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夏の思いで!

2019年11月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2024年9月18日)

初めての尾瀬

自然を相手に仕事しているのに「尾瀬」に行ったことはない…とは何事か!というお叱り言葉があったとか、なかったとか。ということで8月のお盆期間中に「仕事で!」尾瀬に行ってきました。

  • 尾瀬ヶ原の木道

    尾瀬ヶ原の木道

尾瀬といえば…

尾瀬の知名度はかなり高いと思いますが、実際に行ったことのある人は意外に少ないのではないでしょうか。知名度を上げたのは、「夏の思い出」(作詞:江間章子、作曲:中田喜直)ですね。

♪夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 遠い空
 霧のなかに うかびくる やさしい影 野の小径(こみち)
 水芭蕉(みずばしょう)の花が 咲いている 夢見て咲いている水のほとり
 石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる はるかな尾瀬 遠い空
 夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 野の旅よ
 花のなかに そよそよと ゆれゆれる 浮き島よ
 水芭蕉の花が 匂っている 夢みて匂っている水のほとり
 まなこつぶれば なつかしい はるかな尾瀬 遠い空♪

尾瀬は尾瀬ヶ原と尾瀬沼を中心に、周辺の山々も含めて、豊かで多様な自然環境があり、いろいろな楽しみ方ができる場所です。よくイメージされるのは尾瀬ヶ原の広大な湿原ですので、尾瀬沼もその中にあると思っている人も多いのではないでしょうか(私もそう思っていました)。実際には、湿原と沼は5~6km程離れており、徒歩(しかありませんが)2時間ほどかかります。私が今回訪れたのは尾瀬ヶ原です。

広大な尾瀬ヶ原

尾瀬ヶ原は、群馬、福島、新潟の県境付近の標高1,400mにある盆地です。周りは2,000mの山々に囲まれているので、直接車では行けません。主なアクセスルートは群馬県片品村の鳩待峠から入る道ですが、鳩待峠の駐車場から1時間ほど山道+木道を下ってやっと湿原の入り口、山ノ鼻につきます。尾瀬ヶ原は東西に6km、南北2kmの広さがあり、山ノ鼻は尾瀬ヶ原の西端です。そこから牛首分岐、竜宮、見晴までほぼ平坦な湿原の木道を歩くこと、6㎞弱、2時間程かかります。帰りは少し遠回りし北側の樹林との境界を歩くコースにすると7.2㎞、2時間40分程で山ノ鼻に戻ります。そこから木道と山道を1時間半かけて登ると、スタート地点の鳩待峠です。合計約20㎞、7時間、日ごろから登山やハイキングを行っている人であれば、日帰りでも回れないことはありません。が、できれば1泊、あるいは私のように鳩待峠の登り口の尾瀬戸倉温泉で一泊し、朝一のバスで鳩待峠に行き、さらに尾瀬ヶ原のど真ん中の山小屋(竜宮小屋)で一泊すると、じっくりゆっくり尾瀬ヶ原を満喫できます。お盆の時期なのでニッコウキスゲの花は終わっていましたが、サワギキョウの紫色はきれいでした。ただ花もそうですが、それよりも冒頭の写真のように木道の先にどこまでも続く広大な湿地、草原。そこをゆっくりと歩く。とても気持ちよかったです。

ミズバショウの花が夏に!?

そして口ずさんだのが「夏の思い出」、少しだけ時期はずれていると思いつつ、♪夏が来れば思いだす はるかな尾瀬…水芭蕉の花が咲いている…♪ …チョッと待て、水芭蕉の花が咲いている??? 標高が高く、雪の多い尾瀬でもミズバショウの花は5月下旬から6月中旬ごろ、夏といえば7~8月。時期が少々ずれている。詩の世界では許されても、生き物屋としては気になり、調べてみました。

「夏の思い出」は昭和24年6月13日にNHKのラジオ番組『ラジオ歌謡』にて石井好子の歌で発表され、あっというまに広がりました。作詞の江間章子(1913.3.13~2005.3.12)は、尾瀬の近くの(とはいえだいぶ離れていますが)、群馬県片品村の戸倉地区のミズバショウの群落を見て感動し、あわせて子どもの頃に見た岩手県八幡平のミズバショウの思い出も重なって、この歌をつくったとの事でした。2番の歌詞の、♪まなこつぶればなつかしい はるかな尾瀬♪は、尾瀬ではなく、はるかな八幡平と思われます。終戦間もない時代に、尾瀬ヶ原を歩く人がどれほどいたかを考えると、多少のずれは許容範囲としたいと思いますし、「歳時記」ではミズバショウは夏の季語なので、詩の上では問題なしですね。ただ、実際に夏に尾瀬に行ってもミズバショウの花が見られず残念だった!との意見も数多くあるのも事実です。

花が終わるとモンスターに

ミズバショウは春、雪解けの湿地に白い可憐な花をつけますが、実は白いのは花ではなく仏炎苞(ぶつえんほう:棒状の花を包み込む苞を仏像の背景にある炎形の飾りに見立てたもの)で、本当の花は中心部の黄色いところについています。知っているよ!との声も聞こえてきそうですので、もう一言。花が枯れた後の事をご存知でしょうか? 花が枯れる(仏炎苞がしおれる)と葉っぱが伸びてきますが、この葉っぱが凄まじいことになります。ある図鑑では葉は長さ80㎝程度に大きくなると記載されていますが、実際には1mを超えるものもあり、幅も30センチ前後と巨大になります。白い可憐なミズバショウは葉が生い茂ると緑の化け物に変化してしまうのです。下の「ミズバショウ(花期後)」の写真の根もと付近に、倒れた白い仏炎苞があります。比べると葉の大きさがわかるのではないでしょうか。これからさらにグングン伸びます。

バショウという植物をご存知でしょうか、西遊記の芭蕉扇、松尾芭蕉のバショウです。関東以南では露地植えされています。熱帯植物園などで見るバナナの木を思い出してもらえればそれに近いです。このバショウの葉が巨大です。ミズバショウの名前はバショウのように葉が大きくなることが由来となっています。

  • ミズバショウ

    ミズバショウ

  • ミズバショウ(花期後

    ミズバショウ(花期後)

みなさんもぜひ尾瀬へ

時期外れの話となってしまいましたが、来年の雪解け時5月下旬~6月中旬頃のミズバショウ、あるいは6月中旬~7月下旬頃のニッコウキスゲなどの花の時期、あるいは9月下旬から10月上旬の草紅葉(くさもみじ:湿原の草本が冬枯れに向けて黄金色に染まります)の時期に皆様にも是非訪れていただきたいと思い紹介しました。鬼が笑うかもしれませんが、来年も行ってみたいと思っています。

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