デジスコと動きのある被写体
野鳥撮影で人気のデジスコ(※フィールドスコープとデジタルカメラを組み合わせたもの)ですが、一般的には、もっぱら動きを止めた被写体や、どこに現れるかがあらかじめ分かっている被写体を撮るために使用されており、あまり飛び物を撮るためには使われていないようです。
動きのある被写体を追うには、手持ちの一眼が適しており、デジスコに比べて撮影写真のコントラストや解像度も高いのですが、遠くの飛び物を記録撮影する時等は、倍率の高いデジスコの方が有利です。例えば、1km先を飛ぶクマタカを撮った時に、望遠レンズ装着の一眼では、翼の欠損状況等はほとんど分かりませんが、うまく撮れたデジスコなら、欠損状況が分かり、かなりの精度で個体識別を行うことができます。
今回は飛び物を撮る方法と撮影テクニック、及び機材の選び方についていくつか御紹介します。
デジスコで飛び物を撮影した例
飛び物を撮る方法
1.雲台の上にスコープを2本並べる
狙う被写体に対する距離を想定して、2本のスコープの視野の中心が同じものを捉えるように調整する。両者の仰角の微妙な違いは、デジカメをセットした後に、スコープの取付け座に薄いものを挟み込むなどして調整する。
スコープを2本並べ、視野を調整する
2.デジカメをセッティングする
デジカメのフォーカスモードをマクロに設定し、フォーカスモードを広く設定する。空抜けの被写体を狙うのか、背景のある被写体を狙うのかによって、適正になるように露出も設定しておく。大体のピントはあらかじめスコープで合わせておく。
※以降にも出てくるデジカメとは、全てコンデジのことです。
マクロモードに設定
3.撮影する
被写体を捕えたら、デジカメをセッティングしていないほうのスコープを覗いて、被写体を捕捉し、レリーズ等を押して、ピントはデジカメに任せて撮影する。上記の撮影及び設定方法は、猛禽類等、どこにでるか分からない遠目の被写体を、じっくり待ち伏せて撮影するのに向いています。飛び物を撮るには、もう1本のスコープの代わりに照準器を利用する方法もありますが、デジカメのフォーカス可能範囲内に捉えるのがなかなか難しい印象でした。
被写体を観察しながら撮影
照準器を使う方法の例
機材の選び方
a.デジカメ
デジスコの撮影結果を最も左右する機材はデジカメと言っても過言ではありません。デジスコに適したデジカメを使ったのか否かということが勝負を大きく左右します。デジカメ選びのポイントには主に下記のものがあります。
◆a-1.レンズ性能
最も大事なのはレンズです。よいレンズを使っているものに越したことはありません。よいコーティングが施してあるつくり込んだレンズを使用したデジカメによって、デジスコでもよい描写が得られます。
CalZeiss社製レンズ
LEICA社製レンズ
◆a-2.画像処理性能
次いで大事なのは画像処理性能です。高性能のCCDを使用している機種が良いです。1/1.7や1/1.8等の、大きめのサイズが良いです。1/2.5のように、小さくなってくると、描写性能も低下します。
◆a-3.フォーカス性能
どのような撮影距離まで撮影が可能かという、撮影可能範囲と、フォーカススピードが重要です。両者を兼ね揃えた機種が良いです。動きのある被写体に対して、この両者が重要となってきます。
撮影可能範囲は、広いものが良いです。例えばマクロモードで、3cmくらいの近距離から∞までピントが合う機種なら、スコープのピントが多少甘くても、デジカメの方でかなりピントを合わせられます。
フォーカススピードは、できれば速いものがいいです。ただし、速さのために撮影可能範囲を限定していたり、ピントが甘めになっていたりする機種もあるので注意が必要です。
◆a-4.専用アダプターの有無
スコープと接続するためのアダプターを自作しない場合は、既成の専用のアダプターが利用できる機種を選ぶ方がよいです。様々なデジカメに対応する汎用性の高いものも市販されていますが、専用のものと比べると軸の固定具合等、甘くなってしまうものも多いようです。
◆a-5.その他
その他にも画素数や連写性能等がポイントになると思われますが、上述したポイントと比較すると、二次的なものと言わざるを得ません。特に、新製品のコンデジは、画素数等が多くても、レンズのつくりやセンサー等が、従来販売されてきた製品に比べて劣っているものもあるようです。一眼との住み分けというか、2極化が進んだためかも知れません。
以上のポイントは製品のカタログに載っている仕様の一覧表で大体判断することができますが、フォーカスの速度や正確さ、また、撮影画像の質感等は、実際に手にとって見ないと分からないものです。またレンズのコーティングの種類等、特殊な技術については社外秘としているメーカーもあるようです。
b.スコープ
◆b-1.光学性能
光学性能の優れたスコープほど、高い描写を引き出すと思われます。
◆b-2.大口径か、小口径か
遠くのものを大きく撮りたい場合や、高倍率でも明るくシャッタースピードを速くしたい場合は大口径のものを使うのがいいと思います。また近くのものを狙い、被写界深度を得、ピントを安定させたい場合は小口径がよいと思います。
