冬と春の境目
平成27年3月24日、仙台は朝、雪が積もっていました。西の方ではソメイヨシノの開花宣言、北の地方では吹雪とのこと、東北の春はまだ先でしょうか。
通勤途中の道端にはツクシが顔を出し、仙台の長町駅前では夏鳥のツバメを見たとの情報も流れてきました。一方で冬鳥のジョウビタキがまだ会社のそばの立ち木に見られたりもしていて、冬と春のせめぎ合いの様相です。
マンサク
マンサクに春の気配
先週の日曜日(3/15)に、春を探しに名取市の高舘丘陵を歩きました。シジュウカラやヤマガラのさえずりがきかれ、風はやや冷たかったのですが、そこそこ春の気配が感じられました。その時に見たのが、上の写真の花です。早春の樹木で一番早く咲く花、真っ先に咲く→まずさく→まんずさく(東北訛り)→まんさく、になったと言われている「マンサク」です。
また、下の写真のように枝に黄金色の花をたくさん咲かせるため、イネの豊作にみたてて、豊年満作のマンサクと言われるようになったとの説もあります。もうひとつ、花びらが写真のようにクシャクシャでねじれていて(仙台弁では「もじゃぐれてる」)、しなびて実の入っていないシイナ(稲の実の入っていな種子)のようにも見えますが、シイナでは凶作を連想し縁起が悪い(忌み言葉)ので、この反対の満作からマンサクとなったという説もあります。
マンサク(花)
忌み言葉で変えられた名まえ
忌み言葉で少し脱線します。水辺に生えている植物の葦(あし)ですが、日本にはいたるところに生えており、豊葦原(とよあしはら:豊かに葦の生え茂った原の意味)は、日本国の美称です。
ところが、「あし」は「悪し」と発音が同じということで、「善し」と同じ発音の「葦」(よし)に変えられてしまいました。鳥のオオヨシキリやコヨシキリ、葦簀張(よしずばり)は「よし」ですが、パスカルの「人間は考える葦(あし)である」は「あし」ですよね。標準和名は「ヨシ」ですので、ここではヨシと呼びたいと思います。
他に似たようなイネ科の植物でツルヨシ、クサヨシもありますが、アイアシという種もあります。また、琵琶湖の周辺のヨシ業者は、ヨシよりもやや乾燥したところに生えるオギの事を、ヨシと比べて商品価値がないので悪し(アシ)と呼んでいるようです。ヨシは枯れた茎の中が空洞ですが、オギは海綿状のものが詰まっているので、重い割には空気の層が少なく、断熱性に劣るのでしょうか…。ついでにヨシには、葭、蘆(芦)、葦と三種類の漢字がありますが、まだ穂の出ていない若い状態を葭、穂が出そろう前を蘆(芦)、成熟したものは葦と使い分けているようです。ヨシ(アシ)はなかなか奥が深く、そして何が何だか、さらにはヨシアシも解らなくなってきました…。
カエルの卵
本文に戻って、高舘丘陵の散歩の続きです。林道の水たまりにカエルの卵(卵塊:らんかい)がありました。生みたてほやほやの卵と、寒天質が膨潤し、卵の黒い部分が細長く、オタマジャクシの形に近くなっているものもありました。このような卵を産むのは本州、四国、九州ではニホンアカガエルかヤマアカガエルです。ニホンアカガエルの卵は、寒天質がやや濁っていますが、ヤマアカガエルは透明感があります。また、産卵後間もないニホンアカガエルの卵塊は固くハリがあり、手のひらにのせても崩れ落ちることはありません。一方、ヤマアカガエルの卵塊はやや柔らかく、手のひらにのせると指の間から、寒天質がずり落ちます。
ヤマアカガエル(卵塊)
冬眠を中断して産卵するのはなぜ?
アカガエル類は、北方起源で寒さに強いカエルです。また、早春に産卵し、再び冬眠することが知られています。それは、なぜなのでしょうか。まずは冬眠についてですが、答えはすぐに思いあたります。そうです、早春には餌となる昆虫などがまだ活動していないからです。餌がいないのであれば、無駄に起きている事はありませんね。それでは、なぜわざわざ冬眠を中断して産卵するのでしょうか。諸説ありますが3つほど解説してみます。
まず産卵時期は無防備になりますので、天敵であるヘビ類が冬眠している間に産卵してしまえというものです。鳥類のサギ類も天敵になりますが、川で魚を取っていた方が有利なのでしょうか、早春の山際の水田でカエルを狙っているような場面は見られません。
次にオタマジャクシの立場で考えてみます。これも天敵である肉食の水生昆虫や他のオタマジャクシがいない時期に、産卵、孵化することで水田や池を独り占めにできます。天敵もおらずまた食べ物も豊富です。オタマジャクシは水底の藻類や有機物をそぎ取るように食べますが、餌を選んでいるのではなく、口に入るものは何でも食べる、というのが正しいようです。オタマジャクシやカエルの卵も食べます。そうです、共食いです。そのため既にオタマジャクシがいる水場や卵のある場所に産卵されると、それらの餌になる可能性があります。実際に産卵するメスはこのような場所を敬遠する傾向があることも知られています。自然界では、如何に自分の遺伝子を後世に残すかが勝負ですので、アカガエルのメスは出来る限り早く産もうとするのではないでしょうか。ただあまり早く産み過ぎると、寒波の襲来により氷結し、死んでしまうリスクもあります。その微妙な時期を狙って産卵していくことになります。
ヤマアカガエル(卵:拡大)
カエル探偵
仙台近郊では2月下旬頃から産卵が見られますが、年によって差があり、また場所によっても違いが出ます。この差は温度に関係しますので、桜前線ならぬカエル産卵前線となります。このカエル産卵前線はカエル探偵団(カエル研究者やカエル好きが集まっている任意団体)のホームページから確認できますので、興味のある方は以下をどうぞ。
両生類保全研究資料室 http://kaerutanteidan.jp/
地球温暖化で産卵時期が早まっているとの話もあり、検証のためにも是非データを充実させたいと思っています。私も探偵団員です。東北地方でアカガエルの産卵をみつけたら、連絡ください。
林道わきの水たまりに卵を見つけて、春の訪れを喜んだだけだったのですが、卵を産んだ親ガエルの気持ちが少しだけわかったような気がしました。また、これから競争を生き抜かなければならないオタマジャクシたちの事も気になっています。人間と同じですね…。(カエルには花粉症はないのでしょうか…。今年はつらい!)
- 【参考資料】
- 福山欣司、『冬に産卵するアカガエル』(自然保護2007年1.2月号.日本自然保護協会)p.8-9