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オオコオイムシの繁殖戦略

2011年3月8日
文:動物調査室 井上 堅
Wild Animal Research Office, Tsuyoshi INOUE

背負った卵の秘密

妻から預けられた子供が1/3の確率で自分の子供でない。
そんな気苦労ばかり多い繁殖システムが進化したら世の男性はどんな気持ちでしょうね?
これ幸いヒトについての話ではないのでご安心を。オオコオイムシという水生昆虫の話。水田のような浅い水辺でオスが背中に卵塊を背負っているあの昆虫のことです。

オスのDNAとそれらオスが背負っている卵のDNAを比較した結果、判明したそうです。難しいことは良く分りませんが、判別に利用したマイクロサテライトというのはゲノム中に普遍的に存在している塩基配列群で、最近の科学捜査ではDNAマーカーとしてよく使われています。

「Entomological Science」によれば、そのDNAマーカーで遺伝子型を特定した9個体のオスとそれらが背負っていた卵との関係を調べたところ、背負っている卵塊のうち自分の子でない卵の割合は平均すると28.4%。まぁそれもショックですけど、個体によりその割合は実に様々、100%他人の卵という個体もあったようです。いわば、行きずりの女と一夜を共にしてから数年後、「これあなたの子供よ。あとはよろしく」そんな詐欺のような話です。

筆者も述べてますが、オオコオイムシのオスは卵を背負っている間、飛翔はできず、移動や捕食者からの回避を困難にさせます。それでもこうしたユニークな繁殖手段が進化したのはなぜでしょうね。確かに配偶者以外の個体にも卵を預けることはリスク分散につながります。しかし、100%他人の子を育てる場合もありうるなんて……。別種とはいえオスにとっては涙ものの話ですね。
それと蛇足ながら同属のコオイムシではどうなのよということも気になります。
興味を持った方は以下の論文をご覧ください。

出典

  • Entomological Science (2011) 14, 43-48 Paternity analysis in an egg-carrying aquatic insect Appasus major (Hemiptera: Belostomatidae) using microsatellite DNA markers Katsushige INADA, Osamu KITADA and Hiroshi MORINO Abstract
上記出典より一部試訳

コオイムシの卵はオスが飼育するために産み付けられていると考えられていた。ところが、もしオスが無関係のオスの卵を運ぶなら、卵の運搬行為は運搬者の適応度を極度に低下させることになる。 この研究では489個の卵と、それらを運搬した9個体のオスとの遺伝的関係を調査。その結果、卵の28.4%は別のオス由来のものであることが判明した。 托卵は産卵の機会を増やせるので、メスにとって有利だ。あるいは卵塊がはがれるリスクを互いに補いあっているのかもしれない。

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