- 目次
- ・現地調査前日:トラップの設置
- ・1日目午前:樽水ダムでの現地調査(全体)
- ・1日目午前:樽水ダムでの現地調査(各班)
- ・1日目午後:同定作業
- ・1日目:各班の様子と講師の感想
- ・2日目:ワークショップ
- ・2日目:各班の食物連鎖図と講師の感想
- ・終わりに
環境教育プログラムご協力報告
2021年に引き続き、今年も株式会社青葉環境保全さん主催の環境教育プログラムにご協力させていただきました。昨年は秋でしたが、今年度は夏の開催です。エコリスでは全項目の調査員が参加し、講師として生物調査、種の同定、食物連鎖図の作成のお手伝いをしました。当初は生きものの活動が活発で、気候も良い6月に現地調査を行う予定でした。しかし、新型コロナの関係で延期に。予備日の7月にずれこむことになり、現地調査当日は厳しい暑さになりました(とはいえ、当初の現地調査予定日も記録的な猛暑だったのですが…)。昨年は雨と寒さ、今年は暑さと、自然相手ではなかなか思いどおりにはいかないと改めて感じさせられましたが、ひとつの事故もなく無事に全日程を終了することができました。ご協力いただいたみなさま、そして参加者のみなさまに感謝申し上げます。
当記事では現地調査、ワークショップの2日間にわたるプログラムの様子をご報告します。
※このプログラムは、令和4年度子どもゆめ基金助成活動です。子どもゆめ基金は平成13年4月に創設された、国と民間が協力して子どもの体験・読書活動などを応援し、子どもの健全育成の手助けをする基金です。
■子どもゆめ基金 https://yumekikin.niye.go.jp/
■子どもゆめ基金助成活動情報サイト:自然環境調査体験プログラム2022
○プログラムの概要
1日目の現地調査は昨年同様、樽水ダムです。今年度は、午前に現地調査を行った後、午後はエコリス社内で持ち帰った標本や写真から「種を同定」する作業を行いました。同時に、図鑑を用いてその種の「食性」も調べていきます。この作業でわかった確認種の一覧と食性の情報をもとに、宿題として「食物連鎖図」を作成していただきました。
2日目のワークショップでは、種の確認位置を改めて植生図と重ねた地形図上におとし「環境情報図」を作成した後、ワークショップ用に編成しなおした班としての「食物連鎖図」を作成し、発表していただきました。
- 1日目:2022年7月10日(日)
- ・午前 項目別の班で現地調査
- ・午後 種の同定と食性を調べる
- 2日目:2022年7月23日(土)
- ・環境情報図、食物連鎖図を作成して発表
- 対象:高校生(23名 / 定員15名)
- 専門班:①植物 ②鳥類 ③魚類・底生動物 ④両生類・爬虫類・哺乳類 ⑤昆虫類
- 調査地:樽水ダム
◇活動プログラム告知・募集チラシ
今年は定員を越えるたくさんの方にご参加いただきました。本プログラムは高校生を対象としていましたが、熱意のある中学生の方からもお申し込みがありました。お会いしてみるとみなさん生きもの好きだということがよくわかり、そのような方々に多く参加していただけたことを大変嬉しく思います。
現地調査前日:トラップの設置
2022年も事前に魚類、哺乳類(ネズミ類)の特別採捕許可を取得し、前日にエコリスの調査員が樽水ダム周辺にトラップを仕掛けました。近年頻発している、局地的な雨が強く降るなかの作業となりました。
・魚類ははえなわ、定置網を樽水ダム流入部の増田川に設置。
・哺乳類はシャーマントラップを2か所に各20個以上、センサーカメラを2台、一晩設置しました。
・昆虫はライトトラップ、ベイトトラップを設置しました。地面を這う昆虫を対象にしたベイトトラップは穴を掘り、そこに誘引用の餌を入れたプラスチックのコップを置きますが、私はそれにトウガラシをふりかける係になりました。誘引用の餌はいい匂いがするため、タヌキなどがいたずらをしてしまうことがあるそうです。そのため、トウガラシや、タバスコを少し入れて被害を防ぎます。
