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震災から5年…(3)鳥類

2016年6月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2023年10月12日)

鳥類の自主調査

前々回、前回に引き、震災から5年後の状況について、今回は鳥類を中心に報告します。いつもの仙台空港の東側から広浦の南側の地域の話です。震災前は防潮林とヨシ原、それにビニールハウスの立並ぶ畑地がありました。海までの距離は防潮林、砂浜をはさんで500m程度、北側には名取川河口に続く広浦の潟湖があり、その間にはヨシ原が広がっています。

今から25年程前の平成3年頃から、その場所の鳥を見始めました。初めのうちは足しげく通っていましたが、平成7年からは趣味だった鳥見(バードウオッチング)を本業(自然環境調査業)にしてしまったこともあり、(休日を使ってまで)鳥を見に行くことはなくなっていました。

そして、平成23年3月11日の震災を迎えました。震災後は被災地の過去の調査データなどが求められましたが、一部の場所を除いて調査、記録されていないのが実情です。そのようななか、確認種名と個体数だけですが、記録として残していました。ただ、震災直後は立ち入り規制もあり、すぐには現地に入れませんでした。震災後初めて入ったのが平成23年6月で、その後定期的に入るようになったのは9月からです。最低でも月に1回は行くようにしていて、今年(平成28年)5月までに延べ74回行っています。震災前については平成3年から平成11年で延べ76回行っていました。

  • 被災3ヵ月後の状況(2011.6.12)

    被災3ヵ月後の状況(2011.6.12)

震災前の環境

震災前の環境はヨシ原とクロマツの防潮林、水辺の近くとは思えないような落葉広葉樹の高木林もあり、また、途中に畑地はあるものの、その先まで入る人もほとんどいないため、なかなか良い環境でした。

その場所が津波により一変しました。クロマツや広葉樹の高木林はそのほとんどがなぎ倒され、見通しがきくようになりました。また、ビニールハウスのあった畑地は地盤沈下と排水機場が破壊されたことにより、湿地化しました(上の写真)。被災地の状況を考えれば不謹慎な話ですが、それはそれで良好な湿地環境となりました。ただ、良好な湿地環境は長く続く事はなく、復興事業により徐々に元の畑地には戻っていくのですが……。

その状況は「震災から5年…(1)ミズアオイ」に示した通りです。

  • セイタカシギ(2013.5.5)

    セイタカシギ
    (2013.5.5)

確認種数

確認した鳥類については、震災前には90種、震災後は平成28年5月現在104種で、震災前後を合わせ、総確認種数は119種となっています。内訳は、震災後見られなくなった種が15種、震災後新たに確認された種が30種ありました。

水辺の鳥は増えた?

数値だけをみると、震災により鳥類の良好な生息環境が増えたようにもみえますが、新しく確認された種はヨシガモ、ハシビロガモ、スズガモ等のカモ類が11種、カンムリカイツブリ、ハジロカイツブリのカイツブリ類、いままで見えなかった(見ていなかった潟湖の湖面を利用している)種や、全国的に分布拡大しているカワウやミヤマガラスも含まれていて、震災の影響だと決めつけることは一概にできません。

ただ、一時的にできた湿地でソリハシシギ、キョウジョシギ、セイタカシギ等のシギチドリ類の利用はありましたし、震災の年の11月にはコブハクチョウも飛来しました。

コブハクチョウについては、2011年12月の「白鳥の湖(湿地)」で報告しています。

  • 震災によりできた湿地に渡来したコブハクチョウ(2011.11.13)

    震災によりできた湿地に渡来した
    コブハクチョウ(2011.11.13)

樹林性の鳥・草地を好む鳥は確認できず、または減少…

一方で、防潮林が消滅したことで、樹林性の鳥であるアオゲラ、ヤマガラ、ヒガラ、キクイタダキは全く確認できていません。寂しい限りです。ショウドウツバメ、ノビタキ、ノゴマ等、渡りの途中で立ちよったと思われる種については、震災前後でも確認されています。また、草地環境を好むセッカやヒバリは個体数を増やしていましたが、ここにきて少なくなったように感じています。

これまでは、倒壊したビニールハウスや倒伏した防潮林の撤去後にできた裸地が徐々に緑に覆われたことで、草地の鳥の生息環境が拡大していました。ところが畑地やビニールハウスの復活、防潮林植林のための嵩上地の造成、防風柵の設置、さらには貞山堀の防潮水門の設置工事、および堤防のコンクリート化により、草地環境が減少に転じています。

ヨシ原の衰退

もう一つ気になることがあります。それはヨシ原の衰退です。

広浦の南側に、広い面積でヨシ原が広がっているのですが、南端はビニールハウスのある畑地に接しています。震災により湿地と化した場所を畑地として復活させるために、排水をしっかりされたようで、南端のヨシ原が乾燥化しはじめています。また前述の防潮林再生のための嵩上げ地もせまっており、一部ヨシ原も切り取られてしまいました。

  • オオジュリン

    オオジュリン

単調化する環境の見守り

ヨシ原の代表種としては夏鳥のオオヨシキリが渡来し、ギョギョシ、ギョギョシ(仰々しい、仰々しい)と大声で鳴き、繁殖を行います。また冬場の枯れたヨシ原ではオオジュリンが嘴を器用につかって茎を割り、ガの幼虫等を見つけ出しては食べています。概略的な話をしてきましたが、個々にデータを見ていくといろいろと面白そうです。ただやはり防潮堤、防風林移植のための嵩上げ、貞山堀堤防のコンクリート化等々の大規模工事、それに伴っての環境の劣化と単調化が気になります。今後も継続してこの地域の鳥を見ていきたいと思います(あと10年くらいは頑張れるか……)。

  • 津波により枯死したマツ上のミサゴ(何思う・・・・)

    津波により枯死した
    マツ上のミサゴ(何思う…)

◆広浦南部ヨシ原と貞山堀周辺の最近(H16年春)の状況写真
  • 2016年3月27日(防潮林盛土と広浦南ヨシ原)

    2016年3月27日
    (防潮林盛土と広浦南ヨシ原)

  • 2016年3月27日(ヨシ原南側) 

    2016年3月27日
    (ヨシ原南側) 

  • 2016年4月10日(隣接するビニールハウス)

    2016年4月10日
    (隣接するビニールハウス)

  • 2016年5月15日(衰退しはじめた南端部ヨシ原)

    2016年5月15日
    (衰退しはじめた南端部ヨシ原)

  • 2016年4月10日(貞山堀コンクリート堤防)

    2016年4月10日
    (貞山堀コンクリート堤防)

  • 2016年4月10日(貞山堀の防潮水門)

    2016年4月10日
    (貞山堀の防潮水門)

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