分けするためのルールがHSIモデルだということができます。

ヤマアカガエルのHSIを地図に表示

ヤマアカガエルのHSIを地図に表示

※HSI=1の厳密な定義は、「対象とする生物が 、その地域において生存可能な最大個体数(環境収容力)を維持できる環境」と同レベルの環境ということです。
また、環境収容力とHSIは正の相関があることが前提になっています。例えば、ある地域の環境収容力が4個体で、ある地域内のある場所のHSIが0.5の場合、そこには2個体が生息可能と考えます。

HSIモデルの構築方法

HSIモデルは、以下の4ステップで作成します。

  1. 環境要因または生息(必須)条件…対象とする種の生息適地、不適地はどんな条件の場所かを考える。
    • 例. ヤマアカガエルにとって、森林から近い場所は、生息適地だ。
    • 例. ヤマアカガエルカエルにとって、森林から近くても産卵場所がなければ不適地だ。
  2. ハビタット変数…環境要因を、数値で表現できる変数に置きかえる。
    • 例. 森林から近いかどうか→森林からの距離 V1
    • 例. 産卵場所があるかどうか→土地利用のタイプ V2
  3. SI(Suitability Index)…ハビタット変数ごとに生息環境としての適正を0(不適)~1(最適)で設定する。
    森林からの距離 V1SI
    0~50m 1.0
    50~100m0.8
    100~1000m0.4
    1000m~0
    土地利用のタイプ V2SI
    水田1.0
    森林0.3
    市街地0
    その他0.1
  4. HSI(Habitati Suitability Index 生息適正指数)…複数のSIを統合して、生息地の適正を表す1つの値にする。
    • 例. HSI = V11/2 × V21/2

以上が、HSIモデルの作り方です。ただし、実際には各手順を詳細に検討する必要があります。
具体的には、まず、ステップ1の環境要因の選定では「エサ条件」「繁殖条件」「カバータイプ条件」といった生息を制限する要因を、ライフステージ、地域、季節ごとに検討します。次に、ステップ2のハビタット変数の設定では、環境要因を的確に数値で表現でき、さらにそのデータが必要な範囲で準備できる変数を設定。さらに、ステップ3のSI値の設定では、既往研究論文の収集や専門化へのインタビュー、または現地調査などを行って、対象となる種とハビタット変数の関係を正確に関連づけなければなりません。そしてステップ4のHSIの算出では、ハビタット変数同士がどのような関係にあるかを検討して、それによって、算術平均、幾何平均、限定要因法、加算要因法などを使いわけることも必要となってきます。

HSIモデルの構築方法について、より詳細に知りたい方は、参考文献を是非ご覧ください。

エコリス版HSIモデルの特徴

エコリス版HSIモデルの特徴は、3つあります。

BPJを重視したモデル構築

HSIモデルの作成には、既往研究論文を収集して分析を行なったり、実際に現地調査をして収集したデータによる統計解析や専門家へのインタビュー調査といった作業が必要です。エコリス版HSIモデルではなかでも専門家による判断(Best Professional Judgement,BPJ)を重視しました。当社は自然環境調査を業務としており、生き物に関して経験豊富な専門家がそろっております。その知見を集約したものをBPJとして、HSIモデルを作成しました。

HSIの結果を地図で確認

HSIモデルは、それだけではモデルを示した文章に過ぎません。それを実際の環境に適用し、HSIの結果を地図に示すことによって、はじめて現状を把握することができます。そこでエコリス版HSIモデルでは、モデルを作成したすべての種の結果を地図上で確認できるようにしました。これにより、関心のある地域がある生き物にとっての生息適地かどうかを簡単に把握することが可能です。

一般公開データのみを利用

ハビタット変数には一般公開されているデータだけで適用できるものを選定しました。その理由として、まず公開データは広域に整備されており、HSIの結果を広範囲に地図で示すことができること、もう一つは、現在あるデータだけでHSIモデルを作成することが多くの人に現状を把握してもらうために重要だと考えたためです。また、このことによりGISを使えば誰でもHSIモデルを再現でき、検証も可能となりました。

img.gif

Google Maps で確認可能

HEPへの展開

HEPとは

HEPとは、Habitat Evaluation Procedureの略で、直訳すると生息環境評価手続きという意味になります。もう少し具体的にいうと、地域の生態系を保全するために、野生生物の生息環境を「質×空間×時間」の視点で定量的に評価し、その結果を利用して合意形成をはかっていく、このような一連の手続きをHEPと呼びます。

HSIモデルとの関係

HEPにおいて、生息環境の評価は「質」「空間」「時間」の視点で定量的におこなわれます。どれくらいの「質」の環境が、どれくらいの「空間」に広がっていて、それが「時間」とともにどのように変化するかを数値で算出します。HSIモデルは、そのなかの「質」の部分を算出するために利用されます。

エコリス版HSIモデルとHEP

エコリス版HSIモデルでは、HSIの結果を地図上で確認できるので、HEPにおける「質」と「空間」を視覚的に把握することが可能です。さらに、今後、ハビタット変数に使用されているデータが更新されて、以前の結果と比較できるようになると「時間」による変化も見ることができるようになります。

また、エコリス版HSIモデルを使って、実際にHEPの数値を算出することも可能です。そのためにはGISを使って自分で算出しなければなりませんが、エコリス版HSIモデルの計算に必要なデータはすべて一般公開されているデータなので、誰でもHEPに展開させることができます。その方法についてもおいおい説明できればと思っています。

参考文献

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