1日目午前:樽水ダムでの現地調査(全体)
2022年7月10日(日)、天気は晴れ。朝はややひんやりとした空気が流れていましたが、日射しが強く、日中はだいぶ気温が上昇しました。熱中症対策としては、各自で飲みものを持ち歩くのを推奨したほか、青葉環境保全のスタッフさんが各班にひとりついて給水係になってくれました。また本部にはテントを設置して日陰を確保し、体調不良者が出た場合に備えました。
○魚類トラップ
はじめに、全員でトラップを確認です。まずは魚類。胴長を装備した魚類・底生動物班が川に下り、トラップを回収しました。今回は残念ながらあまり大きな魚はかかっていなかったのですが、はえなわにかかったブルーギルをナマズが丸飲みするという一幕がありました。ナマズの貪欲さに驚くとともに、今回のプログラムの目標のひとつである、生態系食物連鎖を理解するためのよい一例になったのではないかと思います。
○哺乳類・昆虫トラップ
続いて哺乳類と昆虫のトラップ解説と回収です。両爬哺班、昆虫班の講師がトラップについて解説し、みなさんにはトラップの近くによって実際にどういうものかを確認していただきました。昆虫ライトトラップの箱に入っている中央の昆虫はヘビトンボ科です。哺乳類のシャーマントラップでは、アカネズミとヒメネズミが捕獲されており、2か所に仕掛けたセンサーカメラではタヌキ、テンの姿が確認されました。確認時刻をみると、獣たちが夜中から朝方にかけて活動していることがわかります。
干支の一番目が子年であるように、ネズミは人間にとって古くからの非常に身近な生きものといえます。しかし生きた野生のネズミの姿をみる機会は現在ではほとんどないのではないでしょうか。野生動物全般、不用意にさわることは控えたほうが良いですが、実際にみるととても可愛らしいです。ただし、ネズミのような身体の小さな生きものは人間の感覚とは異なる世界に生きています。人間にとってはなんでもない気温の変化だったり、ほんの数時間、食べものを口にすることができなかっただけでも簡単に死んでしまいます。生きものを観察する際には自分の都合を優先させるのではなく、できるかぎり生きものに優しい方法で行うことが大事です。そのためにも、生きものの生態を詳しく知っておくことは重要です。観察が終了した後は、野に放ちます。
○植生図について
トラップ確認終了後は、現地の植生図(現存植生図)について説明を行いました。食物連鎖図のなかで植物だけが「生産者」といわれるように、植物はすべての生きものの生命を支える基盤であり、その植物の分布を示した植生図はさまざまな環境調査の下地となります。樽水ダム調査で使用した現存植生図は環境省が行っている全国的な植生調査の結果を図示したものです。第6回調査は平成11~16年度、第7回調査は平成17年度から実施されており、現在も追加・更新されています。エコリスでも、植物調査員は調査地の「植物群落調査」を行い、現地の詳細な植生図を作成しています。
■自然環境調査Web-GIS - 生物多様性センター(環境省 自然環境局)
1日目午前:樽水ダムでの現地調査(各班)
全体での活動はここまでで、以降は、各項目の班にわかれて調査開始です。
班ごとに樽水ダムエリアの各地に散らばり、生きものを探します。
●昆虫班
私は昆虫班に同行しました。ご参考までに、昆虫班の踏査ルートを掲載します。昆虫班はまず本部近くの草地をひとまわりしました。歩きはじめてすぐに、泥がついていることが特徴のニイニイゼミの抜け殻を発見。また、モンスズメバチを捕獲しました。
※注!※ 昆虫の専門家が捕獲しています。スズメバチは刺された場合、アナフィラキシーショックを起こす危険があります。基本的に手を出さず、刺激しないでください。エコリスでは全調査員のアレルギーを調べ、必要な者はエピペンを所持しています。
