テクニカルノート

秋!!香る花・臭い虫

文:佐竹 一秀 2012年11月1日

秋香る花

10月に入り、夏の暑さが嘘のように、めっきり過ごしやすくなりました。徒歩での通勤も快適そのものです。そしてどこからかいい香りが漂ってきました。民家の庭先のキンモクセイです。秋を感じられる香りです。爽やかな秋風のなかに微かに香るくらいが良いのですが、近づき過ぎると結構匂いがきついです。そのため、昔はトイレ、というより便所といったほうがピッタリきますが、その傍に植えられて、におい消しの役目をさせられていた、かわいそうな樹木です。そのためか、年配の方の中には、その香りからトイレを連想してしまうため、キンモクセイそのものにもあまり良いイメージがないという話も聞きました。

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    キンモクセイ

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    キンモクセイの花

確かにトイレの芳香剤にもキンモクセイの香りが良く使われていました。最近は水洗トイレとなり、また換気性能も優れているため、臭いがあまり気にならなくなり、芳香剤も微かに香る程度のものが好まれているようで、ミントや柑橘系の人気が高いようです。ここからも時の流れを感じてしまうのは、古い人間なのでしょうか…。

秋臭い虫…
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シロヘリクチブトカメムシ

いい香りの次は臭い虫の話です。ピンと来た人も多いと思いますが、カメムシです。カメムシは半翅目(はんしもく)と呼ばれるグループで、セミ、ウンカ、アメンボなどもこの仲間です。半翅ですので羽根の半分が翅(薄い膜状の羽)です。では残りの半分は…。

解りやすくいうと、羽根の付け根に近い部分はカブトムシの(外側の羽根の)ように厚くて堅い革質のようなものでできていて、先端部分が薄い膜状の羽でできていいます。ただ、半翅目の全ての種がこのような羽根をもっているわけではなく、異翅亜目(いしあもく)の種がこのような形状の羽根です。

また、セミのように全て薄い羽を持っている種は同翅亜目に分類されています。近年、前者をカメムシ目、後者をヨコバイ目という学者も増えています。また、細長い管状の口を持っていて、ストローのように動物や植物の体液を吸うという特徴も持っています。分類の話は説明が難しいのですが、広い意味でのカメムシの仲間を陸生、水生、両生に分けることもあります。陸生はカメムシ類そのもので、水生はタガメやタイコウチ、両生はアメンボ類です。アメンボも捕まえると、かすかに飴のような甘い匂いを放ます。この、飴のような匂いからアメンボとなったといわれています。陸生のカメムシは臭い匂いを放ち、両生のアメンボも匂いを出します。でも水生のタガメやタイコウチを捕まえても匂いません(タガメは激減していて滅多に捕まえられませんが)。水中で生活していますので、水に邪魔されて、周囲にうまく拡散できないので、臭いを出さなくなったのではと思っています。臭いは周辺へのメッセージです。

臭いの役割
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ツノアオカメムシ

カメムシは敵に襲われたときに臭いを出します。スカンクのように敵を撃退できるほどの臭いなのでしょうか(スカンクの臭いを嗅いだことはありませんが)。カメムシの捕食者は主に鳥類で、幼虫期はアリにも狙われやすいです。鳥に襲われたとき(かじられたとき)に少しひるむような仕草がみられたと報告もありますが、臭気を出す能力の低いカメムシが捕食され難かったとの報告もあり、はっきりとは解っていないようです。

ただ、アリに関してはその効果が確認されていて、潰したカメムシをアリの行列に置くと、臭いのあるうちは避けてとおりますが、臭いがなくなると餌になることが確認されています。何らかの原因で地上に落ちた場合、特に飛べない幼虫期にはアリの餌になってしまいますので、体勢を立て直す時間、アリを寄せ付けなくするための臭いと考える事もできます。この臭いがアリの警戒フェロモンと構造が似ているとの報告もあり、悪臭はアリからの捕食を避けることから進化してきたものとも考えられています。また、仲間同士での危険信号(警戒フェロモン)の役割もあり、葉っぱの裏に群れているカメムシのなかに、同種の出した臭気を嗅がせたところ、一斉に落下し逃避したとの報告もあります。面白いことに、低濃度であればこれが集合フェロモンの役割を果たして、個体を集合させる働きも知られてきました。同じ物質を濃度によって警戒と集合の2つの行動を起こさせるとは、何と自然は(カメムシは)効率的なのでしょうか。他にも集団で越冬することや、カラフルな色合いのカメムシもいて、研究材料としては面白いと思いますが、なかなか研究が進んでいないようです(臭いのせいか…)

カメムシ体験談
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アカギカメムシ

晩秋のある日、岩手のある山中の民宿に泊まった時の話です。朝は冷えるのでストーブに火を入れ、温まったところで朝食です。まず味噌汁を飲み…(口の中に何やら硬いもの、味噌汁の具と思ってかじりました…)。皆さんの想像の通り、カメムシのいやな臭いと変な食感、すぐに吐き出しましたが、しばらくは大変でした。また、夜も寒いので、部屋を暖めてから布団にもぐりこみます。が、ここでも変な臭い。布団をめくるとつぶれたカメムシが…。民家の天井裏や壁の隙間で集団越冬中なのですが、部屋を温める事によりもぞもぞと動き出し、天上や壁を這い回り、一部は落下して上手い具合に味噌汁のお椀やコップの中へ、あるいは布団の中にという事でしょう。

今回はキンモクセイのいい香りからトイレの話、そしてカメムシのいやな臭い。爽やかな秋なのに、皆さんの記憶の中からいやな事を思い出させてしまったかも知れません。これも季節の話題として、お許し下さい。

最後の1枚はアカギカメムシという南方系のカメムシです。琉球列島には多くいて、本土では少なく九州、四国や本州南岸で記録があります。実はこれがいたのは岩手県の普代村です(2012年9月6日確認)。長距離の移動ができるとの情報もありますが、東北の北ですのでチョット距離があり過ぎます。確認場所が宿のそばの草地、震災復興関連で南の地方からの方々も宿泊しますので、その車に乗って運ばれてきたのでは…と考えていますが、如何に。

  • 【参考資料】
  • 藤崎憲治『カメムシはなぜ群れる?離合集散の生態学』(京都大学学術出版界、2009年)23-45頁

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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