今年の干支は申…サルに近い生きものの話
あけましておめでとうございます。平成28年最初の「不思議な生きものがたり」です。年の始めのタイトルはめでたいものとしたかったのですが…。今回はサルの近縁にあたる変な生き物の話をします。
ニホンザルの子供:地獄谷野猿公苑
出身中学が閉校
新年早々、ショッキングな映像を見ました。私は宮城県県北の涌谷町の生まれです。昨年2015年3月、出身中学が生徒数の減少により、町の中学校と統合になり、68年間の歴史の幕を閉じました。年末に地元の友人から、中学校の閉校記念にDVDが作られているので、もし見たければ送るとの話がありました。中学の卒業から43年、父が一昨年に他界、その後実家も処分、年に数回墓参りに行く程度で、ほとんど地元との縁が切れた状態でした。中学校の創立は昭和22年(1947年)です。昭和30年(1955年)に涌谷町と合併しましたが、設立当時は箟岳(ののだけ)村立箟岳中学校です。私は26期(昭和48年3月卒業:1973年)でした。
白黒映像、木造から鉄筋コンクリートへ
懐かしい映像でもあればと軽い気持ちで見始めました。はじめはNHKのプロジェクトXばりの中島みゆきの「地上の星」の歌をバックに、校舎の全景や校庭、体育館などの施設の映像と説明から入りました。次は、「リンゴの唄」とともに第一期からの卒業集合写真が流れ始めました。当然白黒の映像で、画質もいまひとつでした。順次映されて、26期の2組の映像は私の記憶に残っていました(卒業アルバムは何度かの引っ越しで何処かへ行ってしまいましたが…)。合間に運動会やイナゴ取り、野外炊飯等の学校行事の映像もありました。木造の校舎から鉄筋コンクリート3階建てになったのは私の時代でした。
閉校記念DVD
時代の変遷、しかし…
さらに進むと映像がカラーになり、画質も上がり、映っている子供たちもピースサインが見られるようになり、時代が変わってきたと感じられました。ただ、そのころから何かが気になり始めました。各期の映像はクラスごとに撮影されていて、私の時代は4クラスありました。私の少し前までは、いわゆる団塊の世代ですので、5クラスもありました。それが4クラスとなり、しばらく4クラスの写真が続き、3クラスになり、そして2クラスになっていました。そしてあるところからはクラス表示が消えました。少子化による中学校の統廃合ですので、当たり前の映像といえばそれまでです。しかし、自分の生まれた地域の話でしたので、これが少子化の現状か!と思い知らされました。
少なくなっていく子どもたち
その後、手元にあった資料「涌谷町立箟岳中学校開校50周年記念誌:1998年」で創立後50年までの卒業者数を確認してみました。創立時の昭和20年代から30年代中頃までは150~180人程度で安定、昭和40年頃がピークで200~240名、その後少しずつ減少し、私の卒業年の昭和49年頃は120名、昭和50年に入ると100名を切り、資料最後の年の平成8年までは60~80名で推移していました。それ以降はDVD映像の通りで、徐々に減少し最後の卒業式、平成26年度(2015年3月)は男子15名女子9名の24名でした。ピーク時19期(昭和40年度)には240名、それが50年足らずで1/10の24名です。仙台に住んでいるので、気が付きませんでしたし、ましてや東京出張での人の多さには、毎回うんざりしていましたので、少子化がこれほどまでとは思ってもみませんでした。恐怖すら感じました。皆さんの周りではどうですか?