その後、南側の針葉樹林帯に入り、コクサギの木についているクロアゲハの幼虫を観察しました。クロアゲハの食草は柑橘類の葉です。生きものはその種の「食べもの」があるところにいる場合が多いです。クワガタ好きの人がクヌギの木をすぐにみわけられるように、昆虫の餌となる植物の種類や特徴について知っておくと昆虫を探しやすくなります。
その後、道路を歩いて対岸へ。今回の調査ではトンボとチョウを中心に探しました。トンボ、チョウはひらけた環境を好むため、森の中よりも、むしろ林道上のほうが数多く飛翔していることがあります。捕獲したトンボ、チョウは午後の同定のために調査員が三角紙に包んで持ち帰りました。なぜ虫かごに入れずに紙に包むのか、という質問が出ましたが、動きまわれる空間があると、なかで暴れて鱗粉が落ちたり、翅が傷ついたりすることがあるからです。私も紙に包んだトンボを一匹、かばんに入れましたが(生きています)、調査中ずっとおとなしく、安全に運ぶことができました。また、手持ちの三角紙がなくなってしまったときには「お札」に包むのが「虫屋」のあるあるだという話も出ました。
川岸ではきれいな川にしかいないアオハダトンボをみつけました。ハグロトンボと似ていますが、特にオスは青く輝く翅をもち、とても美しいです。草地での調査は日差しをさえぎるものがなく、少々大変でした。小川を渡り、本部に帰投して午前中の調査終了です。
1日目午後:同定作業
午後からはエコリス事務所に戻り、昼休みを挟んだ後、各班ごとに同定作業を行いました。
昆虫班は標本として持ち帰ったトンボ、チョウを観察して、図鑑と見比べて種を同定しました。検索表のついたトンボ図鑑では、特徴をひとつひとつ確認していくことで科を絞り込むことができます。チョウは(ヒョウモンチョウをのぞけば)翅の模様から絵合わせで種にたどりつきやすく、昆虫初心者の方におすすめです。みなさんの家のまわりでも白い蝶、黄色い蝶、小さな青い蝶、アゲハ、などが飛んでいるのをみかけると思いますが、調べてみるとただの「白い蝶」「黄色い蝶」が実は一種類ではないことに驚かれると思います。特に、シジミチョウの仲間である「小さな青い蝶」はとてもたくさんの種類がいます。しばらく観察を続けて慣れてくると、飛び方や翅の色から捕まえなくても種の目星がつけられるようになります。ぜひ、良い図鑑を一冊手に入れて、身近な昆虫を調べてみてください。
種が判明したら、同時に図鑑の情報から「種名・生息環境・食性」について整理野帳にまとめていきます。今年度は「生きものを実際にみる、種を調べる」をことを主眼におき、できるだけ多くの種に、より深く接していただけるようにプログラムを設定しました。時間内に作業するには少々種数が多かったかもしれませんが、ひとつひとつの種について、生体標本と図鑑を活用し、じっくりとむきあっていただけたのではないかと思います。今回の調査で確認された種リストは以下のとおりです。
1日目:各班の様子と講師の感想
以下、講師の感想と写真をご紹介します。※(かっこ内)は講師の専門分野です。
●昆虫班
・大野(昆虫)
『暑い日差しのなか、チョウやトンボを追いかけて網を振りまわす高校生たちの姿が印象的でした。昆虫班は現地での採集に加えて、採集した昆虫の同定作業も行ったので、やること盛りだくさんの一日になりました。こんなに昆虫と真剣に向きあうことはそうそうないと思うので、参加してくれた高校生たちには貴重な経験になったのかなと思います』
●植物班
・石井(植物)
『暑いなかの現地調査でしたが、最後まで脱落者もなく調査ができてよかったです。植物的には樹林から湿性草地までさまざまな環境をまわることができました。私は初めての参加でしたが、植物に興味をもってもらうために食べものとしての利用のされ方、どれだけ危険な外来種かなど、特徴的なトピックを交えながら話すのが難しかったです。数時間のみでしたが30種程は見たかと思うので、ほんの数種でも記憶にとどめてもらうとうれしいです。環境調査という形でなくても園芸や食べものでも触れることができるのが植物の良さなので、今後自分の興味のむくかたちで親しんでみるのもいいのではないでしょうか』
