テクニカルノート

白鳥の湖(湿地)

文:佐竹 一秀 2011年12月1日

飛来したコブハクチョウ
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震災湿地のコブハクチョウ
(後方の建物は仙台空港)

11月13日と20日、広浦の南(仙台空港の北東側)、震災後に湿地となった場所に行ってきました。ビニールハウスの骨組みのアルミパイプの残骸等はきれいに撤去されていました。また、津波によりなぎ倒された防潮林も、閖上に近い場所はきれいに撤去され、瓦礫と化した松の木も一箇所に積み上げられて(長さ200m程度、幅10m程度、高さ7,8mが2列)いました。

そこに1羽のコブハクチョウがいました。コブハクチョウはヨーロッパ西部,中央アジア,モンゴル,シベリア南部が原産地です。ですので、外来種ということになります。宮城県でも時々記録されていますし、大きな公園の池などに放し飼いにされていて、餌付けされている場所も多くあります。嘴はオレンジ色がかった赤色で,その基部に和名の由来となっている黒色のこぶがあります。秋に宮城県内の河川や伊豆沼・内沼等に渡ってくる、オオハクチョウやコハクチョウとは、くちばしの色や形で簡単に見分けることができます。

籠ぬけして野生化
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コブハクチョウ

今回の個体もどこかの公園から飛んできた(逃げてきた:籠ぬけ(かごぬけ)という言い方もします)ものらしく、人なれしていて、私にどんどん近づいてきて、コンパクトカメラでも撮影できるくらいの距離まで近寄ってくれました。公園等に放し飼いにされる場合は、飛んで逃げられないように羽(翼の初列風切り羽(しょれつかざきりばね))を切ります。ただ、羽は生えかわりますので、そのまま放し飼いを続けると、飛ぶことも可能になります。また、日本国内でも十分繁殖できますので、そこで生まれた雛も、成長すれば当然飛ぶことができます。そのため、各地で野生化した個体も見られます。

原産地から離れても渡りを行う

1975年に函館市の大沼公園に1つがいのコブハクチョウが放されました。翌1976年には繁殖して8羽の雛が生まれ、合計10羽となりました。翌年の1977年に大沼公園から北東側約120kmにあるウトナイ湖に7羽が移動し、翌1978年からそこで繁殖するようになりました。その後も数を増やし1987年には70羽になりました。ただ元は1家族群ですので、遺伝子の交流もなく、近年は新たな雛が生まれていないようですし、全体の個体数も減ってきているようです。また、このウトナイ湖で繁殖する個体の一部は、茨城県の北浦や霞ヶ浦に渡り越冬しているようです。1980年に北浦で8個体が越冬し、1987年には52個体に増えました。この間に標識調査が行われ、ウトナイ湖と北浦や霞ヶ浦間の渡りが確認されました。原産地のヨーロッパ西部や中央アジア等の個体群も、冬季には南に渡りをするので、原産地から離れた場所でも渡りを行なう事は本能なのでしょうか…。当然といえば当然ですが、ちょっと不思議な気がします。今回私が見た個体も渡りの途中の立ち寄りで、「今年は海岸沿いに湿地が増えたな」などと言っているかもしれませんね。

◎オオハクチョウとコハクチョウの識別点

くちばし基部の黄色の部分が多く、黄色部の先端がとがっているのがオオハクチョウ。

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    コハクチョウ

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    オオハクチョウ

  • 【参考資料】
  • 中村一恵『スズメもモンシロチョウも外国からやって来た』(PHP研究所、1990年)162-165頁
津波になぎ倒された防潮林

文頭に記載しました防潮林の状況写真を以下に示します。津波で壊滅的な状況になっており、ほとんどは倒伏したまま枯れてしまっています。この枯れ木の除去が北側の閖上地区から始まっていました。閖上サイクルスポーツセンターの南側の防潮林内に1周4km程のサイクリングコースが設置されており、このコースの南端付近まで、倒伏した防潮林(マツ)がきれいに片付けられていました。ただそうなると林床の砂がむき出しになり、これからの季節は風が強く吹くので、砂が吹き飛ばされてしまうのではと心配しています。逆に海水が内陸側に吹き飛ばされる事による、塩害も気になるところです。また、防潮林による遮音効果も結構あったと思います。震災前には感じたことのない感覚ですが、波の砕ける音も恐いくらいにはっきりと聞こえます。 できるだけ早い防潮林の回復を望みます。

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    ◆倒伏し枯れた防潮林

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    ◆撤去された防潮林
    (奥は閖上:
    砂がむき出しの状態)

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    ◆積み上げられた松の残骸

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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