爬虫類のなかでもヘビだけは…
動物調査中に、地元の人から声をかけられました。その地域の動物について世間話をしていると、その人が突然、「今年はヘビが少ないようだが、地震の影響?」と聞いてきました。私は曖昧に「そうですかね、あまり気にはなっていませんが…」
私はヘビが嫌いです! 同じ爬虫類のトカゲやカメは大丈夫なのですが、どうして足がないのに前にすすめるのでしょう! どうして不意に現れるのでしょう! どうして私を驚かせるのでしょう!(生物調査屋の言葉とは思えませんが…)。私のような人はヘビの調査に向いていると思います。ヘビの出そうな場所がわかりますし、そのような場所を歩くときは、いつもの調査以上に目や耳を使い、神経を集中させています。普通の人であれば気がつかない場所にいるヘビも、目についてしまいます(早くヘビの出ない季節がくればいいのに)。
ニホンヤモリ
気になるヤモリ
ヘビは嫌いでも、気になる爬虫類がいます。それはヤモリ(ニホンヤモリ)です。東北地方にも分布している事になっていますが、私は東北では見たことがありません。先月、埼玉県南部に住む娘の所に行ったとき、14階建ての高層アパートの最上階で見つけました。前は九州に旅行したときに見ただけでしたので、久しぶりの再会でした。娘曰く、この辺には普通にいるとの事でした。ただ14階で見たのは初めてとのことで、カメラがあれば撮影したかったです(残念!)。
足裏の毛で壁にはりつく
ヤモリの足の裏には、指下板と呼ばれる幅の広い鱗の列があり、この部分にかぎ状の小さな毛が無数に生えています。このかぎで、樹木や岩、民家の外壁やガラスの表面の凹凸をとらえて、垂直な壁や窓、天井にも平気ではりついて移動します。14階まで登ってきたのでしょうか? あまり高い所には登らないのではとの話も聞いたことがありますが、近くにあったエレベーターを使ったのでしょうか? 謎です。
人の近くで生活する
ヤモリの生活圏は人と密接に関係していて、民家や人間活動に伴い温度が保たれる場所にいるようです。九州の西海岸を除き、人家から離れたところでは見られず、取り壊された民家から冬眠中の個体が見つかることもあることから、暖房によって暖められた壁の隙間や天井裏で冬眠していると考えられています。そのため今のように暖房が無かった昔は、越冬できなかったのではないでしょうか。そうであれば、今後も地球温暖化と相まって、さらに分布を拡大して、仙台でも普通に見られるようになるかも知れません。東北地方では酒田が代表的な生息地とされ、近年は鶴岡まで分布を拡大しているようです。また福島の梁川、盛岡で記録があるようです。東北地方のヤモリの生息情報をお持ちの方は、是非お知らせ下さい。
家や井戸の守り神?
ヤモリは人家やその周辺で生活していることもあり、その家を守ることから家守、屋守と書き、ヤモリと呼ばれるようになったようです。ちなみに姿の似ているイモリ(アカハライモリ)は井守からきていて、井戸を守る、水中で生活しています。ちなみに名前や姿が似ていますが、ヤモリはヘビやトカゲの仲間の爬虫類、イモリはカエルやサンショウウオの仲間の両生類ですので、お間違いなく。
また、爬虫類によくみられる特性ですが、卵が孵るまでの温度が通常より高い、あるいは低い場合はほとんどがメス、中温域ではオスにかたよるという、変わった性質をもっています。ちなみにヤモリの中温域は28℃です。
アカハライモリ
自然のなかで生き残っていくために…
どうして厳しい条件だとメスになるのでしょうか? 聞きかじりと私の勝手な解釈ですが、生物の究極の目的は自分の遺伝子を後世に残すことです。そのためにはメスが有利です。生まれた子供は、確実にお母さんの遺伝子を持っていますが、お父さんの遺伝子を持っているかは…お母さんのみぞ知る(怖!)。全てメスになれば良い? それでは子孫を残せません。また、遺伝子の中でも優秀な遺伝子を残すことが、その先有利に働きます。オスはメスを獲得するための競争があります。競争に勝ち残った優秀な遺伝子が次代に引き継がれます。人間でも同じ事が言えるのではないでしょうか。今の時代に生きている私たちは、全て優秀なはず…。
優秀なはずの人間ですが、今回、大自然の前ではなすすべがありませんでした。まだまだ未熟です。もっと謙虚に。これを教訓として、前よりもより良い状況に立て直すことでできれば、私たちも少しだけ賢くなれるのではないでしょうか。
- 【参考資料】
- 日高敏隆監修『日本動物大百科 第5巻 両生類・爬虫類・軟骨魚類』(平凡社、1996年)64-71頁