実施背景
2023年12月22日午前、株式会社地域環境計画さん、FRSコーポレーション株式会社さん、エコリスの3社合同で登樹方法・人工巣ワークショップを実施いたしました。株式会社地域環境計画の嘉藤様に講師を務めていただき、エコリスからは主に鳥類調査を専門とする社員7名が参加しました。本記事ではワークショップの様子とその内容についてご報告いたします。
鳥類調査では、営巣木調査や人工巣の架設のために、木登りをすることがあります。木登り作業には多くの労力を要し、常に危険と隣り合わせのため、安全管理の技術や効率化の工夫が必要です。しかし、そうした技術や工夫について、他社ではどうしているのか? 自社で取り入れられることはあるか? ということを共有する機会はあまりありません。そこで、各社で培われてきた知見や考え方の共有、より良い登樹方法や人工巣架設に向けた意見交換を目的とするワークショップを開催しました。挙げられた議題は、1.登樹方法の選択、2.使用機材の紹介、3.登樹作業の理想と現実、4.人工巣の架設方法の4項目でした。
1.登樹方法の選択
まず、登樹の際に用いられている方法の確認をしました。
〇エイドクライミング方式
木の幹に木登りステップを設置しながら、ステップを使って木を昇降するクライミング方法です。安全性が高いですが、複数のステップを運ぶため時間を要し、重量も重くなってしまう側面があります。エコリスでは基本的にこの方法を用いています。
〇シングルロープテクニック
スリングショットなどでロープを木の上部に渡し、アッセンダーやディッセンダーといった道具を用いてロープを昇降する方法です。機材が軽量で済む利点があります。
〇梯子法
梯子や脚立などを立てかけて昇降する方法です。樹高の低い木であれば簡便な作業となります。高木の登樹には不十分ですが、最初の足場として活用することもあります。この他、木登り用のスパイクを足に装着し、幹に引っ掛けながら木を昇降する方法などもあるようです。
続いて、樹形に応じた登樹方法の選択を話し合いました。
●大径木
幹が太い大径木の場合、エイドクライミング方式では、木登りステップの、幹に巻き付けるストラップの長さが足りない場合があります。その場合は、シングルロープテクニックを用います。
●傾斜木
木が大きく傾いておりステップの設置が難しい場合には、シングルロープテクニックを用います。また、対象木の近くに登樹の容易な木があれば、そちらに登って作業をする場合もあるようです。
以上のように、登樹方法の選択は、安全性と効率性、対象木の樹形などを考慮して行われていることを確認しました。また、傾斜木など到達の難しい事例を紹介し、この場合はどうするか? という議論もされました。各社で用いている方法に違いはあっても、安全管理に対する基本的な考え方は共通していました。
2.使用機材の紹介
次に、各社で使用しているツリークライミングの道具を持ち寄り、実際に手に取りながら以下のような内容を確認しました。
〇カラビナ
カラビナは必ずクライミング用のものを使います。形状やロック方法などで様々なタイプがあるため、適切なものを選択する必要があります。カラビナは縦軸への負荷を前提とした耐荷重が設定されており、強度が弱くなる方向があることと、ゲートが開いた状態でも強度が弱くなることに注意します。カラビナに示されている表示をよく読むことが大切です。形状は大きく分けてD型、O型、HMS型の3タイプがあります。荷重の掛かる方向や、用途、サイズ、重さなどを考慮して選びます。ロック方法については、まず安全環が付いているかどうかで分けられます。安全環付きカラビナの中でも、オートロック、ツイストロック、スクリューロックなどのタイプがあります。用途と付け外しの頻度から選びますが、特に片手で外しやすいかどうかがポイントになるとのことです。
今回、色々なタイプのカラビナを触らせて頂きましたが、今回は木登り経験のない若手社員も参加していたため、慣れるまでは片手での開閉に手間取る様子も見られました。スムーズかつ安全な作業のためには、事前に道具の使用方法について練習をしておくことも重要であると実感しました。
〇ロープ
ロープについてもカラビナ同様、クライミング用のものを使い、耐荷重に注意します。ロープの強度や破断荷重は、種類と太さによっても変わります。また、素材によって摩擦や水・汚れへの耐久性も異なります。これらは安全性や使いやすさ、他の機材との相性にも関わります。また、ロープには伸びやすさの違いもあります。落下時の衝撃吸収には伸びやすいロープ、ロープ昇降や重い荷物の運搬には伸びにくく摩擦に強いロープを使うと良いため、使用するロープの性質を理解しておくべきとのことでした。
