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もうすぐ初鳴!

2011年3月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2014年3月1日)

春の訪れ、初鳴

今年は冬の寒さが厳しく、そして雪も多く、特に日本海側は大変な状況でした。ここにきてやっととの思いもありますが、まだまだ安心できません。そんな時期ですが、あと少しでヒバリやウグイスの初鳴(はつなき:その年初めての囀り(さえずり))が聞かれます。

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    ヒバリ

季節の移り変わりを生きものから知る

気象庁では動物の初見や初鳴、植物の開花や紅葉した日付を記録する「生物季節観測」を続けています。この生物季節観察は1953年に指針が作られ、ほとんどの観測点で共通に確認できる動植物23種と、各気象台等で別に動植物種を追加して観測しています。現在は全国59箇所の気象台や測候所で行なわれており、仙台管区気象台ではうめ、つばき、たんぽぽ等15種の植物、うぐいす、ひばり、もんしろちょう等17種の動物を対象にしています。観測結果は平年値(過去30年間)との比較も行なっており、昨年までは1971~2000年の平均値を使っていましたが、今年から1981~2010年の平均に切替えを行いました。併せて対象の動植物種の見直しを行ない、東京や大阪など大都市の気象台や測候所で観測項目が減らされました。

対象種が減っていく…

平年値は30年間に8回以上観察された事を条件としていましたが、都市化による生息生育環境の減少等で、大都市を中心に確認できない種が出てきたためです。東京の例では世田谷区の東京農大周辺で観測しているのですが、ホタルは1988年以降、トノサマガエル(トウキョウダルマガエル)は1989年以降一度も観測されていないそうです。そのため、都市部の気象台で対象種(観測項目)を減らす必要にせまられたということです。「生物季節観測」については過去50年以上のデータが蓄積されていますので、温暖化監視等のためのデータとしても有用だと思うのですが、対象種そのものが生息できなくなってしまうとは…。

囀りと地鳴き

昨年(2010年)の仙台でのウグイスの初鳴は2/23(平年値は3/14)、ヒバリは3/15(同3/19)です。今年はまだまだ寒いので遅れそうではあります。
ウグイス・ヒバリ等鳥類の囀りについてはどんな意味があるのでしょうか。囀りは繁殖期の雄が発する声のことを言いますので、ウグイスの「ホーホケキョ」は囀りです。一方、秋や冬にウグイスがだす「チャッチャ チャッチャ…」という声は地鳴きといいます。

鳥の声を文字にするのは難しいのですが、カッコウは誰でも知っている「カッコー カッコー…」ですが、オオヨシキリの「ギョギョシギョギョシ…」やセンダイムシクイの「チヨチヨチヨチヨビー チヨチヨチヨチヨビー…」は解ってもらえるでしょうか?また囀りかどうか判断に困る声もありますし、人によって意見がわかれるものもあります。その代表例は写真のキジバトの「デデッポッポー デデッポッポー…」ではないでしょうか。鳥の囀りは一般的には美しい声とされていますので、キジバトの声はお世辞にも美しくない。そのため囀りには入れたくない!(私もそう思っています)。

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    キジバト

鳥が囀る理由、4つ

ではなぜ鳥は囀るのでしょうか?一般的には次の4つの役割があると考えられています。
まず一つは繁殖するためのなわばりの宣言です。他の雄を排除し、繁殖する場所を確保、防衛するために囀ります。二つ目は雌をなわばり内に呼び込むことです。つがいになった雄は独身の雄の半分程度の時間しか囀らないという結果もあります。三つ目は二つ目の役割に近いのですが、同じ種類の雄雌を間違いなく出会わせることです。鳥の図鑑を持っている人はカッコウ類(カッコウ、ホトトギス、ツツドリ)やムシクイ類(センダイムシクイ、メボソムシクイ、エゾムシクイ、イイジマムシクイ等)の写真を見てください。それぞれよく似ていています。静止している写真を見てもなかなか見分けがつきませんが、実際は野外を飛びまわっていますので、なおさらです。鳥類調査員泣かせの種類です。しかし、外見が似ている種ほど、それぞれの囀りは全く違います。調査員も囀ってくれれば間違うこともありませんし、雌も同種の雄と間違わずにつがいになれます。

最後は同じ種の囀りも微妙に違いますので、個体の識別に利用されているようです。隣接するなわばり雄の聞きなれた囀りには余り反応せず、侵入者の新たな囀りには敏感に反応し排除行動を起こす種も知られており、無駄なエネルギー消費を抑えているようです。

歌って着飾る鳥のオス

多くの場合、美しい声で囀るのは雄です。また、きれいな色、派手な羽をもつのも雄です。なぜ雄なのでしょうか。今まで書いてきたように雄は雌を呼び込み、縄張りを防衛するために、囀ったり、派手な羽を身につけています。逆に雌はなるべく目立たないように地味な色合いの羽を身にまとっています。雌は多くのエネルギーを使って卵を産み落とさなければなりません。そのためには、その前後で囀りや縄張り争いをしている場合でありません。雄がかまえた縄張りで、産卵や子育てを行うほうが得策です。重要なのは雄の選び方ではないでしょうか。産卵したはいいが、その後縄張りに他の雄やつがいが入ってきたのでは、子育てもままなりません。生物の究極の目的である子孫を後世に残すことは出来ません。逆に雄の立場に立つとどうでしょうか。優秀な雌を選ぶことより、数多くの雌と出会い、交尾の機会を確実に、あるいはより多く持つことが重要になります。そのため、精一杯着飾って、きれいな声で囀り続けているのです。

しかし、例外もいます。タマシギやミフウズラは雌がなわばり防衛したり大きな声で鳴いたり、さらにはきれいな色の羽を身につけています。このように雄雌の役割分担が逆転しており、抱卵や子育ては雄が行います。ただ、さすがに卵を産むことはできません。

鳥の囀りは朝早く

囀りは早朝に行なわれる事が多いです。なぜ早朝なのでしょうか?理由の一つとして、空気の乱れの少ない早朝だと声がよく通り、より遠方まで囀りが届くといわれています。太陽が昇ると、照らされた部分とそうでない部分に温度差が生じ、空気が乱れて音が伝わり難くなります。また、早朝の明るさでは、餌をうまく見つけられないため、その時間をつかって重点的に囀った方が効率的と考えられています。他にも、縄張りへの侵入者は早朝に多いとの観察結果もあるため、早朝に囀ることは縄張り防衛上有効にはたらくとも言われています。いずれにしても夜型人間の私にはちょっとつらい早朝観察です。

鳥の声が響きわたる未来を願って

鳥の囀りを考えてみましたが、まだまだ解らないことがいっぱいです。ただ、解き明かしたい生物の不思議はいっぱい残っているのに、生物季節観測の対象種のように減少、あるいは絶滅してしまうようであれば観察、研究もできません!生物の絶滅速度は加速度的に増えています。ウグイス、ヒバリやオオルリ等の囀りがいつまでも、いつまでも聞かれることを祈りつつ…。

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    オオルリ

  • 【参考資料】
  • 樋口広芳、朝日新聞社、鳥たちの生態学、1986年、87-99頁
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