テクニカルノート

宮城県およびその周辺地域におけるキタドジョウ生息状況に関して

2018年9月14日
文:水域調査室 旗 薫

はじめに

以前からドジョウは遺伝的にいくつかの系統に分けられる事が知られていましたが、これらは「日本のドジョウ(2017年 山と渓谷社)」において遺伝的系統および形態的特徴の違いから4種に整理され、従来のドジョウに加え、学名未決定ながらキタドジョウ、ヒョウモンドジョウ、シノビドジョウという3種の新標準和名が提唱されました。環境省のレッドリスト2018には、ドジョウは準絶滅危惧種、キタドジョウ、ヒョウモンドジョウ、シノビドジョウは情報不足(DD)として掲載されています。日本国内におけるこれらの分布域は以下の通りです。

・ドジョウ      … 琉球列島を除く日本各地(北海道の分布は移入によるもの)
・キタドジョウ    … 北海道および本州東部
・ヒョウモンドジョウ … 沖縄諸島、八重山諸島
・シノビドジョウ   … 奄美諸島、八重山諸島(移入の可能性有り)

したがって、東北地方にはドジョウ、キタドジョウが生息することになります。キタドジョウは既往のミトコンドリアDNA解析研究においてドジョウのクレードAとして知られていたもので、現時点における本種の分布情報は、この解析結果に基づくものとなっています。本種はドジョウと比較して口髭が長く眼型は小さく、また雄の胸鰭基部にある骨質盤の形状がドジョウとは異なるとされていますが、これらの形態的特徴は北海道および青森県の標本から得られた情報であり、それ以外の地域においては形態に関する情報が不足しているようです。このため今回、宮城県とその周辺地域におけるキタドジョウの生息状況および形態的特徴把握の足掛かりとして、青森県、岩手県、宮城県でドジョウ類の採集を行い、採集個体の一部を対象に遺伝子解析を実施しました。

調査地点および調査手法

本州におけるキタドジョウの生息地は、山間部の水温が低い池沼に多いとの情報があります。そこで、既往のミトコンドリアDNA解析研究においてクレードAが確認されている地域から上記の環境に該当する5地点(No.1~No.5)を選出し、タモ網、サデ網、カゴ網、定置網などを用いてドジョウ類を採集、胸鰭基部の骨質盤の形状を記録し、またNo.2~No.5で採集された個体を対象にミトコンドリアDNA解析を実施しました。

・No.1
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No.1:青森県下北半島

既往調査においてキタドジョウの生息が確認されている、青森県下北半島内にある湿地の1地点(No.1)で採集を行いました。キタドジョウと、東北地方他地域のドジョウとの形態比較を目的に設定した採集地点です。

・No.2
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No.2:岩手県奥州市

既往のミトコンドリアDNA解析研究結果においてクレードAが出現している岩手県奥州市にある、山間部の溜め池1地点(No.2)で採集を行いました。

・No.3~5

既往のミトコンドリアDNA解析研究結果においてクレードAが出現している宮城県大崎市にある、山間部の溜め池3地点(No.3~5)で採集を行いました。

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    No.3:宮城県大崎市

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    No.4:宮城県大崎市

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    No.5:宮城県大崎市

調査結果

各地点における調査結果は以下の通りです。

・No.1(青森県下北半島)

確認されたドジョウ類は、骨質盤の形状からキタドジョウと同定されました。

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  • No.1採集個体(キタドジョウ)とその骨質盤

・No.2(岩手県奥州市)

確認されたドジョウ類は骨質盤の形状およびミトコンドリアDNA解析結果から、在来系統ドジョウと同定されました。

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  • No.2採集個体(在来系統ドジョウ)とその骨質盤

・No.3(宮城県大崎市)

確認されたドジョウ類は、骨質盤の形状およびミトコンドリアDNA解析結果から、在来系統ドジョウと同定されました。

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  • No.3採集個体(在来系統ドジョウ)とその骨質盤

・No.4(宮城県大崎市)

確認されたドジョウ類の骨質盤はドジョウのそれに近い形状でしたが、ミトコンドリアDNA解析結果からキタドジョウと同じクレードAに属する事が分かりました。

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  • No.4採集個体(宮城県産クレードA)とその骨質盤

・No.5(宮城県大崎市)

確認されたドジョウ類は、骨質盤の形状はドジョウと同型でしたが、ミトコンドリアDNA解析結果から在来系統とは異なる、中国系統(移入系統)のドジョウである事が分かりました。

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  • No.5採集個体(中国系統ドジョウ)とその骨質盤

まとめ

調査地点数もミトコンドリアDNA解析の検体数も少ない今回の調査において、得られた情報は極めて断片的なものですが、少なくとも宮城県内にはNo.4確認個体のように、キタドジョウと同じクレードAに属しながらドジョウと似通った形状の骨質盤を持つ個体が生息することが確認されました。しかしながら、この個体が純粋に下北半島産キタドジョウと異なる形質をもつ集団に属するのか、在来系もしくは中国系統ドジョウとの雑種個体であるのか、現時点では明らかではありません。キタドジョウを含むクレードA系統の集団構造を解明するためには、母系遺伝するミトコンドリアDNAの解析と合わせて、雑種判定が可能な核DNA解析の実施が必要となるかもしれません。今後も少しずつ、データを蓄積していきたいと思います。

  • 【参考文献】
  • 中島淳・内山りゅう. 2017. 日本のドジョウ. 山と渓谷社. 223p.
  • 小出水規行・竹村武士・渡辺恵司・森淳. 2009. ミトコンドリアDNAによるドジョウの遺伝特性. 農業農村工学会論文集No.259. pp.7-16.
  • Morishima,K.,Nakamura-Shiokawa,Y.,Bando,E.,Li,Y.J.,Boroń,A.,Khan,M.M.R.,Arai,K. 2008. Cryptic clonal lineages and genetic diversity in the loach Misgurnus anguillicaudatus (Teleostei: Cobitidae) inferred form unclear and mitochondrial DNA analyses. Genetica132. pp.159-171.

※関連記事:キタドジョウ写真資料

 
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