・本間(植物)
『昨年度は晩秋の冷たい雨が降りしきるなかでの調査でしたが、今年は一転して、梅雨を吹き飛ばすような炎天下の日差しに見舞われました。暑さ寒さは生き物の調査を行う上では立ち向かわざるを得ない壁ではありますが、私たち調査員でさえいやになるくらいの暑さだったので、学生の皆さんにとっては非常に過酷な調査になったと思います。申し訳なく思う反面、自然を相手に仕事をすることの大変さの一部を知る良い機会だったのではないでしょうか。そんな過酷な環境下に加え、植物の調査は他の項目と比べて、専用の道具等を使用しないため、少し華に欠ける調査でしたが、学生の皆さんは真摯に調査に取り組んでくれました。また、専門用語が多く、高校生には難題である同定作業についても、私の解説に耳を傾けながら、懸命に理解しようとしている姿が印象的でした。「雑草という名の草はない」と、昭和天皇はおっしゃったそうです。"雑草"と一括りにしてしまうには勿体ないほどに、身近な植物たちにもたくさんの魅力があると思います。今回の調査や同定の経験によって、学生の皆さんのなかにある"雑草"が一つでも少なくなることを願っています』
●鳥類班
・林田(鳥類)
『現地調査では、学生に渡した双眼鏡をあっという間に使いこなし、私たち鳥班の講師陣よりも早く鳥を見つけ出していたのが印象的でした。また、現地で出た鳥の生態や特定外来生物の問題等についての解説に真剣に耳を傾ける様子を見て、皆さんの自然環境に対する関心の高さに驚きました。なかには鳥の分類に興味を持ってくれた方もいらっしゃいました。調査したルートは木が生い茂り鳥を見つけるのが難しかったため、少し開けたところで鳥が通過するのを待ったほうが観察しやすかったかなというのがひとつ反省点です』
・木元(鳥類)
『鳥類調査では、他項目とは異なりなかなか生きもの自体の姿をみることができず、一瞬で飛び去ってしまったり、遠くにとまっていたりと、じっくりと観察する機会があまりありませんでした。ただ参加していた学生のみなさんは鳥に関心を持ってくれていて、調査を始めると「この声は?」「あの飛んでいた鳥は」「この声は家の近くで聞いたことある」等の積極的な声が聞こえてきて安心しました。会社に戻ってきてからの同定作業では外来生物や絶滅危惧種、食性といった少し堅苦しい話になってしまい、暑さによる疲れから眠気に襲われている方もみられました。今後はみなさんに飽きさせないよう工夫できたらと良いと思いました』
・野口(植物)
『当日は鳥類班と一緒に行動させてもらいました。今までは動かない植物を対象に調査をしていましたが、動物の調査は姿を確認するのが難しく、改めて大変だと実感しました。そのぶん、参加した高校生たちは、一生懸命飛んでいる姿を見つけようと目を凝らしたり、鳴き声を聞き逃さないようにしたり、五感を使って調査をしていたようです。また、見晴らしの良い場所で鳥を探していたので、日差しを遮るものがないなか、非常に粘り強く調査してくれました。事務所内での同定作業・生態を調べるパートでは、他項目のように個体を持ち帰ったり、写真を確認したりすることができなかったので、図鑑を調べて確認するだけになってしまいました。午前中の疲れもあって少し退屈させてしまったので、もう少し事前に準備・工夫できる点があったように思います。高校生の皆さんには、普段できないような体験をしてもらえたのではないかと思います。また、私自身、久しぶりに野外で調査をし、いい汗をかくことができました。皆様、お疲れ様でした!』
●魚類・底生班
・小池(底生動物)
『底生動物は小さく地味な生き物が多いので興味を持ってもらえるかいつも不安なのですが、瀬の石を何個も丁寧にひっくり返して虫を取ってくれたり、いろんなヤゴを捕まえてきてくれたりと関心を持って採集してくれました。おかげでたくさんの種群が集まり、高校生の皆さんにお見せすることができました。