消えていくまち
「地方消滅」を思い出しました。一昨年、2014年に前の岩手県知事、増田寛也氏編著で話題になった本です。そして再度、読み返してみました。日本の人口は2008年をピークに減少し、2010年に1億2800万だった人口が2050年には9700万、今世紀末の2100年には5000万人とわずか100年足らずで現在の40%まで減少すると推計されています。出生率については戦後の第一次ベビーブームの1947~49年は4.32だったものが、2005年に過去最低の1.26となり、その後わずかに回復して2013年では1.43となっています。出生率は「一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数」を示しているので、単純計算でこの値が2.0なら、夫婦2人から子供が2人生まれる計算で、その世代の人口は維持されることになります。ただ、実際には多種多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のためには2.07程度は必要と言われています。
少子化や晩婚化に加えて、地方から東京への若者の人口流出が問題視されており、特に人口の再生産を担う20~39歳の若年女性人口の地方での減少が危機的になってきているとの事でした。老人はいるけど、若者がいない、長男は家を継いでくれたが、嫁がいない、嫁がいないので子供がいない。これが地方の農山村の状況と思います。
東北・北海道は危機的
仮に今後も現状の出生率のまま推移し、若者の都会への人口流出も同程度に続いたとすると、2040年に若年女性人口が50%以下に減少する市町村は全国で896自治体があり、「消滅可能性都市」と呼ばれています。特に東北・北海道は割合が高く、調査対象から(原発の影響があるので)はずれた福島は別として、宮城県以外の青森、秋田、岩手、山形の4県は80%以上の減少と極め厳しい予測結果となっています。宮城県についても39市区町村のうち23市町村で50%以上の減少が予測され、さらに総人口が1万人を切る南三陸町、松島町、山元町、村田町、大郷町、丸森町、女川町、川崎町、大衡村、七ヶ宿町、蔵王町、色麻町の12町村、これらの町から順次消滅していく…という怖い近未来のお話でした。対策等も示されていましたが、なかなか難しいようでした。地方の特色を生かしながら、若者(特に女性)を地元に引きつけておくことが重要と、私は読みました。最後に生物の話題で関連のある繁殖の話をします。
生きものたちの二つの戦略
生物の繁殖戦略としては、子供をたくさん産む方法と、少なく生んでしっかり育てる方法の二通りがあります。魚類や昆虫類などはたくさんの卵を産みますが、ほとんどは産みっぱなしです。そのため、他の動物に食べられたり、あるいは厳しい環境下にさらされて死んでしまいます。そのなかからごく一部が生き残り、次の世代につなぎます。次の世代でも同じようにたくさんの卵を産み、ごく一部が次世代へと引き継ぎます。厳しい環境下や生存が偶然に左右されるような場合は、このような多産の戦略をとります。これを生物学では「r戦略」とよびます。
イトヨ
人間は少なく生んで大切に育てる
一方、人間をはじめとする哺乳類や、鳥類では少数の子供(卵)を産み、餌を与えたり、外敵から守ったりと、確実に成長させる方法をとります。環境は安定しているが、競争が激しい場合や、小さく産んだものはなかなか育たない場合には、このような戦略、「K戦略」を取ります。人間も環境の厳しかった時代には多産多死(それほど多くはありませんが)、その後は多産少死となり人口が爆発的に増え、現在の少産少死に進んだといわれています。ちなみに戦略のrとKは生物の数理モデルの一つであるロジスティック式の内的自然増加率(r)と環境収容力(K)からきています。
比較的少なく生む魚もいる
多産といわれている魚類の卵数はどの程度でしょうか。正月のおせちに入っていた数の子(ニシン)は2万~4万個、タラコ(タラ)は300万~900万個、マンボウにいたっては3億個というデータがあります。もし、それらが全て育ったら…世界の食糧問題が一気に解決!などと笑い話ではすみませんよね。魚類でもトゲウオの仲間のイトヨは50~500個と比較的に少ない産卵数です。イトヨは巣を作って産卵し、産卵後の卵をオスが守るという習性があります。そのためニシン、タラ、マンボウのような産みっぱなしの魚より少ない産卵数でも次世代につなぐことができます。
寄生主にたよる昆虫
r戦略の昆虫でチョット変わったのがいます。ツチハンミョウという昆虫です。幼虫時代にはハナバチ類の巣に寄生します。数千から一万以上と数多くの卵を地中に産みつけます。孵化した幼虫は、植物の花によじ登って、そこに訪れる寄主のハナバチを待ちます。運よくハナバチが来れば、爪の発達した幼虫はそれにつかまり、巣に運び込まれます。そしてハナバチの卵を食べてから、ハナバチの集めた花粉を食べてのんびり暮らします。しかし、運が悪いと花の上で待ち人来たらず、で死んでしまいます。
ヒメツチハンミョウ
また、花にはお目当てのハナバチ以外にもチョウやハエ、アブ、コガネムシ等が飛来します。幼虫はこれらの区別ができませんので、これらにも乗っていってしまいます。またハナバチに乗ることができたとしても、オスだと巣には戻りません。オスに乗ってしまった場合は、メスと交尾する時にうまく乗り換えられれば、安住の巣にたどり着けます。生き残れるのはごくわずかな幼虫となります。このツチハンミョウはカンタリジンという猛毒を持っていて外敵に襲われた時などに脚の関節部から出します。この毒によっても、外敵から身を守り、生き残る確率を上げていると思います。
少子化は自然の流れ…?
他人事だと思っていた少子化があまりにも身近の所にありました。少子化は人間社会にとっては大問題ですが、自然界の流れのなかでは当たり前のことかもしれません。地球の規模(容量)に見合った、人口に調整するように少子化が進んでいるのでは、とも考えられます。あるいは、自然界に悪さをし続けたので、生かしてはおけぬ!と言うことで、そのまま絶滅の道をたどるのかもしれません。神のみぞ知る…でしょうか。今は、自分でできる事を着実に行っていくのみです。本年もよろしくお願い申し上げます。
- 【参考資料】
- 増田寛也編著『地方消滅』(中公新書2282、2014年)
- 自然科学研究機構国立天文台『理科年表 平成28年』(丸善出版、p862、2015年)
- 丸山宗利『昆虫はすごい』(光文社新書710、p90-101、2014年)