〇ハーネス
落下時に体を支えるために、必ずハーネスを着用しています。ハーネスにはいくつかの種類がありますが、落下時の衝撃吸収においては、フルハーネスが優れているとのことです。
今回、実際にフルハーネスを着用しました。多少動きにくくはなりますが、肩、胸、腰、大腿などで支えることができるため、安定感がありました。
〇スリングショット
シングルロープテクニックにおいて、ロープを飛ばして木の上部にかけるための道具です。ロープを手で投げて木にかけようとすると、狭い場所で飛ばしにくかったり、他の枝に絡まってしまったりします。スリングショットを使えば、投てきに不慣れでも狙った場所にロープを通しやすくなります。今回、地域環境計画さんがお持ちくださったものは、なんとおもりはお手製。随所に試行錯誤の成果が組み込まれており、社員一同、興味津々で拝見しました。素材や使い方に関する質問も多く出ていました。実際にスリングショットの発射まで体験させていただき、貴重な機会となりました。
3.登樹作業の理想と現実
続いて、理想的な木登り作業という観点で話し合いをすると、以下のような意見が出ました。
- ・木登りをする人に加えて、グランドワーカー(ロープで安全確保をする人)が必要。
- ・人員は、木登りと安全確保、機材運搬などを考慮すると3人以上欲しい。人員が多ければ、木登り技術を身に付ける人材育成の機会にもなる。
- ・木登り作業は、安全且つ丁寧な作業の為には1日に1本が理想で、多くても1日2本程度を限度としたい。
- ・人工巣については、事前に下見をし、繁殖の可能性が見込める場所を選定し巣を丁寧に築きたい。
一方で、都合により理想通りの作業ができず、皆さん苦労されることも多いようです。
- ・人員が確保できず、少人数で作業せざるを得ない。
- ・丁寧な作業やアクシデント対応を考えると余裕のある工程にしたいが、短時間で複数回の木登り作業を求められることがある。
- ・場所や資材等が限られ、繁殖の見込みが薄い人工巣を架設せざるを得ないことがある。
全体の話し合いを通して、各社で抱える望みや悩みがほぼ一致しており、確認できて良かったという声が聞かれました。これからは、より安全を確保して作業できるように業界内で連帯していきましょう、ということで意見が一致しました。
4.人工巣の架設方法
猛禽類の繁殖については、未だ解明されていない部分、個別の条件に左右される部分も多くあります。そうした中での、人工代替巣の架設方法について共通認識と試行錯誤している内容について話し合いました。
〇人工巣の架設
人工巣の巣材については、想定利用種に適した素材、太さ、大きさなどを選択します。自然巣の利用を中止させる手段としては、視覚的に閉鎖したり、物理的に封鎖するなどの方法が紹介されました。また、モニタリング調査では、カメラを木に設置して、人が近寄らずとも確認できるようにしています。そのための取り付け機材も紹介されました。
〇木登り調査の際の配慮
人工巣の架設やモニタリングなどでは、木登り作業が必要になります。なるべく猛禽類の繁殖や周囲の環境に影響を与えないように、木登りの方法や時期、場所について配慮した上で実施しているという点は、各社とも共通していました。
〇人工巣の利用状況について
猛禽類の繁殖には不明な部分が多いため、中々思った通りにはいかないことがある、という共通の悩みがありました。同じ巣を繰り返し利用したり、意外な場所で繁殖を始めたりといった悩みは、人工巣の利用状況についての「あるある」のようでした。これに対しては、猛禽にとっては巣の場所が最も大事な要因なのではないか? という意見が出ました。人工巣に限らず、知見の更なる蓄積という観点から、会社を跨いだ横断的な共有を望む声も上がりました。
おわりに
今回のワークショップを実施したことで、人工巣架設作業に関する認識や知見の共有を図ることができました。このような有益な場を設けて頂きました、株式会社地域環境計画の嘉藤様、FRSコーポレーション株式会社の菰田様に厚く御礼申し上げます。なお、当日午後には引き続き、合同安全講習会も実施いたしました。そちらの実施報告も合わせてご覧頂ければ幸いです。