午後の同定作業は、資料をお渡しするだけの丸投げスタイルでした。いきなり難しい作業をお願いしてしまったかなと思いましたが、どんどん種まで落とされてしまい、学生さんの観察力の高さに驚かされました。作業後には、おみやげに標本を持ち帰りたい!と言ってくれる方もおり、興味を持ってもらえたことを嬉しく思います。今後川を見た際には、水の中には魚の他にもいろんな種類の生き物がたくさん生息していたなと思いだして頂けたらと思います』
・赤池(魚類)
『学生の皆さんは生き物に関する興味・関心が高く、当日積極的に採集している様子が見受けられ、とてもやりがいがありました。しかし、採集方法を教えても動きがきごちなく、あまり魚を採らせてあげることができませんでした。そのため、前日にトラップを仕掛けるだけでなく、軽く採集してある程度の魚種を揃えておくと当日焦らずに指導のみに集中することができ、良かったかもしれません。また、魚底班ではないですが、体調不良者が出た際に迅速な対応ができていたことは良かったです。同定作業・解説は改善する余地がありました。同定・解説作業を魚類と底生同時にしてしまうと、時間に余裕がなくなってしまうように感じました。また、同定・解説をする際に眠そうな学生さんがいたので、こちらが一方的に話すようなかたちではなく、絵合わせでも良いので自分たちで同定していただくと良かったのではないかと思います』
●両生類・爬虫類・哺乳類班
・斎藤(両爬哺)
『両ハ哺班は初対面の学生さんもいるなか、和気あいあいとした雰囲気でスタートしたことがとても印象的でした。両ハ哺班では意外にも両生類の人気が高く、小さいカエルを見つけ、追いかけては逃げられて、皆さん悪戦苦闘しながら捕まえていました。自然環境調査は「生き物を探す・見つける・捕まえる」という一見単純そうな内容ではありますが、生き物に関する知識だけでなく、経験を積むことで培われる想像力、炎天下の中でも生き物を探すための気力・体力など、さまざまな能力が必要であることを実感していただけたかと思います。また、哺乳類調査では「フィールドサイン」と呼ばれる足跡や糞、食痕などの痕跡を探すため、見つけた環境や形、サイズ、におい、色などと、図鑑に記された特徴を照らし合わせて何のフィールドサインかを推測する必要があります。地味な作業ではありましたが、高校生の皆さんが積極的に意見を出しあい答えを絞っていく姿勢にとても感心しました。余った時間で糞の内容物を観察する作業は、良くも悪くも印象深い体験となったのではないでしょうか』
2日目:ワークショップ
2022年7月23日(土)、プログラム2日目のワークショップは昨年と同様、東北大学青葉山キャンパスの一室をお借りして開催しました。青葉環境保全代表の佐藤様は現地調査のベイトトラップでとらえたオサムシをきれいな標本にして持ってきてくださいました。エコリスからは両爬哺の斎藤が哺乳類の骨や毛皮のコレクションを展示しました。
ワークショップでは、現地調査での項目別の班から1~3名ずつを4つの班にふりわけ、新たなA~D班を編成して、課題に取り組んでいただきました。まずは「環境情報図」の作成です。現地調査で確認された種の、確認位置を植生図上に付箋で貼っていき、その種がいた「環境」を確認します。次に、環境類型が記載された食物連鎖図の枠に種名を入れていき、種同士がどのような食べる/食べられる関係にあるのかを考えていきます。終了後は各班ごとに結果の発表です。その後、エコリスからは各項目ごとに特徴的な生きものを1~2種とりあげて紹介し、最後に「生物多様性と生態系サービス」と題したスライド解説を行って、全体のまとめとしました。
2日目:各班の食物連鎖図と講師の感想
○A班
