生態系保全についての国際的な動き
2010年10月、COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が名古屋で開催されました。この会議の基礎となっている生物多様性条約(生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD)1993年5月締結、同年12月発効)では、条約の目的として「生物多様性の保全」と、その「持続可能な利用」を掲げています(※第1条参照)。
- (1)生物多様性の保全
- (2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用
- (3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分
生物を守る条約としてはほかにラムサール条約やワシントン条約などがありますが、これらの条約で規定されているのは特定の地域、種であり、ネットワークとしての生態系全体を保全することは困難です。そのため、新たな包括的枠組みとして生物多様性条約が締結されました。特徴的なのは、この条約には「利用」という視点が盛り込まれていることです。
◆社会は自然の資源によって成り立っている
人間社会は、生きものを含めた自然の資源を利用することで成り立っています。現在、私たちの暮らしに必要不可欠な食料、工業製品、サービスなどのほとんどが企業活動によって提供されています。そして、企業によって提供されるこれらの多くは、生物多様性の恵みによってもたらされています。例えば米や魚などの生物資源、研究・開発のためのヒント、観光サービスのための自然景観、事業活動で排出した水やCO2の浄化吸収機能などです。これらを総じて「生態系サービス」と呼びます。
●生物多様性とは?
生物多様性とは、《人類も含めた様々な種類の生物がつながりを持って存在している状態》のこと。まだ耳慣れないこの言葉は、大きな視野では地球上の自然環境の多様さから、小さな視点では生物の分子レベルでの差異までを含む実に多大な概念を包括しています。その生物多様性が、現在、国境をも越えた物流網の発達により、過去50年間に大きく損なわれており、現代は6度目の生物大絶滅期とさえ言われています。生物多様性を保全し、持続可能な利用を行っていくためには、国や地方自治体と共に、企業をはじめとする民間の参画が不可欠です。
企業と生態系サービス
社会を構成する要素のひとつである企業も、生態系サービスと深く関係しています。しかし、多くの恵みを得ているからこそ、企業による経済活動は原材料調達や土地利用による生息地の分断、輸送の際の外来種拡散、鉱物資源の採掘や事業場の操業による水質汚染など、生物多様性に多大な負の影響を与えてしまっていることも事実です。
もちろん、必ずしも利用=破壊ではありません。自然には自己修復能力があり、その範囲内での利用ならば生態系に悪影響を与えることはありません。けれども生態系への影響を考慮せずに行った大規模な開発や、原油流出などの意図しない事故など、経済活動に伴う自然破壊はその限度を大きく超えてしまっているのが現状です。一度壊れてしまった自然を元に戻すことは非常に難しいことですが、だからといって、自然が壊されていくのを放置することはそのまま現在の私たちが享受している豊かな生活の終わりにつながります。
※これらの生物多様性の恵みと、企業が与える影響は一部の大企業だけが関係するのではなく、サプライチェーンを通じて、直接的、間接的にすべての企業に関係しています。
◆持続可能な利用のために
いますぐすべきことは、これ以上の自然破壊を防ぐことです。そのために、環境にかける負荷をできるだけ抑える、あるいは開発によって自然を大きく改変した際にはそれと同等の自然を復元することでその代償とする、などの動きがすでに始まっています。利用しつつ、それを保護し育てていく、さらにはかつてあった自然よりももっと豊かな状態を目指す、そうすることによってはじめて自然の持続可能な利用が実現できるのです。
自然を、ただ守るべきものとしてだけではなく、私たちの生活と社会の基盤となる「生態系サービス」をもたらすものとしてとらえ、多様な生き物とその生息環境を保護し、生態系がもたらす恵みを将来にわたって活用していく、そのための仕組みや方策を探ることがいま、求められています。
企業と地域の生物多様性
◆企業は何を目指せばよいのか?
