テクニカルノート

夢のある?生物

文:佐竹 一秀 2015年1月20日
(WEB公開:2018年1月20日)

新年、生きものと人の関わりについて

あけましておめでとうございます。本年も「不思議な生きものがたり」にあたたかい声援と鋭い突っ込みをお願いいたします。世間の風は厳しいですが、生き物たちと一緒に頑張って生きていきます。

新年号です。普段は特定の種の面白い生態等を取り上げていますが、今回は生物と人間の関わりについて考えてみたいと思います。生物の話は「増と減」がメインになってしまっています。絶滅危惧種と外来種・移入種が増え、身近な生物が減っている、そんな話は世間にあふれていますので、ここでは新年らしく夢のある話でまとめてみたいと思います。

生物を真似た技術
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カワセミ

最近バイオミミクリー(Biomimicry)という言葉を耳にすることも多くなりました。生物模倣技術と訳され、生物の持っている能力等をまねして、人間に役立つものや技術を作り出すことです。生物のこれまでの進化の過程で作られた、形態や仕組み、生物が作りだした物、あるいは生物そのもの、さらには全ての生物を含んだ生態系に寄り添う形で、いろいろ利活用が始められています。まだまだ動き始めた新分野ですので(当然古くからの技術もあるのですが)、研究途上であり、成果が出ていないことも多くありますが、考えるだけでワクワクするような話もたくさんあります。

新幹線の騒音対策にフクロウとカワセミが利用されていることは、よく知られています。フクロウの風切羽には他の鳥にはないセレーションと呼ばれるギザギザがあります。これが空気をうまく逃がして抵抗を少なくしているため、静かに飛ぶことができるのです。このギザギザを新幹線の一番の騒音源であるパンタグラフにつけることで、騒音を低減することができました。また、新幹線が高速でトンネルに突入すると、空気の圧縮波が出口付近で大きな音として発せられます。トンネルドンと呼ばれる現象です。新幹線の先頭車両の形状を、スーパーコンピューターを使ってシミュレーションした結果、水中へ小魚を捕食するためにダイビングするカワセミのくちばしから頭部にかけての形状に酷似したものとなりました。こうして作られたのがJR西日本の山陽新幹線500系です。

何にでもくっつくヤモリテープ
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ヤモリ

ヤモリテープというものをご存じでしょうか。ヤモリは垂直のガラス面でも平気で移動できる、粘着性と言ってよい?足を持っています。ツルツルのガラス面でもミクロの目で見ると、凹凸があります。ヤモリの足には、1cm?に20億本ものタンパク質の繊維が生えており、その一本一本がガラスの表面の凹凸に入り込んで隙間をなくすことで、引力(ファンデルワールス力:分子間引力)が生じ、垂直な壁にも「くっつく」ことができるのです。この原理を応用して日東電工と大阪大学中山研究室との共同開発で作られたのがヤモリテープです。ヤモリテープの特長としては、強接着だが、剥がしたい時には簡単に剥がすことができる・接着面を汚さない・どんな被着体にも接着できる等があり、今後いろいろな場面での利活用が期待できます。

トンボの凄い翅

次はトンボです。子供の頃に追いかけたりしたと思いますが、トンボの飛翔は凄いです。直線的に飛ぶこと以外に、急上昇、急降下、急旋回、そしてホバリング、さらには後退。まさにどのようにでも飛べるのです。これは4枚の翅に直接それぞれ筋肉がついているところからできる技です。トンボの翅の断面は鳥類の流線型とは違って、薄板に凹凸を織り込んでいるような形です。この凹凸を利用して、翅の上面に小さな渦を次々と作り、この渦の列をベアリングのように使って、空気抵抗を調節することでスムーズに飛行しているのです。また、トンボは最も低速で飛翔できる昆虫でもあります。これは言いかえれば少しの風でも浮力に変えることができる、ということです。現在の風力発電は平均で5~6m/s以上の風速がないと採算に合わないといわれていますが、トンボの翅を応用して1m/sの風速でも十分な電力を得られる、直径60cm程度のマイクロ風力発電機の性能評価も行われているようです。また、エアコンの送風機にも応用されていて送風効率を30%程度向上したシャープ製の製品も出ています。

ハダカデバネズミの若さと長寿命

まだまだあるのですが、もう一つだけ。アフリカのサバンナにハダカデバネズミというネズミがいます。名前の通り、毛がなく(細かい体毛は生えていますが)最前面の上下4本の歯が前に出ている、体長10cm程度の大きさで地中にトンネルを掘って生活している種です。小型動物は一般に短命といわれていますが、このネズミは寿命が30年近くあり、マウスの10倍以上、大型のげっ歯類のカピバラでも十数年ですので、長寿命です。さらに、人間でもマウスでも中年以降は(もっと若いうちからも…)元気がなくなるのですが、30年近い寿命のうち8割程度は若々しい肉体を維持し続けるのです。何ともうらやましい限りです。この長生きと元気の秘密を探って、ゆくゆくは人類のためにと研究が進められています。

地球は人のためにある…?

話は急に大きくなりますが、地球誕生から46億年、最初の生命は38億年前、そして人類の祖先である霊長類は6,500万年前に出現しています。ちなみに、アフリカで発見された600~700万年前の頭骨が最古の人類と言われています。過去があっての現在、そして未来です。生物はその時々の環境変化に適応し、あるいは自然淘汰され、その結果として進化してきました(進歩ではありません)。ある者は生き延びるために特殊な能力を身につけ、ある者は身につけられずに滅びました。特に近年のある者に至っては、地球はその者のためにあるような振舞いを行っています。たかだか600~700万年前の新参者だったのですが…。

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叡知の象徴、フクロウ

人類が繁栄したきっかけは何処にあったのでしょうか。最初はたまたま道具を使う(使える)ことで他の生物より少しだけ優位に立ったと思います。その後、火を使い、知能と技術を発達させてきました。近年は環境に適応するのではなく、環境のほうを人に適応させるように仕向け、その結果として公害問題や地球温暖化を顕在化させるに至っています。ただここにきて、環境をいかに制圧するかを考え行動してきた人間が、生物の持っている能力を真似し、生活の中に取りこみはじめています。生物の持っている能力は進化の過程で得られた、自然の理にかなったものです。もしかすると、人間という生物の繁栄はもう少し続くかもしれません。(新年早々楽しい言葉では〆られませんでした…反省)

  • 参考資料
  • 赤池学『生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術』(NHK出版、2014年)

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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