テクニカルノート

 巳年(ヘビは嫌いです!)

文:佐竹 一秀 2013年1月20日

巳は象形文字
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シロヘビ(レプリカ)

明けましておめでとうございます。今年は巳年です。「巳」(み、し)という字は、胎児の形を表した象形文字です。蛇が冬眠から覚めて地上にはい出す姿を表しているとも言われ、巳にヘビを当てはめ巳年=ヘビ年となりました。

前にも書いた記憶がありますが、私は蛇が嫌いです。原稿を書くために爬虫類の図鑑も見たりしますので、チョッと苦痛です。あまり見過ぎると、夢に出てくるのでは…(蛇の夢は金運UPと聞きますので、期待したいですが!…)。蛇はからみつく、咬む、毒がある等の怖いイメージもありますが、神の使い、金運、開運、厄除け等、縁起のよい動物でもあります。七福神のひとつである「弁財天」は水に関係の深い神様で、蛇の形をした神として祀られていることも多いです。また、蛇の抜け殻を財布に入れるとお金が貯まるという言い伝えもあり、お守りにしている人もいるのではないでしょうか。特に白色のヘビとなれば、そのご利益に期待が高まります。

天然記念物、岩国のシロヘビ

シロヘビが多くいる地域があります。それは山口県の岩国市です。岩国市のシロヘビは国の天然記念物になっています。天然記念物といっても実は普通種のアオダイショウのアルビノ(白化個体)です。アルビノとは突然変異で生まれつき色素を持っていなので、色の無い(白い)ヘビです。アルビノは虚弱な個体が多く、白く目立つため、外敵に捕食されやすいです。またヘビは這い回りますので、皮膚病になりやすく、短命です。そのため子孫を繋ぐことも難しく、自然の状態でアルビノの個体群が維持されることはまず考えられません。

しかし岩国では推定1,000個体と多くのシロヘビが生きていて、代々子孫を残しています。今から150年ほど前の1862年に岩国のある地区の米倉(こめぐら)で2匹の白いヘビが見つかりました。米倉ですのでねずみ退治の役に立ちますし、神仏の使いとか、縁起がよいものとされ、大切に守られました。同じアオダイショウでも普通の色の個体は、殺されることも多かったようですが、白い色の個体は大切にされ、その地域に代々引きつがれていきました。その結果として、シロヘビの個体群が継続的に維持されて、1924年に「シロヘビの生息地」として地域が天然記念物に指定。その後1972年に「岩国のシロヘビ」と生物としてのシロヘビが指定替されました。このように、人為的かつ潜在的な信仰心からシロヘビは地元の方々に守られています。結果的にですが、現在のトキやコウノトリ等、貴重な動植物の保護増殖の先駆け的なものと言えると思います。

毒蛇になったヤマカガシ
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ヤマカガシ

次は、あるときから急に毒蛇になった蛇の話です。私くらいの年代(50才代)から上の人は、子供の頃には日本(本土)にいる毒蛇はマムシだけと教わったと思います。それがある時、ヤマカガシにも毒があるということになりました。1984年に中学生がヤマカガシに咬まれ、死亡したからです。ヤマカガシは上あごの後方(眼の後ろの下)に毒腺を持っていて、左右一対の毒牙を伝わらせて獲物に注入します。毒牙が中空になっていて、そこを通って毒が注入されるハブやマムシとは違うので、深くそして長時間かまれないと、毒の注入量は少なく問題とはなりません。そのため、それまでは毒はないとされていました。ただ毒性は強く静脈内に入った場合はコブラ毒なみの強さを示すといわれていますので、要注意です。なお、マムシはからだが小さくため毒の量が少ないため、咬まれても死に至るケースは少ないようです。

首の後ろにも毒がある

また、余り知られてないと思いますがヤマカガシはもう1箇所毒をもっています。それは首の後ろです…(細長い蛇のどこが首?と考えてしまうと眠れなくなりますが)、頭の後方の皮膚の下に頸腺(けいせん)という2列に並んだ分泌腺を持っていて、この中に毒があります。そのため、この頸部を強くつかむと、乳白色の分泌液が表面に染み出してきたり、場合によってはスプレー状に飛び出してくることもあります。ヤマカガシを捕まえると、捕獲者に対して激しく首を打ち付ける行動をとる事があります。この毒を使って捕獲者から逃げようとするようです。この毒の成分の一つはヒキガエルの耳腺からでるガマ毒と同じで、眼に入ると激しい炎症を起こし、一時的に失明するくらいの強い毒です。

ヒキガエルの毒を蓄積

ヤマカガシはヒキガエルを食べることも多くあります。特に丘陵地の林床をヒキガエルがのろのろ歩いているところも時々見ますので、恰好の餌です。ヒキガエルを食べて、ヒキガエルの毒と同じ成分の毒を溜めています…。これは偶然の一致でしょうか。実は最近の研究で食べたヒキガエル毒を利用し、頸腺に溜め込んでいることが分かりました。金華山(宮城県の牡鹿半島の先端にある離島)にはヤマカガシがいますが、ヒキガエルがいません。この島のヤマカガシはヒキガエルと同じ毒成分を持っていませんが、その後、そのヤマカガシにヒキガエルを食べさせたところ、頸腺に同じ毒成分を持つことが、確かめられています。不思議と言えば不思議、合理的と言えば合理的です。アメリカに生息しているヤドクガエルは、同所にいるアリやダニを食べ毒をえている事が確かめられており、フグ毒は海洋性細菌が作る毒が食物連鎖により生態濃縮され、これを体内に蓄積しているとの説が有力です。生物の世界では一般的なようです。

「復活・再生」の年に…
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仙台空港東側:
手前は倒伏した松林が撤去され、
奥に重機が見える。その先は仙台湾。

巳(ヘビ)年は蛇が脱皮することから、「復活・再生」の年といわれます。正に被災地の復興を進める年になってほしいです。ただ、気がかりな点があります。この原稿でよく紹介する仙台空港東側のフィールドで、倒伏したマツを撤去し、防潮堤が作られ始めています。重機が動き回り、トラックがひっきりなしに通ります。復興は急がなくてはなりませんが、そこの環境に配慮されているのでしょうか。確かに津波で壊滅的なダメージをうけましたが、自然の力で少しづつですが回復してきています。高度成長期のような無秩序な開発で大事な自然環境を失い、失った自然環境は取り戻せないことを学習してきたはずですが…。

巳年から時季はずれのヘビの話を書きました。シロヘビの御利益に期待しつつ、今年も頑張っていきましょう。

  • 【参考資料】
  • 大滝竜二『週刊日本の天然記念物動物編第30回配本 岩国のシロヘビ』(小学館、2003年)
  • 日高敏隆『日本動物大百科5 両生類・爬虫類・軟骨魚類』(平凡社、1996年)84-91頁

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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