みどり美しい季節
目に青葉、山ほととぎす、初がつお。
江戸時代の俳人、山口素堂の作です。今の時期を視覚、聴覚、味覚のそれぞれを使って、するどく表現している句と思います。もともとは「目に」の後に「は」が入り、目には青葉、山ほととぎす、初がつお、が正しいようです。
素晴らしい俳句ですが、問題作とも思います。五・七・五が俳句の基本ですが、「目には青葉」では六音です。俳句の世界ではままある事のようですが、字余りです。これは許容範囲として、次が問題です。
学校で俳句は季語を一つ入れて、五・七・五で作りなさいと教わりました。皆さんもそうだと思います。季語は「青葉」「ほととぎす」「初がつお」…二つならまだしも、三つです。とはいえ、本当に緑の美しい良い季節になりました。
青葉
ホトトギス
色のふしぎ
人の目から緑に見える木々ですが、動物からはどのように見えているのでしょうか。青葉の緑、黄色のタンポポ、そして真っ青な空、自然界は色々な色であふれています。あらためて、色って何なのでしょうか。
万有引力で有名なアイザック・ニュートンですが、光の色の研究でも功績を残しています。プリズムを通した光が虹色に分かれることから、全ての色の光を混ぜ合わせると白色光になることを明らかにしたのもニュートンです。色々な絵の具を混ぜるどんどん黒色に近くなるのに、光では白色になるなんて不思議です。
虹は本当に七色?
ニュートンは雨上がりの空に架かる虹の色が七色とした人でもあります。皆さんも虹は七色ですよね。「赤橙黄緑青藍紫(セキトウオウリョクセイランシ)」と暗記した事を思い出した人もいると思います。日本や韓国では七色ですが、アメリカやイギリスは六色、中国、ドイツは五色、ロシアや東南アジアは四色と、それぞれの国で違っています。確かに紫から赤までグラデーションになっていますので、何色かは各自の感覚で決まります。日本人の「虹は七色」は学校で教えてもらった(教えこまれた)結果と思います。
色は波長、みえる色は視細胞による
現在は色の違いは光の波長の違いであらわされることがわかっています。人間の目は380~780nm(ナノメートル:1/1,000,000mm)を見ることができ、380nmの紫から780nmの赤色まで虹色と同じようなさまざまの色を識別できます。人の目の内部には網膜があり、そこに光を感じて視神経に伝える、視細胞という組織が層状にあります。
視細胞には2種類あり、色を感じる錐体(すいたい)細胞と明暗を感じる桿体(かんたい)細胞があります。この錐体細胞には波長の長い赤色を主に感じるものと、中間の緑色を感じるもの、そして短い波長の青色を主に感じるものの三つがあり、それぞれが協力(?)して中間色を含めて、自然界の色々な色を識別しています。この赤、緑、青が光の三原色です。
赤、緑、青ですべての色を表現
例えば黄色は黄色そのもの以外にも、赤と緑を混ぜた場合にも黄色に見えます。後者のように赤と緑から黄色、赤と青から赤紫、緑と青から青緑、そして赤と緑と青から白を作りだしているのが、テレビモニター等の映像です。
昔はブラウン管、最近は液晶やプラズマ等と変化していますが、原理的には同じで赤、青、緑の三色の光の強弱で全ての色を表現しています。子供の頃にブラウン管を虫眼鏡で拡大して赤、緑、青の点々を確認したことがある人も多いと思います。テレビやパソコンのモニター等に映された映像が自然界の色と同じように見えるのは、人間に目にある赤、緑、青の3色の識別する錐体細胞があるからです。人間以外の動物にも同じ視細胞があれば、テレビも同じように楽しめるのですが、他の動物では状況が違うようです。
紫外線をみることのできる目
モンシロチョウなど、ある種の昆虫類や鳥類は4種類の錐体細胞を持っていて、紫外線を見ることができます。私たち人間は紫外線を直接見ることはできませんが、モンシロチョウに紫外線を当てるとオスの羽が黒く見え、明らかにメスとは異なります。そのため紫外線を見ることができるモンシロチョウは、決してオスメスを間違えることはありません。また、タンポポの花を紫外線写真で見ると中央部が黒くなっています。これは蜜が紫外線を反射して、モンシロチョウが蜜のありかを確認する事に役立っていると考えられています。
糞や尿は紫外線を反射する!
チョウゲンボウという鳥がいます。猛禽類のハヤブサの仲間です。ネズミ類等の小型哺乳類を捕食します。餌となるハタネズミは、尿や糞で匂い付けをして、自分通り道にマーキングする習性があります。糞や尿は匂い以外にも残念なことに紫外線を反射します。
そうです、チョウゲンボウはこの紫外線をも見て、捕獲効率を上げているのです。猛禽類は視力も優れていて、イヌワシなどは人間の10倍程度の視力を持っているといわれています。この優れた視力に加えて紫外線による探知ができるのですから、ものすごいことです。ただ、ハタネズミは現時点で絶滅が危惧されていませんので、ハタネズミ側にも違った防衛能力か繁殖能力があると思います。他にも紫外線を繁殖や餌の確保に使っている種も多くあると考えらえますが、残念ながら人の目には見えません。紫外線が見える動物たちに世界がどのように見えるのか、それをどのように利用しているのか、聞いてみたいものです。
チョウゲンボウ
哺乳類の多くは「赤」がみえない
人や霊長類の一部の種は3つの錐体細胞を持っていますので三色覚です。実はほとんどの哺乳類は二色覚です。赤を感じる錐体細胞がありません。夜間にムササビなどの哺乳類を観察する時に赤いセロファンをまいた懐中電灯を使っています。赤色は感知されないので、影響を与えることなく観察できるからです。夜の赤い光(赤ちょうちん)に敏感に反応するお父さんたちとは大違いです。
哺乳類は爬虫類から進化し、恐竜時代には肉食恐竜から身を守るために主に夜行性になりました。夜の暗がりでは色の識別よりも、明暗の違いを分かった方が有利です。暗がりに隠れることで生き延びられます。ただ、視細胞の種類を多く持っている方が有利なわけではありません。
中米コスタリカのクモザルやオマキザルでは、二色覚のサルの方が周囲の色に溶け込んでいる昆虫類を捕まえる能力が高い、との報告もあります。人間の女性の一部に四色覚の人がいるいのではとの話もありますし、デザイナーや画家、写真家などの色彩感覚が必要とされる職についていつ人の中にも、違う色彩感覚を持っている人もいるかもしれません。ただ、もしそのような人がいたとしても、個人の見え方を比較する事は不可能です。あなたが見ている赤と、私が見ている赤が同じだと仮定して、この世の中が成り立っているのです。
みえないものをみえるようにできるのが人間
視覚の話は奥が深いです。人間の視覚だけでも理解できないのですから、他の動物の視覚についてはなおさらです。紫外線を感じて餌を効率的にとるチョウゲンボウの話をしましたが、まだまだ人間の知らないところで、色々な光が色々な生き物に色々な形で利用されていると思います。生物の不思議な能力を突き詰めていくことで環境問題の克服や、新たな環境ビジネスにつながるのではと期待しています。何しろ人間は、目に見えないもの(紫外線)を見えるようにするカメラレンズを作りだせる生き物です。何もなくても、その先に面白そうな何かがあれば、頑張れる変な生き物です。ただ私は頑張れるか…。
- 参考資料
- 野島智司『ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界』(青春出版所、2012年)