これまで地域の自然は、県や市町村などの地方自治体や、地域のNPOによって保全されてきました。そしてそこに立地する企業は、地域の自然を利用し、ややもすれば、生物多様性に負の影響を与えてきました。
2010年12月、「地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性保全活動促進法)」が成立、公布され、各地方自治体がそれぞれ独自の取り組みを行うための、後押しをする制度が整いつつあります。
この流れのもとに、企業もまた地域の自然に積極的に関わっていくことが期待されています。しかし、その「関わり方」は単純にこれまでの自然への負の影響を減らし、生物多様性の保全を行う、ということだけでよいのでしょうか?そこから一歩進めて、自然と企業が相互に利益を得ることができるような、互恵関係を築くことが必要ではないかと、エコリスは考えます。
すなわち、企業が目指すべきは、地域の一員として「豊かで持続可能な社会&企業」を実現することなのではないでしょうか。自然、企業、地域、これらはお互いに深く関わりあい、どれかひとつが欠けても社会はたちゆかなくなります。そのために、エコリスでは「生物多様性の保全+α」への取り組みと、「地域の自然を活かす企業づくり」を提案します。
●なぜ、企業が地域の自然を活かすことが、豊かで持続可能な社会&企業につながるの?
勤務する従業員も含め、企業は地域の生物多様性に最も依存しており、地域の自然を活かして新たな恵みを創出すれば、それは直接企業の利益となり、また地域も豊かになります。地域の気候、景観、種、遺伝子の構成は、そこにしか存在しない希少で価値のある財産です。これまで価値あるものと考えられていなかったこれらの要素は、近年、自然資本として改めて捉えなおされています。地域の自然資本を最も有効に活かせるのは、その地域の企業です。各地にある様々な企業が、その地域の自然を保全し活かすことにより、社会全体が豊かで持続可能となります。企業が地域の自然を活かすことによって、地域と企業が存続していくための基盤が強固なものとなり、その価値も高まります。そのため豊かで持続可能な社会&企業の実現につながるのです。
◆「地域の自然を活かす」ためには?
生物多様性の恵みをこれまでどおり利用していくために、現状の自然を維持、回復させるだけでなく、そこから新たな価値をつくりだす+αの取り組みをすることによって、地域の自然が活かされます。
- (1)地域の生物多様性の現状を把握
- (2)企業が地域の生物多様性に与える影響を低減させる
- (3)周辺地域の自然を保全
- (4)新たな恵みを創出し、活用する
生物多様性の保全は、コストではなく、自然資本への投資です。
生物多様性が失われることから生じる損失のリスクを無くし、新しい恵みをつくりだすことで、そこから生まれるチャンスを活かす。これが企業による生物多様性への関わり方です。
私たちにできること
◆地域の自然を知り、守り、活かす
地域の生物多様性の恵みと影響の把握は、生き物調査から始まります。専門家が、事業所周辺の生き物を調査するとともに、文献調査で地域の生物多様性の特徴を明らかにします。調査結果は、生物リスト、写真表、標本、生物多様性マップとしてまとめ、最終的に「事業所地域の生物多様性報告書」を作成します。報告書では地域の生物多様性の現状、事業所との関わりを示し、東北地方を中心とした野生動植物調査の長年の実績をもとに、今後、企業がどのように地域の自然を保全すればよいのかを提案していきます。
この調査によって、企業は、事業活動が地域の生物多様性に与える影響を低減し、周辺地域の自然を維持回復させる取り組みを主体的に行うことが可能となります。地域の生物多様性を保全するための具体的な施策としては、重要な生き物の生息地保護、在来の生き物を脅かす外来種の駆除、生態系ネットワークの構築や環境学習の場としてのビオトープの創出の実施などがあげられます。私たちは、生き物の専門家としてこれらの保全活動をサポートします。
地域と事業所周辺の生物多様性を把握し、保全することにより、企業が地域の自然を活かすための準備は整いました。企業にとっての「生物多様性の保全」はここから始まります。地域の自然資本をどう活用するか。それをエコリスは企業のみなさまと共に考え、提案していきます。
お申込み・ご相談
◆参考:生物多様性の評価に関して
Natural Capital Projectによって開発されたArcGISのツール、InVestを利用すると、地域が保有する生物多様性、二酸化炭素の貯蔵、水力発電、浄水機能、木材生産、作物の受粉などの様々な生態系サービスを定量的に評価し、地図化することができます。
◆参考PDF
生物多様性の保全+αによる 地域の自然を活かす企業づくり◆生物多様性の保全についてのご相談
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