テクニカルノート

カエル閑話

文:佐竹 一秀 2009年3月1日

まもなく啓蟄です

大地が徐々に暖まって土の中で冬眠していた虫たちが穴から出てくる頃ですが、両生類のカエル達も動き出しています。仙台はまだまだ寒い日もありますが、ぼちぼちカエルの産卵の話が聞こえてきています。早春に産卵するカエルはニホンアカガエル、ヤマアカガエルの2種がいて、水の入った水田等で産卵します。名前にアカガエルとあるので赤茶色のごく普通に見かけるカエルです。赤があれば当然青もあるので、対極?にアオガエルがいます。代表的なものは、樹上に産卵するモリアオガエル、また水田の畦の土中や畦に産卵するシュレーゲルアオガエルもいます。シュレーゲルとは変な名前ですが、シーボルトが日本で収集した生物を研究したシュレーゲル氏(オランダのライデン王立自然史博物館の第二代館長)に献名したもののようです。青信号が緑色のように、青蛙も残念ながら緑色です。

赤い蛙
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ニホンアカガエル

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ヤマアカガエル

ヤマアカガエルは名前の通り平野部より山地に多いカエルです。また、集団で繁殖する傾向があり、卵も1箇所にあつまって産卵されていることが多いです。産卵時期は宮城県の場合ではニホンアカガエルよりやや早く、2月に山間部の水田の水たまりで見られる事もあります。
ニホンアカガエルは、名前に日本を冠していることもあり、ヤマアカガエルよりスマートで、流行の言葉でいえばイケメンのカエルです。平野部に多いことから開発等の影響により生息環境の悪化や、生息地と産卵場所の分断などがあり、宮城県では絶滅の恐れのある種(レッドデータブック掲載種)の準絶滅危惧種となっています。ただ場所によっては多い地域もあり、水田のカエル調査で畦を歩いて1日で1万近い個体を数えこともありました(数えたのは私ではありませんが、きっと夢にまで出てきたことでしょう)。

卵の見分け方

ここで、何の役にも立たないのですが、ヤマアカガエルとニホンアカガエルの卵の見分け方をお教えします。産みたてであれば分かり易いですが、まずニホンアカガエルは、卵を包んでいる寒天質に弾力があり、手で持っても手のひらの上でそのままです。一方ヤマアカガエルは指の間からズルズル落ちてしまい、手にも寒天質のヌルヌルが残ります。

トノサマガエルとトウキョウダルマガエル
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トウキョウダルマガエル

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トノサマガエル

カエルの代表選手といえば?との質問には、「トノサマガエル」が一般的な回答のようです。しかし、仙台には、そして東京にもトノサマガエルはいません。見たことがあるという人がいると思いますが、それは近縁種のトウキョウダルマガエルです。ではトノサマガエルが何処にいるかというと、下図に示したように北東北から日本海側、そして中部地方以西です。関東平野から新潟、福島、仙台平野にいるのはトウキョウダルマガエルです。図を見ると、いる・いないが反転しており、トウキョウダルマガエルのいるところにはトノサマガエルがおらず、トノサマガエルのいるところにはトウキョウダルマガエルがいません。ただ、細かく見ていくと重複している場所もあります。

  • 画像出典:「改訂版 日本カエル図鑑 前田憲男・松井正文共著」
カエルの分布
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トウキョウダルマガエル

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トノサマガエル

では、どうしてこのような分布になっているのでしょうか?
ものの本(両生類の進化(1996)松井正文著)によれば、DNAと地史解析によりある程度解明できたようです。

その昔、中国大陸にトノサマガエルとトウキョウダルマガエルの共通の祖先が住んでいました。氷河期になると、カエルたちは南に移動していきました。氷河期は海水面が低下し、朝鮮半島と日本は地続きとなったため、一部のカエルは朝鮮半島から日本に渡ってきました。そのため、朝鮮半島から日本にかけてトノサマガエルとトウキョウダルマガエルの祖先が生息することになりました。その後、間氷期に入り海水面の上昇とともに朝鮮半島と日本は分断されました。両生類は海水がきらいです。

カエルは海が嫌い

大きく脱線しますが「井の中の蛙、大海知らず」ということわざがあります。本来の意味とは全く違いますが、まさにそれです。カエル(両生類)は海に住めませんので大海など知りません(汽水域に住むカニクイガエルという変わり者(蛙)1種のみがいるくらいです)。理由は皮膚から水分を吸収できるので、海水中に入ると浸透圧により、逆に水分が吸い出され、脱水で死んでしまいます。

日本に渡ったカエル

話を元に戻します。朝鮮半島と日本が分断された事により、日本に渡ったカエルはトウキョウダルマガエルに、朝鮮半島に残ったカエルはトノサマガエルに長い年月をかけて進化していきました。それからまたまた年月が過ぎ再び氷河期に入りました。日本は再び朝鮮半島と地続きになり、朝鮮半島で進化したトノサマガエルが日本に侵入してきました。トノサマガエルはトウキョウダルマガエルより寒さに強かったため、トウキョウダルマガエルを駆逐しつつ、九州、中四国、近畿と分布を拡大していきました。しかし、太平洋沿いに進行したトノサマガエルは箱根付近で行く手を阻まれました。その時代はフィリピン海プレート上にあった伊豆半島が本土に衝突し、火山活動や造山活動が盛んな時期でした。そのため、それ以上東には進めませんでした。一方、日本海側沿いに進行したトノサマガエルは、順調に北上しましたが津軽海峡に行く手を阻まれ太平洋側から、三陸海岸沿いに南下を始めました。このようにして、トノサマガエルとトウキョウダルマガエルは現在の分布になったと考えられています。

未来のカエルたち

今後何万年か後には箱根の山を越えたトノサマガエルと、青森から南進し仙台平野のトウキョウダルマガエルを蹴散らしたトノサマガエル、あるいは上越国境を越えた個体群が、首都東京で出会うかも知れません。そうなるとトウキョウダルマガエルは絶滅…。それとも、カエルツボカビ症で両生類のほとんどが絶滅…外来種の進入、地球温暖化等々で絶滅…。

少々暗い未来を想像してしまいましたが、やっと温かくなって産卵を始め、これからだぞ!と言っているカエルたちに、そして人間を含めたそのほかの生物にも、よりよい未来となるように!100年に一度の大不況の世の中ですが、皆さん頑張って行きましょう(生きましょう)。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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