ecoris_logo.svg

ツバメも大忙し!

2017年4月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2024年4月18日)

スズメより「近い」鳥

東京では桜が咲いたとか。春、仙台ももうすぐです。ツバメを見かけた人もいるのではないでしょうか。仙台には3月下旬頃に渡来します。ガンやハクチョウなどの冬鳥が北に旅立ち、代わって南から渡ってくる夏鳥の代表選手です。ツバメはスズメと並んで人間に近い場所を利用しています。スズメは人家や電柱などの隙間や、庭木や住宅地に近い樹林の小さな穴などに営巣しますが、ツバメは人家の軒先や、橋梁などの人工物にのみ巣をかけます。そう考えると、スズメより人為環境に依存している種と言えます。

  • ツバメ

    ツバメ

つがいは基本的には翌年も

日本には3月頃から渡来しますが、ツバメの越冬場所は東南アジアです。前年に繁殖したつがいは、同じ場所に渡来するようです。まずオスが少し早くやってきて、前年のメスを待ちます。捕食や事故にあい、戻ってこられなかった個体もいますので、あまり待ってはいられないようです。特にメスは前年のオスが戻ってなければ、早々に次のオスを探しますし、近くによりよい(魅力的な)オスがいればあっさりと縁を切り、そのオスとつがいになります。ツバメも多くの動物と同じように繁殖の主導権はメスが握っています。

オスを選ぶポイントは?

どんなオスが選ばれるのでしょうか。人間界では容姿はさておき性格が一番、まずは付き合ってみてからということになりますが、ツバメたちは秋には南に帰らなければなりません。その間に繁殖をして子供を育てる必要があります。また、年に1回だけではなく2回、3回と繁殖するものもいます。時間をかけている暇はありません。早く決めるためには容姿が大事です。どこを見ているのでしょうか。人相がよい、鳥相がよい、と言ってもわかりにくいですよね。私なら尾羽の切れ込みが深いオスはかっこよく見えます。燕尾服にもみられるように、尾羽は注目です。事実、ヨーロッパの研究では尾羽が長いオスがモテるという調査結果があります。一方、アメリカでは尾羽の長さではなく、腹の赤い部分が大きなオスが好まれているようです。これは住んでいる場所で、亜種レベルでの形態の違いを表しています。ヨーロッパのツバメは尾羽が長く、アメリカのツバメは喉だけではなく尾長全体が赤茶色になっています。日本のツバメはヨーロッパのものよりアメリカのものに近いので、尾羽よりも喉の赤茶色の部分が大きな個体や、色彩のはっきりしている個体がモテるようです。

巣も使いまわし

つがいが形成されると次は産卵です。巣は昨年使った古巣を補修して利用されることが多く、特に2回繁殖する場合にはほとんどが古巣を使います。一から巣を作るとなると5~7日程度かかりますので、なかなか大変な作業です。補修のみで手軽に使えるなら、これに越したことはありません。デメリットとしては、ダニなどの寄生虫の発生があります。前年度の巣には寄生虫がいて、寒い冬を過ぎても一部生き残っています。そこを使う場合、抱卵中の親鳥や孵った雛に寄生虫がつきます。清潔な新居で抱卵、子育てをしたいところですが、とにかく早く繁殖をすることが優先されています。1回しか繁殖をしないグループでは多少余裕があるので、新たに作った巣で繁殖をすることも多くなりますし、2回以上繁殖するグループでは1回目の繁殖の途中から新たな巣を作り、2回目は新居で行うようです。さすがに2回目も古巣ではダニ…ダニ…ダニ…。あまり想像したくないですね。

卵は一日一個

巣は泥と枯草等で作られ、巣内には枯草が敷き詰められます。その後、交尾を経て産卵しますが、産卵2~3日前には鳥の羽毛が巣に持ち込まれます。羽毛が持ち込まれた巣があれば産卵間近と言えます。卵は1日1個、総数で5~6個産みます。カメのように一気に産んでしまえばよいようにも思いますが、親と卵のサイズを考えるとそうもいきません。親の体重は17g、卵は2g程度、卵6個で12gです。50kgの女性が6kgの超ジャンボ級の赤ちゃんをお腹に入れていて、まして六つ子となると36kg、総体重90kg、動けません。さらに1日ごとに6日連続出産など、到底できません。ツバメは凄い!

一斉に孵化できるよう調節

抱卵は3個から4個を産んだところから徐々に温めはじめ、最後の卵を産んだ後は巣内に留まり、温めつづけます。そうすることで、ほぼ同時期に雛が孵ります。でないと最大6日間の差ができてしまうからです。孵化したばかりの雛と、毛の生えそろった大型の雛が同居することになると、兄弟での餌の奪い合いなどがあり、小さいほうは死んでしまいます。親ツバメもサイズの違う雛がいれば、餌の大きさや量を気にしなければならなくなり、効率的な子育てができません。できるだけ均等に餌を食べさせることで、多くの雛を巣立たせることができるのです。

  • ツバメ(左:幼鳥 右:成鳥)

    ツバメ(左:幼鳥 右:成鳥)

餌をもらうための単純で効率的なシステム

雛になったばかりのころは餌の量も少なくて済みますが、大きくなるにつれて、餌運びが大変になります。巣内に6羽の雛がいて、餌が欲しいとピイピイと鳴いています。餌を満遍なくあげるにはどうしたらいいのでしょうか。親なら6羽の雛の顔を見分けられるはず、と思いたいのですが、見分けられないようです。どの子が一番お腹を空かせているか…。実際には、親鳥は一番大きな声で鳴いている雛に餌をあげます。当然と言えば当然なのですが、お腹が空けば鳴きます、もっと空けばもっと大きな声で鳴きます。そうです、雛たちはそうして親にアピールをしているのです。さらに言うと、一番良く餌をもらえる位置である巣のヘリに乗り出しているのです。餌をもらった雛は満足して鳴くのを止め、お腹が空いている他の雛に追いやられて、結果的に後ろに下がります。そうして時間が経ってお腹が空けば、また餌をもらうために鳴きながら前の方に出ていくのです。いたってシンプルな方法で餌の受け渡しが行われています。

繁殖期のツバメは忙しい

最初の産卵から4~5日で抱卵開始、その後2週間ほどで孵化、さらに3週間の巣内育雛を経て、巣立ちです。1.5カ月で繁殖を終えます。その後2回目、3回目の繁殖に入るものもいます。そう思うと忙しい鳥ですね。田植えの終わった水田の上をスイスイ飛んでいる姿からは想像できません。政府が目指す残業時間の上限「100時間未満(繁忙期)」…働き方改革も気になりますが、ツバメさん、◯◯さん、もう少しのんびりしてみませんか…。

  • ショウドウツバメ(ツバメの仲間)

    ショウドウツバメ(ツバメの仲間)

  • ツバメチドリ※ツバメの仲間ではありません!

    ツバメチドリ※ツバメの仲間ではありません!

  • 【参考文献】
  • 北村亘『ツバメの謎 ツバメの繁殖行動は進化するか』(誠文堂新光社、2015年)
ページの上部へ戻る▲