・小池(底生動物)『現地調査から期間が空きましたが名前や生息環境をよく覚えていてくれて、意見を出してくれたり、"推し種群"を環境情報図などに入れ込んでくれたりする様子が見られました。調査体験を通じて学生さんたちの生き物に対する理解が深まったように見られ、講師をやった甲斐があるなあと感じます。なかなか生物にかかわる仕事は少ないですが、趣味で出来るのがこの分野の良いところでもあります。山や川、博物館、動物園に行ってみたり、図鑑や本を開いてみたりと自分なりに生き物とつきあって貰えたら嬉しいです。安全に気をつけて楽しんでください』
・林田(鳥類)『食物連鎖図の作成では、生産者と消費者の関係から生き物同士のつながりを見ていきました。種によっては連鎖図中での位置づけが曖昧な場合もあり、生徒さんと一緒に考えながら大変勉強になりました。話し合いから発表まで、学生が主体的に参加してくれました。ただ、各班でまとめた食物連鎖図を発表する際に、結果を淡々と説明するのみとなってしまったため、得られた情報から何か考察ができるように講師陣でアドバイスができればよかったかなと思います。エコリス代表からは、「生物多様性」をキーワードに生き物同士の様々な相互作用や、私たちが享受する生態系サービスについて話がありました。今回の経験を通じて、私たちの生活を取り巻く環境や生き物について興味を深めてくれた方がいらっしゃいましたら大変嬉しく思います』
○B班
・赤池(魚類)『基本的には学生間で議論して食物連鎖図を作成できていた点は良かったと思います。プログラムの主旨のひとつである生物調査員という職業観を知ってもらうというよりは、学生のみなさんにとっては生物の授業を受けている感じに近いのではないかと感じました。しかし、エコリス代表が高校生にも理解しやすく、生物を保全する意義を生き物同士の繋がりを踏まえて説明した点はとても良かったのではないかと思いました』
・木元(鳥類)『ワークショップでは学生同士で意見を交換し、食物連鎖図を作成して頂きました。最初は各項目の人が淡々と作業をするといったかたちでしたが、後半はお互いに積極的に意見を交換し合い、全員が納得する良い食物連鎖図ができたと思います。この生物は何を食べているか、真剣に話し合っていて、私自身も悩んだり調べたりするなかで発見があり、とても勉強になりました。最初は緊張もあってか、班のメンバー間に距離を感じたため、講師だけでなく学生のみなさんにも自己紹介をして頂く等、お互いになじんでいただく時間があると良いと思いました』
・野口(植物)『各項目1名ずつで班が構成されていたので、はじめはあまり学生同士の会話がありませんでした。最初に項目ごとに確認種とその生態を説明してもらったのですが、発表する人以外はただ聞いているだけになってしまったので、写真や図鑑を見せるなどすれば多少楽しめたのかもしれません。食物連鎖図で、各種を仮に位置づけしたあと、全員にペンを持たせてそれぞれの繋がりを自由に引いてもらいました。途端に全員が積極的に動き、「これはこれを食べるかな?」という相談も自然としていました。意外と自由に作業できる時間があるといいのかもしれません。また、中心的に話し合いをしていた生徒が、発表者に自ら名乗り出てくれて、感心しました。学生たちに自主的に学んでもらいたいと思う反面、そういった環境づくりもうまくやらないといけないと思いました』
○C班
・石井(植物)『その種がどんな場所にいたか、こちらから尋ねると見つけた環境をしっかり覚えていてくれて、環境情報図を作る作業がスムーズに進んでよかったです。また、昆虫に詳しい学生、鳥に詳しい学生がそれぞれ知識を持ちよってくれたことで、協力体制がとられていました。食物連鎖図はイラストを交えてわかりやすく伝えてくれました。きれいな食物連鎖図を作りたいあまり、とっていない種を追加していたことは秘密です。2日間楽しい時間をありがとうございます。お疲れ様でした』