◆b-3.接眼レンズ
デジスコ用の接眼レンズなら、デジカメによってはアダプターが使用できます。倍率に関しては、被写界深度を得たい場合や、シャッタースピードを早くしたい場合には低めが有利ですが、遠くの被写体を大きく撮りたい時には、高いものが有利です。
◆b-4.専用アダプターの有無
デジカメ選びと同様ですが、選んだデジカメに適合する専用のアダプターが出ている機種なら、アダプターを自作する手間が省けます。
デジスコ用の接眼レンズ
接眼一体型アダプター
(市販品を利用して自作)
c.三脚と雲台
三脚と雲台は、カタログ等の対加重制限を見て選ぶことが大事になります。また、雲台は動きがスムーズなビデオ雲台が良いです。
W7による撮影写真には
水彩画のような透明感があるLX2による撮影写真には
実物のような質感がある
d.機材についてまとめにかえて
私の使用機材は、デジカメはソニーのサイバーショットDSC-W7や、パナソニックのLUMIX DMC-LX2等です。両者ともレンズがいいコンデジです。雑感ですが、前者は飛び物が得意で、後者は小鳥等、割と近い被写体が得意な印象です。
スコープはニコンのED82(mm)とED78(mm)を使用しています。特にこだわりを持っていたわけではないのですが、大口径でEDレンズなので、それなりの性能を発揮してくれます。
三脚と雲台は、待ち伏せ方の撮影を行う時はスコープを2本載せるため、マンフロットのしっかりしたものを利用しています。積極的に被写体に近づく撮影を行う時は機動力を確保するため、SLIKのカーボン三脚と軽いビデオ雲台を利用し、照準器とDMC-LX2のみを据え付けて撮影しています。
以上、乱筆、乱文、また雑感も多く至らぬところではございますが、飛び物撮影における機材について述べてみました。デジカメによる描写の性格をはじめ、それぞれの機材に個性がありますので、どの機材が最高か、どの組み合わせが最高か、ということがなかなか言えないのもデジスコの面白さのひとつだと思います。
撮影テクニック
露出の合わせ方
◆空抜けで飛翔下面を撮る場合
空抜けで被写体の下面を撮る場合の露出は、被写体の下面が適正な露出となる時の液晶ディスプレイに映る空の色を、様々な天候に合わせて記憶しておくのが一番です。とは言っても、反射の強い雲が背景になっている場合等は周囲が白飛びしてしまって、適切な露出を得ることが難しいです。また、日陰になった下面を撮るのか、斜光に照らされた下面を撮るのかということによっても露出は変わってきます。
晴天なら、通常は青空に合わせた時に+1.0程度、積雪の照り返しがある場合は±0か+0.3程度で、下面の様子も分かる写真が撮れます。
◆斜面等背景が映り込む場合
測光モードにもよりますが、例えば中央重点測光等の場合、横向きの飛び物を撮影するためには、順光の林で覆われた斜面を捉えた時に-0.3程度の露出で適正になります。これも液晶ディスプレイに映る景色の露出が適正かどうかを見るのが一番ですが、斜面と狙っている被写体の出現場所の日の当り方が違うと、調整する必要があります。
透過光を利用して撮影した
コサメビタキの巣立ち雛雪の斜面が背景のクマタカ若鳥
◆絞りとシャッタースピード
デジスコは倍率が高いため、三脚やレリーズを使用しても風がある時等はブレやすいので、シャッタースピードを速くすることを心がけます。絞りで得られる被写界深度の変化はデジスコにはないので、絞りは光量調整のためのみに使用します。適正な露出に対してシャッタースピードが遅い時には常に絞りは開放にセットしておきます。最速のシャッタースピードで露出がオーバーな時は絞る必要があります。
連写or単写
デジスコでは、連射性能に関心が集まるようです。
連射すれば、動く被写体の一瞬の様々な姿を連続的に捉えられますが、私は専ら単写派です(私事で恐縮です)。動く被写体、しかも相手は動くものとなると、ピント合わせの失敗も多くなります。したがって、適正なピントを得るためには、より多くのピント合わせの機会を得た方が有利です。ゆったり旋回する猛禽類のような被写体の場合は、被写体の動きを想定して、撮りたい姿になる直前にピント合わせを終え、撮りたい姿になった瞬間にさらにレリーズを押し込んで撮影するといったことも可能です。ピント合わせの失敗はシャッターボタンを半押しする時のブレ具合にもよるようなので、半押しする時はそっと押します。
スコープ側のピントの設定
スコープのピント調整リングに目印を付け、何m~何mまでならこのピントで合う、ということを野外で確認し、使用するデジカメのピント調整能力に合わせて設定しておくと、予期せぬ距離に被写体が出現した時にもわりと反応することができます。
ピントリングに目印を付けた例
デジスコによる飛び物の撮影例
最後に、実際にデジスコで撮影した飛び物写真をご紹介します。
ミサゴ成鳥
ハチクマ幼鳥
ハチクマ成鳥♂
オオタカ幼鳥
ツミ成鳥♂
ノスリ成鳥
サシバ成鳥♂
クマタカ成鳥♀
ハヤブサ成鳥♂
メジロ
ヤマガラ
カシラダカ