テクニカルノート

新型インフルエンザ(生物か無生物か…)

文:佐竹 一秀 2009年6月1日

インフルエンザウイルス

メキシコ発の新型インフルエンザが世界中に大流行しています。今のところ(原稿を書いている2009/5/24現在)宮城県内での感染は確認されていませんが、ニューズレターがお手元に届く頃には…。

インフルエンザの大流行を引き起こす原因はインフルエンザウイルスによるものですが、このウイルスがくせ者です。「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一・講談社現代新書)という本をご存じでしょうか?2007年にベストセラーになったので、読んだ方もいると思います。

著者は分子生物学者ですが、このなかでウイルスは生物と無生物の境界付近にいる生物?(無生物?)と書かれています。一般に生物とは①自己複製(増殖・繁殖)能力②エネルギー変換能力(代謝を行う)③恒常性(周囲の影響に対して一定の状態を保とうとする)を持っている事で定義されています。

生物にみえない。でも生物の特徴も持つ。

ウイルスはタンパク質でできた殻のなかに核酸(DNAまたはRNA)が入っているという単純な構造で、大きさも0.02~0.8μm(マイクロメートル=1/1,000mm)と極々小さなものです。同種のウイルスであれば核酸もタンパク質も同じであるため、個体差はなく、幾何学的な模様をしていて、ときには化学物質のように結晶にすることもできるのです。また結晶化させても死ぬこともなく(生物と無生物のあいだなので死という定義もありませんが)恒常性もなにもあったものでは有りません。また、代謝を全く行わないので、栄養もとらなければ、排泄もしない、まして呼吸もしない。こうなると生物とは呼べないと思うのですが…驚くことに自己増殖は行うのです。ただし、単独ではできずに、他の細胞に寄生したときのみ増殖を行います。そして爆発的に増えるのです。(コレラ、赤痢等も感染しますが、原因はそれぞれコレラ菌、赤痢菌の細菌です。細菌は後述の通り生物です)

幸いなことに今回の新型インフルエンザの毒性は季節性インフルエンザとあまり変わらないとの事ですので、感染しても重篤になる危険性は低いようです。ただ、変化して強毒性のウイルスになる可能性もありますので、今後も引き続き要注意です。

生物の分類

生物・無生物の話の流れから、生物の分類について少し解説します。一般の感覚では生物には動物と植物に分けられる。これは2界説と言われ、少し古い考え方です。1969年にホイッターカー(アメリカの生物学者)が5界説を提唱し、いくらかの修正を経て現在では最も一般的な区分法で、多くの論文に採用されています。5界説とは動物界、植物界、菌界(キノコや酵母菌等)、原生生物界(アカモク等の褐藻類、他の界に分類されない雑多な生物群)、モネラ界(細菌等)となっています。2界があって5界があるので、その間の3、4や6、8界説もあり、何をもって区分するかで、その時代時代でかなり変更があったようです。

生物種の数

それでは地球上に生物は何種類いるのでしょうか?
答えは「わかりません」が正しい答えのようです。名前(学名)のついている種は140~150万種ありますが、名前の付いていない種はその何倍もあると考えられているからです。新種として追加される種もありますが、それ以上に絶滅種として年間4万種以上も減っています。名前も付けてもらえず、人知れず絶滅していく種も多いことに胸が痛みます。

サクラソウ

サクラソウ

最後に、今回はウイルスがメインでしたので、写真はありません(ウイルスの環境調査は行っていませんので…)。それでは寂しいので、サクラソウの写真を載せます。今の時期に林間のやや湿った土地などにひっそりと(場所によっては群生して)咲いています。盗掘や生育環境の悪化で絶滅が危惧されている種で、環境省の絶滅の恐れのある野生生物の種のリストでは「絶滅危惧Ⅱ類」、宮城県の希少な野生動植物-宮城県レッドデータブック-では「絶滅危惧Ⅰ類」として掲載されている種です。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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