・斎藤(両爬哺)『C班は両ハ哺班の学生さんがいないグループでした。他項目の調査をした皆さんが両ハ哺の位置づけも考えながら作業してくださり、両ハ哺調査を担当した身としてはとても嬉しかったです。C班の皆さんは画力が高く、イラストも交えた個性的な食物連鎖図を作り上げていました。「絵が上手」=「対象をよく観察する力がある」と考えています。みなさんにはその長所をこれからも磨き続けて頂きたいです。また、現地調査とワークショップを通じて食物連鎖や種子散布など、生き物同士の関わりについて耳にしたかと思います。これを機に高校生の皆さんが生き物や生き物同士の相互作用について興味・感心を抱いていただけると嬉しいです。その他にも、生物多様性や生態系サービスの話にも触れ、人間活動と自然環境について考える場面も多かったかと思います。今回のイベントが、環境調査員になる・ならないにかかわらず、環境保全や生物多様性について各々の意見を持ち、どのように関わりたいか、生き物と共存するために何ができるかを考えるきっかけとなりましたら幸いです』
○D班
・大野(昆虫)『私たちの班では環境情報図を環境ごとにしっかりと作製し、これをもとに食物連鎖図を作成していきました。作業を進めていくうちに、食物連鎖の中間に位置する生物間の関係性がなかなか見出せず、時間ギリギリまで苦戦を強いられました…。発表では班ごとでまとめ方に個性が出ていて、特に食物連鎖図の生物間の関係性の部分は、自分の班と見比べながら耳を傾けていました。生き物を単体で見るのではなく、全体を俯瞰して関係性をみる機会がこれまでにあまりなかったので、私にとっても良い経験になりました』
・本間(植物)『昨年度は学生の皆さんが考えてきた発表を聞く、という傍観スタイルでしたが、今年度はグループワークという形で、講師陣も取りまとめに参加することができました。実際に学生の皆さんと会話をすることで、食物連鎖などについての理解度や、生き物への興味の深さなどを窺い知ることができて良かったと思います。ただ、食物連鎖図作成の際には、自分の中の模範解答に近づけようと、口を出しすぎてしまったのは反省点のひとつです。また、グループワークが苦手な学生さんや、理解度が浅い学生さんへのアプローチの仕方が難しく、上手くフォローできなかったことも課題だと感じました。今後同様の機会があれば、学生の皆さん全員が主体となって活動できるよう、サポートに徹したいと思います。今回の調査や食物連鎖図の作成は、あくまできっかけにすぎません。もしこの活動を通して、やっぱり生き物や自然が好きだな、と感じてくれたら、その好きを、興味を、知識をどんどん広げていってください。皆さんの今後のご活躍に期待しています』
終わりに
2022年の環境教育プログラムでは、ひとつひとつの種をしっかりと観察すること、そして食物連鎖という生態系の枠組みをとおして、環境のなかで生きものたちがどのような関係性をもって生きているのかを理解していただくことを目標としました。生きものを相手にする際に重要なのはなによりもまず、自然のなかで、自分の目や耳で「観察」し、直に接することです。「観察」は知識の基本であり、そうして手に入れた知識は、本やネットで手に入れた知識とは質が違います。もちろん、経験が少ないために「浅い」観察しかできない、あるいは誤った解釈をしてしまう、ということも起こり得るため、絶対視は危険ですが、それでも実体験というものはさまざまな物事に対するうえで非常な強みになると思います。実体験があるからこそ、本やネットの情報に対して、それを鵜呑みにするのではなく、「本当にそうか?」と疑問を持つことも、「本当にそうだ」と深く納得することもできる――そういった自分なりの芯を持つことができます。ぜひ、今回の体験をきっかけに、野外に飛びだしていってほしいと思います。
今回のプログラムでは、標本を持ち帰ることのできない項目の図鑑での同定作業や、ワークショップの進め方など、まだまだ不慣れな部分があり、エコリスとしては改善すべきところが多々ありました。講師陣もふだんの業務としての調査とは違う、さまざまな刺激をいただき、大変勉強になったようです。反省点は今後に生かしていくとともに、積極的に動き、学ぼうとしてくださった参加者のみなさまに感謝申し上げます。2日間、大変おつかれさまでした。