ため池浚渫時の底泥
ため池の浚渫の様子は、先々月の「13-ため池は浚渫したものの…」に書きました。その時に、さらった底泥をため池近くのくぼ地に投棄し、埋立てしました。下の写真がその時の状況です。水分を含んでいるので、どろどろの状況で、間違って足を踏み入れたらズブズブと沈んでしまいます。その後、1か月程すると水分がだいぶ抜け、表面にひび割れが見られ、足を踏み入れてもわずかに沈みこむ程度になりました。その時、植物の小さな芽生えも確認しました。底泥内に埋もれていた植物の種子(埋土種子)が発芽したものと思います。
埋め立て数日後(6/8)
埋め立て2か月後(8/1)
埋土種子
植物は種から芽を出し、成長し花を咲かせ、そして実(種子)をつけ、種は地上に落ち、また芽を出します。この一連の流れを繰り返すことで命をつないでいきます。ただ、環境の変化を感じとるまで休眠を続ける種子もあります。東日本大震災の津波が引いた後、津波でできた湿地に「ミズアオイ」という青紫色のきれいな花が突然繁茂したのを記憶している人もいるのではないでしょうか。ミズアオイは津波などによりかく乱されてできる開けた環境が好きで、そういった環境ができると、地中で休眠していた埋土種子が一気に発芽し、花を咲かせ実をつけます。そして周りに植物が増えてくると、消えてしまいます。そしてたくさんの種子(埋土種子)を土の中に蓄えて休眠し、次のかく乱(津波等)を待ちます。普段はあまり見られない植物ですので絶滅危惧種になっています。
我が家のため池の底泥、特に深いところに入ってしまった種子は、発芽できず休眠するしかなかったと思います。それが浚渫されたことで地上に出ることができました。ようやく発芽できる…と思ったことでしょう。
※参考記事:植物界の「災害遺産」ミズアオイを知る連続ワークショップ・スタッフ参加報告
ミズアオイ
埋め立て地の経過観察
ミズオアイのような貴重種が出てくることを期待しつつ、時々経過観察をしてました。以下の写真は、埋め立て2ヶ月後、8月1日に撮影した植物たちです。20cmほどに成長したヤナギや他の植物も見られましたが、植物の識別力が乏しいのでその場で同定できずに写真撮影して社内で確認してもらいました。
No.1はヤナギの仲間のタチヤナギで、たくさん生えてきていました。ため池周辺にいっぱいありますので、そこから埋土種子になったと思います。No.2、ハート形の葉はコナギですが、見つけた時は一瞬ミズアオイか?と思いました。近縁種ですので葉も似ていますが、少し小さく、花芽が葉の上まで伸びることはなく、根もと付近に青紫の花をひっそりと咲かせます。No.3はヘラオモダカです。コナギ、ヘラオモダカ、その後確認したNo.4オモダカ(9/10撮影)を含めて、すべて水田や水田周りの湿地環境に生育している種です。ため池周辺の放棄水田の草刈り時には見ていませんので(見逃している可能性もあるのですが)10年以上も前、まだ水田耕作が行われていた時の雑草が埋土種子になったのでは、と考えています。
No.1 タチヤナギ
No.2 コナギ
No.3 ヘラオモダカ
No.4 オモダカ
湿地のビオトープ
コナギ、オモダカ、ヘラオモダカ。農家の人から見れば水田雑草の最たるもので、厄介者、無くなっても問題ない種です。ただ、今回の底泥の浚渫により出てきた植物…10年以上もため池の泥の中で眠っていたかもしれないと考えると、このままにしてはおけません。せっかくですので、ため池の下流側の水田放棄地に湿地環境を作り、そこに移植しようと考えています。
現在のため池下流の水田放棄地は、草が生い茂り、乾燥化してきています。一か所、ため池からの水が流れて出ている細い水路があり、その水路沿いに小面積ですが湿地になっています。そこを少し掘り込み、水路を迂回させて、湿地環境と開けた空間を確保し、時々ため池の水を流すことで湿地環境が維持できるはず!と思っています。
移植場所の整備ができたら、埋め立て地から移植します。コナギは2ヶ所に生えていましたが、1年草です。秋には枯れてしまいますが種子を残しているはずです。その周辺の表土を移植します。オモダカは2ヶ所、ヘラオモダカは3ヶ所ありました。この2種は多年草ですので、冬枯れした根っこの部分から来春も芽を出してきます。コナギと同じように、植物体とその周辺に落ちた種子とあわせて移植します。
まずは移植場所の草刈りと小水路の造成、湿地環境の創出です。その後に移植するのですが、どこまでできるか、そして果たしてうまくいくか…。
埋め立て地はどうなった?
さて、くぼ地の埋め立てから3.5ケ月が過ぎました。2024年9月14日の状況が以下の写真です。1m以上にのびた植物が繁茂しており、冒頭の埋め立て直後の写真が信じられないくらいです。まず目につくのがヤナギ類(主にタチヤナギ)です。かなりの数の発芽が見られ、順調に成長し、このままでは厄介な事になそうです。このまま繁茂し続けると他の植物が被圧され育たなくなってしますし、この場所がヤナギ林になっても困ります。そこで思い切ってヤナギ類は排除することにしました。簡単に引き抜けると思ったのですが、根をしっかりと張っていて、引き抜けません。カマや剪定ハサミを使って根元から、一本一本切ることにしました。他の植物を傷めないように気をつけつつの作業でしたので、4時間ほどかかってしまいました。次の写真が切取り前後です。翌々日は(翌日ではない)足腰が痛かった…。
埋め立て3.5か月後(9/14)
ヤナギ類伐採前
ヤナギ類伐採後
貴重種「タコノアシ」発見!
ヤナギ類の切取り作業中に、ついに見つけました。貴重種「タコノアシ」です。環境省のレッドリスト2020、宮城県レッドリスト2024でいずれもNT(準絶滅危惧種)として掲載されています。タコノアシは河川下流域・河口域の湿地、水田周辺などに生育していて、それらの環境が減ったことで絶滅が危惧されています。ため池底泥の埋土種子から発芽したと思われます。
写真のように、緑色の植物が緑色のなかにまぎれていますので、見つけにくいです。「タコノアシ」とはなかなか変わった名前です。晩秋になるとわかりやすいのですが、全体に赤色になり、特に上から見ると花の一つ一つが茹でたタコの足の吸盤とそっくりです。来月の「季節の1枚」に掲載します。タコノアシも湿地性植物ですので、まだできていませんが、湿地ビオトープへ移植する予定でいます。
タコノアシ
花がタコの吸盤のようです
★季節の三枚(9月20日)
猛暑日・真夏日・熱帯夜に苦しめられた夏がやっと終わったようです。「クリ」の実も落ち、秋の七草のひとつ萩「ヤマハギ」も涼しげに咲いています。「ガマズミ」は鳥たちに食べてもらいたいと濃い赤色に熟し、甘酸っぱくなります(宮城の県北地方ではソゾミと言ってました。食べた記憶はありませんか?)
クリ
ヤマハギ
ガマズミ