残暑見舞いにペンギンの話
今年の暑さは別格!お盆前はそんな話が聞かれていました。が、その後は涼しいですね。ただこのまま終わるとは思えませんので、9月に入ると厳しい暑さが復活!(しないでほしいのですが…)。それを見越して、残暑見舞、ペンギンの話です。少しでも涼を感じられればよいのですが…。
北海道にいるペンギン(?)
日本にいるペンギンは水族館や動物園で飼育されているものだけで、野生にはいません。しかし、北海道にいる、オロロン鳥の別名を持つウミガラスは「ペンギンと呼ばれた鳥」の近縁種です。「ペンギンと呼ばれた鳥」…それはすでに絶滅したオオウミガラスという鳥です(写真の中央・右から4番目)。
- ※「ペンギン(食玩)コレクション」のペンギンたちの種名は左から以下の通りです。
- ・コガタペンギン
- ・エンペラーペンギン(雛)
- ・ケープペンギン
- ・イワトビペンギン
- ・キングペンギン
- ・オオウミガラス(元祖ペンギン)
- ・アデリーペンギン
- ・エンペラーペンギン(成鳥)
- ・ジェンツーペンギン
ペンギン(食玩)コレクション
元祖ペンギン・オオウミガラス
オオウミガラスはチドリ目ウミスズメ科の鳥で学名はPinguinus impennisです(別の説をとる学者もいますが)。属名のPinguinusが現在のペンギンの語源になっています。北大西洋から北極海に分布していましたが、乱獲がたたり、1840年代から1850年代頃に絶滅してしまいました。人を恐れず、動作が鈍いことから、人間に簡単につかまり、食用肉以外にも羽毛や燃料油、あるいはランプ用の油として利用されたようです。
絶滅したオオウミガラス
羽毛採取のくだりは日本のアホウドリに似ていますね。幸いアホウドリの方は順調に回復していて、現在2,000羽以上に増え、絶滅の危機はひとまず回避されました。
オオウミガラスの絶滅は、現代のように絶滅危惧種の保護や保全の考え方がなかった時代の話です。はく製にして手元に置いておきたいという資産家や標本収集家、あるいは博物館が高値で買い取る等の話もあり、一獲千金を狙った人も多くいて絶滅が加速したとの話もあります。残念ですが事実ですし、その後、カナダ東部のニューファンドランド島周辺から凍死体が続々と発掘されたことで、はく製の価値も下落したという、皮肉な話も残っています。
現在のペンギンとの関係は名まえだけ
15世紀から16世紀にかけての大航海時代、マゼラン、コロンブスらがヨーロッパから、インド・アフリカ大陸・アメリカ大陸などに進出していきました。その時、南アフリカ沿岸でケープペンギンなどが発見され、その姿がヨーロッパなどの北大西洋に生息する元祖ペンギン(オオウミガラス)と似ていたことから、同じ種と考えられていました。その後、18世紀に南極大陸などで多くのペンギンが知られるようになりました。
さらにその後、北大西洋の元祖ペンギンが絶滅したため、南半球のペンギンにその名前が引き継がれ、現在のペンギンとなりました。オオウミガラスはチドリ目ウミスズメ科、一方のペンギンはペンギン目ペンギン科と全く別の種です。オオウミガラスからすれば、今のペンギンたちはペンギンモドキ目ニセペンギン科では…。
ウミガラスにも絶滅の危機が…
日本に生息している元祖ペンギンの近縁種、ウミガラスは、前述しましたがその鳴き声からオロロン鳥とも呼ばれています。右の写真です。岩場で直立している姿はペンギンに見えるのですが、繁殖期以外は海上に浮いていますので、直立した写真が手元に有りませんでした。
このウミガラスにも絶滅の危機が迫っています。生息地は、北海道の日本海側にある天売島(てうりとう)。以前は道南の松前小島や根室地方のユルリ島、モユルリ島でも繁殖していましたが、1983年以降は天売島以外では確認されていません。1938年に天売島が海鳥の集団繁殖地として天然記念物に指定されたときには4万羽が生息していたとの記録があり、その四半世紀後の1963年には8,000羽に減り、1972年と1975年の環境庁の調査では1,117羽と470羽と激減しています。
ウミガラス
水中で網にかかってしまう海鳥
近年ではさらに数を減らし、毎年20~50羽前後が確認されているにすぎません。減少の主な原因としては、1960年代から70年代にかけて島周辺で盛んに行われたサケ・マス流し網漁業による混獲があります。ウミガラスは潜水追跡型の採餌方法をとり、水中で両翼を羽ばたかせながら横方向にも魚を追いかけまわします。10~20mは普通に潜り、最大水深は80m程度と言われています。そのため、海鳥の中でも漁網にかかりやすく、おびただしい数が犠牲になったと想像できます。流し網とはいいますが、ウミガラスなどの海鳥にとっては、水の中のカスミ網ですね。
カモメ・カラス・ネコも天敵
さらに数を減らしたウミガラスを追い詰める悪い奴らがいます。オオセグロカモメとハシブトガラスです。これらはウミガラスの卵や雛を捕食する天敵です。ウミガラスの繁殖個体群が減ったことで、集団での防御が出来ずに、襲われやすくなったと考えられます。天売島でも野生化したネコが増えてきており、ウミネコが捕食されています。野良猫もさらに増えればウミガラスへの脅威となることが懸念されます。
近年はわずかに増加傾向
一方で保護・保全の活動も講じられています。天敵のカモメ等から繁殖個体を守るための、繁殖営巣用擬岩の設置や、かつての繁殖岩にコロニー復活のためのデコイ(鳥模型)を設置し、鳴き声を流しての誘因も行っています。近年では天敵のオオセグロカモメ、ハシブトガラスの駆除も行われているようです。
その成果があらわれ始めたのか、昨年(2014年)の巣立ち数が11羽と久しぶりに二桁となりました。環境省北海道地方環境事務所が公表しているデータを右表に示します。これを見ると2000年以降減少傾向にあり(1950年代以降激減しているのですが…)、2004~2007年は飛来しているものの、産卵しなかったり産卵しても雛がかえらなかったり巣立たなかったりと、極めて危険な状態でした。ここ数年はわずかに増加傾向がみえていますので、このまま増えてほしいと願っています。
エトピリカも危険な状態
保護・保全活動によって、なんとか日本(天売島)での絶滅は免れていますが、サケ・マスの流し網漁があり、カモメ、カラス類や野良猫の増加等もあり、元祖ペンギン(オオウミガラス)の二の舞になる可能性はいまだに高いです。
流し網にしても人間が行っている行為であり、カモメ、カラス、野良猫の増加も、ごみの問題や野外放逐等、結局は人間に起因していると思います。今回は話に触れませんでしたが、右の写真も元祖ペンギン(オオウミガラス)と同じウミスズメ科のエトピリカです。名前は聞いたことがあると思います。ウミガラスと同じように日本では北海道に生息していて、同じように絶滅が危惧される種です。エトピリカについてもいずれ取り上げます。
残暑見舞いのつもりでしたが、少々重い話題になってしまいました…。
エトピリカ
- 【参考資料】
- 寺沢孝毅『オロロン鳥 北のペンギン物語』(丸善ライブラリー099、1993年)