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カエルの合唱

2011年7月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2014年7月1日)

夏の夜のBGM

今の時期、田んぼでは蛙の合唱が聞かれます。鳴き声の主はアマガエル、シュレーゲルアオガエル、トノサマガエル(仙台ではトウキョウダルマガエル)などです。夜になるとうるさすぎる位の音量になります。

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    アマガエル

塩水のカエルへの影響

今年は状況が少し違う田んぼがあります。海岸に近いところの田んぼは、津波による海水の流入やヘドロが堆積し、あるいはまだ瓦礫や車・船が散在していて、とても米が作れる状況にはありません。地盤沈下により0メートル地帯や、それに近い場所があり、満潮時に海水が流入してしまい、干潮になっても水の抜けにくい場所も見られます。また、用排水路や下流の排水機場が津波により壊されてしまい、排水することが出来ずに、田んぼそのものは大丈夫なのに水の入れられない場所もあります。海水の流入した田んぼは、水を入れて代掻きをして排水して、水を入れてかき混ぜて排水してを繰り返し、塩分を除く必要があります。その作業がなかなか行なえません。

田んぼを生息地としている蛙たちも、水がなければ産卵が出来ません。しかし、塩水では浸透圧によりカエルの体から水分が抜けてしまい、カエルのそのものが生きていけません。産卵のために集まっても、田んぼに入れません。カエル好きの私としては、ちょっと心配になっています。私は南仙台の西側(西中田)に住んでいますので、津波の影響はありませんでした。近くの柳生地区の田んぼはいつもの年のように水が入り、田植えが行なわれ、苗もすくすく育っています。夜に出かけてみると、今の時期は例年通りうるさいくらいの蛙の合唱です。

津波後の田んぼで鳴くカエルたち

津波に襲われた場所では、カエルの声は聞かれるのでしょうか?気になって調べに行ってきました。ただ、瓦礫撤去等の震災復旧の邪魔になっては申し訳ないので、作業が終わる夕方に現地に入りました。現地の田んぼは当然の事ながら田植えは行なわれていませんし、所々瓦礫や車、そして船なども片づいていないところもありました。また水の溜まっている所も多くあり、雨で少し希釈されたにしてもまだまだ塩分が高そうでした。このような状況ですので、蛙の声は聞かれないだろうと、半ば諦めていました。夜になり再び現地に入り、車の外に出ました。海まで直線で1km程度と近い事もあり、また周辺の生活音は全くと言ってよいほどありませんので、波の音が響きわたっていました。津波の事も思い出され、また周辺は街灯などの灯りが全くありませんでしたので、少し恐怖も感じました。このような中ですが、所々でアマガエルの鳴き声が聞かれました。数を数えてみると11個体でした。地図を見てみたのですが、見回りを行った面積は約1平方キロメートルでした。鳴いていないものもいたと思いますので、10個体以上のアマガエルが津波にも負けず、生き残っていてくれました。数は極わずかでしたが、少しだけホッとできました。

冬眠中に津波が襲来

津波の襲来した3月11日、この場所のカエル達は冬眠中です。アマガエルは田んぼの土の中や、民家の庭先の石や落ち葉の下などで冬眠しています。あの津波に巻き込まれながら、どのように生き残れたのでしょうか?さらに内陸側に入ったところ(海岸から直線で3㎞付近)では、より多くのカエルの声を聞くことができました。この場所も津波が押し寄せたところですが、海からの距離があったぶん影響は少なかったようです。この場所ではアマガエルの他にシュレーゲルアオガエルの声も聞くことができました。さらに、内陸に入ると、水の入っていない田んぼ周辺でもカエルたちの声はさらに多くなっていました。田んぼは作られていないのですが、セリ田や水の流れている水路もあり、畦の草地からの声も聞こえてきました。ただ、いつもの年と同じように作られていた柳生地区の田んぼとは比較にならないくらいの少なさでした。

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    シュレーゲルアマガエル

水田環境が小さな生きものたちを支えている

田んぼに水が入ることで、多くの生物にとっての生育・生息環境が整います。圃場整備が進み、乾田化してしまっている場所も多いので、水は必須です。カエル以外でも赤とんぼの仲間や、ドジョウやメダカ等の小魚にとっても大切な田んぼですので、今後の回復に期待します。ただ、津波の影響は間違いなく甚大です。偶然に生き残ったカエル達も、今後環境が回復しなければ、卵を産む場所もなく、それにより子孫が生まれず、寿命が尽きればせっかく生き残れたのに絶滅してしまいます。来年以降もこの地域のカエルの声をモニタリングしていき、回復状況を確認していきたいと考えています。被災地にうるさいくらいの蛙の声が響き渡る日を期待しつつ…。

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